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05.まんまと婚約者になる

三日目は彼女も参加しないということで適当に時間を潰して乗り切った。

そして四日目。

予定では参加すると聞いていたので張り切って参加するとようやく明るい場所で彼女を見ることができた。


「おー…やっぱ本物は可愛いな」


ダレンも彼女を見て感嘆な声をもらす。

光に照らされる銀髪は誰よりも美しく、真っ赤な丸い瞳はどんな宝石より輝いていた。

肖像画なんかよりずっと綺麗で、愛らしい。見ているだけで幸せな気分になる。いつまで見てても飽きない。

が、隣にいる第三王子の存在が邪魔すぎる…!

今日は彼女の婚約者だと言う第三王子がエスコートして入場してきた。

エスコートされる彼女は嬉しいのか誰が見ても幸せそうな雰囲気と微笑みを浮かべ、たまに第三王子の顔を見上げて目を細くさせて何かを喋る。


「(何であんな男にそんな可愛い笑みを向けるんだ…。婚約者だからか? 婚約者だからってタダであの笑みを向けられるのか? あんな男にそんな価値ないのに安売りするんじゃねぇよ…! 何がよくてそんな男の婚約者になったんだ。第三王子であろうと王族なのに俺に対して恐怖を感じるヘタレだぞ!? 絶対に俺のほうがいいし何より彼女を幸せに―――あ…やばい、目が合った…。可愛い…!)」


無意識に殺気を放っていたのか、第三王子がこちらに視線を向けると彼女もつられてこちらを見る。

彼女と目が合った瞬間、パッと笑顔を咲かせる。

まるで俺を見つけて喜んでるみたいで最初に出会ったときのように心臓を鷲掴みにされた。

彼女が俺を見ている。笑顔で控えめに手を振ってくれる…!

それだけで初陣のときより緊張して手を振り返すことができなかった。


「お前を見ても震えないの凄いな」

「肝が据わってんだ…アッ、目反らされた…!」


少しでも何か反応をしたい。笑顔に応えたい。

それなのに第三王子に何か言われたようで、目に見えて解るぐらい落ち込んで視線を反らされた。


「……やっぱり殺「すな。止めろ」


何を言われたかまでは解らないが、ひどく落ち込んで悲しそうな表情をしながら会話を続ける。

いや、会話と言うより第三王子が一方的に彼女に言っているだけで、彼女自身は相槌を打ちながらたまに口を開いて、また俯いて…。

彼女にあんな顔似合わない。婚約者なのに解らないのか? あいつは本当にどうしようもない男だな…!

二人の間に割り込みたいが、ダレンが必死になって止める。

どうしようもない怒りが生まれる。こんな怒り、父親を殺されたとき以来だ。

王族に手をかけるなんてもっての外。解っているけど彼女を悲しませるあの男をこの場で斬り殺してしまいたい。

だがそれと同時に、悲しむ彼女を見て少しだけ「ざまぁみろ」という気持ちも生まれる。

彼女の笑った顔が好きだが、悲しむ顔も見たい。見れて嬉しい。

彼女に騙されて、もてあそばれたんだからもっと傷ついてほしい。俺と同じぐらい心を痛めて…涙をこぼして絶望すればいい。


「―――ッだからいい加減にしろと言ってるだろう!」


困っている、悲しんでる彼女に興奮していると会場に響き渡るほどの怒声で意識を取り戻す。

誰の声かと思えば彼女の婚約者、第三王子。

周囲の貴族達も二人に視線を向け、ジッと成り行きを見守る。


「ち、違いますウィルド様…。私は「俺と言う婚約者がいるのにいつもいつも他の男に目移りばかりして…。何度言えば解るんだ!」


第三王子曰く、婚約者である彼女は誰にでも愛想を振りまき、気がある素振りを見せるらしい。

ああ、やはり彼女は悪女なのか。というか俺だけじゃなく他の男にもあの笑顔を見せたのか? それはそれでムカつくが、第三王子の言い分も解る。

愛らしい容姿に純粋無垢な笑顔。あと数年もすれば王国内一の美女になるであろう彼女に微笑まれたら誰だって勘違いするだろう。

それが気に食わないと怒り狂う第三王子に同情しつつ、自分と同じ被害者かと思えば彼女への憎しみが増していく。

会場で全員の視線を集め、愛しい婚約者に責められる彼女を見ると胸がスカッとする。

よく言った第三王子。やるじゃないか第三王子。もっと彼女を責めろ。あいつに騙された俺の分も頼む!


