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03.初恋から愛憎へ

「ダレン!」

「うおっ!?」


会場に戻り複数の女に囲まれているダレンを呼ぶ。

女達は俺を見た瞬間すぐに悲鳴をあげて蜘蛛の子を散らす勢いでダレンから離れて行った。

やっぱり彼女とは違う。これが普通の反応だ。

それなのに彼女は俺の目を見て、そして好きだと言ってくれた…。やっぱり兄のもとに戻すんじゃなくあのまま攫ってしまえばよかった! いつもだったらすぐ決断できるのに彼女の可愛さに判断に鈍ってしまった!


「お前なぁ…。せっかく「妻ができたぞ!」………はぁ…。とりあえず妄想はお前の頭の中だけにしてくれ…」

「違うッ! 本当の話だ!」

「はいはい、とりあえず聞きましょうか」


頭でも打ったのか?と言う目で見られたが妄想なんかじゃない。

いや待てよ。あんなにも可愛いんだ…もしかしたら俺が都合よく見た幻想だった…? その可能性はある…。


「で、何があった?」


会場からバルコニーに出て先程のことを話すと少しだけ首を傾げる。


「あー…アドルフォか…。聞いたことあるな…。ハッキリ思い出せねぇ」

「みろ、俺の妄想なんかじゃない!」

「いやでもお前を見ても悲鳴あげないなんて…。しかも告白してきたとか…さすがにそれは妄想だろ」

「違うって言ってるだろ! 女神と言ってもいいぐらい可愛く笑って俺に好きだと言ってくれた…。そのあとも結婚を申し込むと目を潤ませてお礼まで言われたんだぞ! そのときの彼女は少女なのに誰よりも美しかった…」

「……お前、なんかキャラ変わった? 恋するとそんなんになんの?」

「べ、別に恋などしてない! あいつが好きだって言って普通に話してきたから…。そ、それぐらいじゃないと辺境伯の妻としてやっていけないだろ!?」

「まぁそれはそうだな。解った、朝一番に手紙出しとくわ」

「返事もその場でもらえ! 解ったな!」

「はいはい」


他にもやっておくことはたくさんある。

とりあえず屋敷に彼女専用の部屋を用意して…。………ん? 他に何が必要だ?

女が喜ぶものも用意しないといけないのに、彼女が何が好きか聞いてなかった…! くそっ、やっぱりあの兄は邪魔だったな…。斬り捨てておけばもっと彼女のことを知れたのに…。

とりあえず当たり障りのないものを選んでおいて、彼女が来たらじっくり聞いて用意すればいいか。


「ああ、アドルフォってあのアドルフォ伯爵の子か」

「っ知ってるのか!?」

「王家の犬、眠れる狼、猟犬って呼ばれてる家だよ。確か王都の隣に領地があったっけ?」

「他には!?」

「お、落ち着けって。俺もそこまで貴族に詳しくないの知ってるだろ。屋敷に戻れば解ると思う」

「じゃあ戻るぞ! もうここに用はない!」

「あー……まぁ今日はもう挨拶も終わったしな。はぁ、俺も未来のお嫁さん見つけたかったのに…」

「ダレン帰るぞ!」

「はいはい、仰せの通り」


王都から近い領地ならすぐに会いに行ける。手紙もすぐ届く!

早く彼女のことが知りたい。万全な準備も整えたい。

嫌がるダレンの首根っこを掴んで急いで王都にある邸宅へと戻った。







「―――は…?」

「やっぱお前の勘違いじゃん」


急いで屋敷に戻ってアドルフォ伯爵家について調べた。

王家に次ぐ古き血統を持つ名家。別名、王家の猟犬。

古くから王家を支え、ただ一度たりとも裏切ることなく忠誠を誓い続ける由緒正しき一族。

領地は穏やかで王都より犯罪率が低く、領地民は誰もがアドルフォ伯爵に忠誠を誓っている珍しい領地だ。

周辺の貴族ともそれなりの仲を築いているらしく、小競り合いは過去にあったものの現在は誰とも対立することなく良好な関係を維持している。

温暖な土地なせいかアドルフォ家の人間は貴族らしからぬ穏やかさを持つ。

が、一度敵だと判断すれば誰よりも早く処罰する。王家に仇名すものをいち早く見定めることから「猟犬」と恐れられている。

そんな伯爵家には四人の子供がいた。

一人は跡継ぎの長男。他国へ嫁ぐ予定の長女。王太子直属の護衛についている次男。そして昨日出会った次女のリノレア…。

まだ十五歳という未成年であったが昨日の洗礼された挨拶には目を見張るものがあった。きっと礼儀に厳しい家なんだろう。そんなところも好感が持てた。

俺の領地にきてもうまくやってくれる。そう信じて疑わなかった。


「もう一度言え…」

「はぁ…。だから、リノレア嬢には婚約者がいるから無理だってさ」


だというのにこれだ。

昨日あんなに俺のことを好きだと言ったのに? 結婚を申し込んだらお礼を言って喜んだのに?