「ほ…本当にそんなつもりはありません…! 私はウィルド様だけを慕っておりますっ…」


婚約者を慕っている癖に俺に告白してきたのはお前だろうがっ…! どういう神経してるんだあの女は!

あとそいつのどこを慕ってんだ! 全然いい男じゃないぞ! お前が風邪を引いたのを知らないぐらい大切にしないクソ男だ! 見る目がないのは両方だな!


「今まで散々お前の言葉を信じてきたが改善する様子もなく、俺の言うことも聞かない…! まだ国内だけならいいかもしれないが、王子妃になれば外交もあるんだぞ! それで他国の男をたぶらかしてみろ、国際問題だ!」

「ウィルド様…! 私は一度も他の男性をたぶらかしてなどいませんっ」

「ああそうだな、お前は無意識でたぶらかしてたな。これからもずっとこうやって注意しないといけないと思うと精神がどうにかなってしまう…!」


ざまぁみろ!と思う気持ちと、それぐらいで精神が乱れる貧弱な王子に殺意が湧く。

だが自分にとってはいい流れだ。

あのバカ王子は嫉妬と苛立ちで冷静さを失っている。きっと彼女を捨てるだろう。さぁ、早く言えよ。


「リノレア、お前と婚約破棄させてもらう!」

「そんなっ…!」


俺が何をしなくても、手を汚さなくても最高の結果になった。

やはりあんな男じゃ彼女を大切にできない。まったくもって狭量な奴だ。

静まり返った会場に響く待ちわびた婚約破棄宣言に俺一人だけ笑いが止まらなかった。

ダレンに何か言われる前に手を口元を隠し、深呼吸をして心を落ち着かせる。

王子の発言に彼女は大粒の涙をこぼし、細い肩を震わせて何かを訴えているも王子の心には届かない。

泣いた顔を見たかった。もっと言うなら俺で泣いてほしかった。でももういい、これで彼女を手に入れられる。


「お、おいゼギオン」


婚約破棄させて、慰めて、捨てるつもりだった。泣こうが喚こうが俺をたぶらかした悪女をひどい絶望の淵に落としてやりたかった。

それなのに顔を真っ青にして一人佇む彼女を見ると嬉しさと怒りだけが湧いて、自然と彼女のもとへ向かう。

さらにざわつく会場にダレンも慌ててついて来る。


「ならば俺がもらおう」


これ以上あんな男に責められ泣く姿を見たくない。知りもしない部外者の中傷の的になってほしくない。

今にも崩れ落ちそうな彼女をその場に独りいさせるのがどうしようもなく嫌だった。

二人の間に割って入り、彼女を背中で隠してバカ王子を見下ろすと、さっきまで怒りで興奮気味だったのがすぐに鎮火してこの間のように震えて言葉を詰まらせる。


「な、なにを…」

「婚約破棄したのでしょう? なら俺が彼女をもらっても構いませんよね?」


できるだけ殺気を抑えて冷静に話しかける。


「そう、だが…。あなたのような英雄には相応しくない女だ! 婚約者がいようと他の男をたぶらかし、挙句いいように利用して捨てられたとも聞く!」

「違いますウィルド様! 私はそんなことしておりません!」

「だが実際、お前に好きと言われた男は多い! それに関しては俺も実際に見た!」

「それは…人として好きなのであって…。た、確かに勘違いさせてしまった私の落ち度ですがたぶらかしてなどおりません。本当です!」

「それが余計たち悪いと言ってるんだ!」

「第三王子殿下。怒りは十分解りますが、ここで話す内容ではありません」


そのタイミングで珍しく出席していた国王と王妃、さらに彼女の両親が登場。

静まり返る会場を察した王は近くにいた使用人らしき男から状況を聞き、大きな溜息を吐いて事態を収拾する。

先に第三王子が席を外し、両親に連れられ彼女も会場を後にした。


「おいゼギオン、俺らもお呼びだってさ」

「解った」

「あー…いいように進んだみたいでよかったな」

「殺さず済んでよかったの間違いだろ」

「本気でその計画立ててたのかよ…」


ついでに自分とダレンも呼ばれ使用人の案内で重厚感ある扉に案内される。

中に入ると国王とアドルフォ伯爵のみが座って待っていた。

よし、あとは適当に丸め込んでしまえば彼女が手に入る。あれだけ大騒ぎを起こしたんだ、確実に婚約破棄だ。

建前上の挨拶をし目の前のソファに腰をかけるとアドルフォ伯爵にお礼を言われた。

そして再度何が起こったのか説明してくれと言われたので、ありのままを話すと二人揃って溜息をもらす。


「ウィルドは幼い頃から甘やかされてきたからな…。堪え性もないうえに我儘でならん。すまなかった」

「それを言うなら我が娘もです。末っ子であるがゆえ甘やかされ、誰にでも愛情表現を示してしまう性格で…。勘違いされるから止めろ、気を付けろとあれほど言ったのに…!」

「いやいやそんな子だからウィルドも満足すると思ったから婚約者にしたのだ。まさか年を重ねるたびに嫉妬深くなってしまうとは…。そのくせ自分は他の令嬢に手を出してはあの子の愛情を確認するなど幼稚なことばかり。先ほどの話通り、今回の婚約はなかったことにしよう」

「はい、そのほうがお互いのためにですね」


思った通りあの男じゃ彼女を幸せにできないようだ。

双方納得した様子で頷き、ようやくこちらに視線を向ける。


「ゼスト様、この度は娘を庇って頂きありがとうございます」

「いえ、お礼を言われるようなことはしていません」


とにかく印象よく見せようと軽く笑みを浮かべ頭を下げると、後ろに立っているダレンが「は?」なんて言葉をもらす。


「それで…あの場でリノレアをもらう発言をしたというのは本当ですか?」

「はい。先日求婚状を渡した通り、私は彼女を好いています。辺境地ゆえ彼女に婚約者がおるとも知らず恥ずかしい話ですが」

「ほう、そうだったのか」

「ええ。元より王家に忠誠を誓うアドルフォ伯爵家にはいい印象を持っておりまして、できれば自分と同じように忠誠心の高い家の令嬢と婚約したいと思っていたところ、彼女に一目惚れして…。先日は大変失礼致しました」

「とんでもない。王家に忠誠を誓い、王国に平和をもたらした英雄からの求婚、とても嬉しく存じます」

「ふむ…。王家としては忠誠心が高い両家に繋がりが生まれれば心強いんだが…。どうだ?」

「大変ありがたい申し出です。是非」

「アドルフォ家としても喜ばしいご提案です。ですが一応娘にも聞かないと…」

「そうだな。あんなことがあったんだ、すぐに新しい婚約者をあてがっても不安だろう」

「では後日彼女との時間を作っても宜しいでしょうか?」

「勿論構いません。こちらからも先に事情を伝えておきますので……できれば一週間後でも宜しいでしょうか?」

「はい、いつまでもお待ちしております」


よし、想定通りにまとめることができた。

ただ国王の推薦もあるから惚れさせて捨てるってことは簡単にできないな…。

まぁいい。他の手を使えばどうとでも泣かせることができる。

とにかく彼女が手に入る。それだけで意識して作っていた笑顔が自然と本当の笑顔になってその後も穏やかに三人で会話を楽しんだ。

後ろにいるダレンだけは複雑そうな顔をしていたが問題ない。ああ、一週間後楽しみだ。

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