ダレンが持っていた手紙を奪い取って自分で確認するも「次女リノレアは第三王子と婚約中」と書かれていた。

それから謝罪と形式的なお断りの文字が続いている。


「やっぱお前の妄想じゃん」

「……違う…」

「お前ほんとに求婚していい返事もらえたの?」

「ありがとう、と…。嬉しいですとも言われた…」

「ほんとかよ…。とりあえず残念だったな。ま、次探そうぜ」


妄想じゃない。確かに彼女は笑顔でお礼を言って、最後に嬉しいですと言ってくれた…。

なのに……なんで…?

もしかしてあんな可愛い顔して俺を騙したのか? それとも俺が怖くてその場限りのお世辞を…?

いやそんな様子はなかった。強がってもない。

ああそうか。きっと第三王子の婚約者が嫌いなんだ。

確かに王子妃となれば礼儀や作法、他国との外交で毎日が忙しいと聞く。それに第三王子はあまりいい噂を聞かない。


「……ダレン」

「はいよ」

「第三王子殺すぞ」

「ばっ! お前なに言ってんだよ!」

「殺せば彼女が解放されるだろ?」

「頭イかれてんな! ダメに決まってんだろ!」

「さすがに殺すのは難しいよな…。人目もつくし…。なら彼女を誘拐するしかないな!」

「頭イってんなァ! もっとダメだわ! どういう思考回路したらそんなめちゃくちゃな考えになるんだ!」


あの王子を消せば彼女が手に入るが、相手はこの国の王子。いくら第三王子だからと言って殺すのは骨が折れる。

それより彼女を攫うほうが簡単だ。

いい考えだと思ったのにダレンは真っ青になって胸倉を掴んで激しく揺する。


「そもそもリノレア嬢と第三王子の仲は良好だって言ってたぞ! 愛する者同士を引き裂くなんてマジでありえねぇから止めろ! つーか王家の人間を殺そうとすんな!」

「良好…? 彼女はその男を嫌ってるんじゃ?」

「俺そんなこと言ってねぇよ! お前ほんとにどうした!?」

「嫌いだから俺に助けてほしくて結婚を了承したんじゃないのか?」

「恋ってこえぇのな! 俺も気を付けるわ! いいかゼギオン、二人の仲は良好で昨日お前が聞いた言葉は……その、嘘だ。それかお前の聞き間違いか妄想だ」

「……俺の勘違い…?」

「そうっ。だからもうリノレア嬢のことは忘れろ。それともっと年の近い嫁さんを見つけろ。リノレア嬢といくつ離れてると思ってんだ」


彼女は嘘をついていない。俺の聞き間違いでも妄想でもない。

だとしたら…もてあそばれた…? この俺を? あんな可愛い顔して? 俺のことを好きだって言ったことも…。嬉しいと喜んでくれたのも…俺を騙して、可愛さに悶える俺を見て心の中で笑ってた…?


「ふっ…ざけんなあの女…!」

「いや彼女は悪くないだろ。お前が勝手に勘違いしたんだから間違っても傷つけんなよ」


可愛いからって俺を…男を騙そうとするなんてとんでもない女だ! クソッ、普段だったら絶対に騙されないのにあんな……あんな可愛く微笑むせいで…!

そうだ。そもそもあんな場所に女一人で来るわけがない。なのにあんなタイミングよく現れたんだからもっと疑うべきだった! 愛らしい容姿に騙されるなんて情けない…。いやいや騙すあの女が悪い!

何が目的だ? 俺を殺そうとしたのか? いや俺だってゼスト家の人間だ。王家に忠誠は誓っている。だから今回の戦争で勝利を持ち帰った。

猟犬と言われるアドルフォ家とは敵対するほど仲が悪いわけじゃない。むしろ同志だ。

じゃあやっぱり俺を騙してたってことか! せいぜいあの可愛らしさなら小悪魔程度かと思ったがとんだ悪女だ。大悪女だ! 俺をもてあそびやがって…クソが! 絶対に…絶対に許さない! あの女が泣きわめくところを見ないと腹の虫が治まらない。


「ダレンッ!」

「んだよ…。朝早く起きたせいで眠いんだけど…。無駄骨だったし」

「アドルフォ家は今日の夜会にも参加するよな」

「まぁするだろうよ。王家からの招待だし」

「俺達も一番に参加するぞ!」

「……まぁ今回はお前が主役だからいいけど…。今度はなに考えてんだ?」

「あの女が何を企んでいるか探る! それとあいつが泣きわめくところを見ないと気が治まらない!」

「どういう情緒してんだ…。もー…問題起こさないって誓えるなら好きにしろよ」

「いやっ、むしろ今度は俺が騙して泣かせてやる!」

「問題起こすなって言ってんだクズ!」

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