第2回放送【ヴァラール魔法学院、魔導書図書館について】
キクガ「皆さん、いいお昼休みをお過ごしでしょうか。今回もこの『らぢお♪がやがや冥府』をお届けします」
オルトレイ「えー、呵責開発課のオルトレイ・エイクトベルだ。今回は前回やって来れなかった新しい司会進行もいるぞ」
アッシュ「あー、獄卒課のアッシュ・ヴォルスラムだ。慣れねえけど頑張る」
キクガ「前回は仕事だったので参加できなかった訳だが、今回は参加してくれて嬉しい」
アッシュ「悪かったな。つーか、こんな面白いことをやるならとっとと呼んでくれればよかったのによ」
オルトレイ「仕事だから仕方がなかろう」
アッシュ「部下に押し付けたわ」
オルトレイ「部下が可哀想」
キクガ「前回の放送は聞いているかね? この『らぢお♪がやがや冥府』は現世の名所を紹介していくというラジオ内容にする訳だが」
アッシュ「ああ聞いてるよ。随分と楽しそうにしてたな、キクガ。仲間外れはよくねえぞ」
キクガ「すまない」
オルトレイ「寂しかったからと言ってキクガに八つ当たりすな」
アッシュ「八つ当たりなんかしてねえ」
キクガ「さて、今回も現世の名所を紹介していく訳だが。今回の名所はこちらだ」
現世の話題:ヴァラール魔法学院、魔導書図書館について
キクガ「こちらを紹介させていただこう」
オルトレイ「何と、あの魔導書図書館とな。いい話題ではないか」
アッシュ「明らかに元気を取り戻したな、テメェ」
オルトレイ「何を言う。最初から元気だろう、オレは。元気の塊だぞ」
アッシュ「はいはい」
キクガ「それではまずは、魔導書図書館の写真からだ」
オルトレイ「おお、これはなかなか」
アッシュ「図書館とか見てると眠くなるな」
オルトレイ「これだから脳筋は。お前のところの倅はよく本を読んでいると言うのに」
アッシュ「あいつは大人しかったんだよ」
キクガ「まあまあ、まずは魔導書図書館の説明に移る訳だが。それでいいかね?」
アッシュ「おう、悪いな」
オルトレイ「それではこちらだな」
ヴァラール魔法学院、魔導書図書館
名門魔法学校『ヴァラール魔法学院』の敷地内に存在する、魔導書を集めた大図書館。現在の蔵書数は3012万5844冊。
初級の魔導書から禁書まで全世界の魔導書が集まるが、魔導書以外の料理本や雑誌、小説、漫画、絵本、哲学書など多岐に渡る書籍が置かれている。
キクガ「……蔵書数が増えた訳だが。また予算で買ったな、あの真っ赤っか魔女め」
オルトレイ「司書のルージュ・ロックハート嬢だったか。この蔵書の数、しかも内容を一言一句に至るまで覚えているのだろう? 完全記憶力とは凄まじいものだな」
アッシュ「俺なんか1冊読めるかどうかも怪しいのに」
オルトレイ「キクガに提出する報告書を書くのにも精一杯だからな。大体は想像がつく」
キクガ「この前まで蔵書数は2000万そこそこだった訳だが。どうしてこんな、1000万冊以上も増えるのかね」
オルトレイ「買い漁ってるんだろうよ」
アッシュ「読書好きなんだな、その司書さんは」
キクガ「グローリア君が頭を抱えたくなるのも理解できる」
アッシュ「だけど、こんな蔵書があって探しにくくはねえのか? 3000万冊以上だぞ、目的の1冊を探すだけでも手一杯にならねえ?」
オルトレイ「世の中には探索魔法があるのだよ、アッシュ君。何だねお前、そんなことも知らん脳筋なのか?」
アッシュ「殴る」
オルトレイ「痛ッ!? な、殴ってから宣言すな!!」
アッシュ「手が滑った」
キクガ「喧嘩はよしなさい。この部屋狭いんだから」
オルトレイ「呵責開発課で作った放送設備が思いの外大きくてな。すまんね」
アッシュ「まあ、割と高性能ってのは分かるけど」
キクガ「さて、話を戻す訳だが。探すのが大変だと言っていたが、実はこれでもマシになった方な訳だが」
オルトレイ「これよりも酷かったと?」
アッシュ「どんな状態だったんだよ」
キクガ「何と、魔導書都市と呼ばれていて本当に街のようになっていたらしい。そこに本が無造作に置かれていたりとか」
アッシュ「探しにくいどころの話じゃねえだろ。俺だって本は本棚にしまってあるのが1番お似合いだと思ってるぞ」
オルトレイ「発狂していい?」
アッシュ「この狭い部屋で叫ぶな、もう1発ほしいか?」
オルトレイ「止めんか、今度は目玉が飛び出るぞ」
キクガ「自慢げに言うことではない訳だが。まあとにかく、都市の中に本が無造作に散らばっている状態では非常に探しにくいと苦情が何件か寄せられて、学院長主導で内装を変更したらしい」
アッシュ「司書のお嬢さんは動かなかったんだな」
キクガ「あの魔女はどうでもよかったらしい。本が読めればそれでいいと」
オルトレイ「まあ、結果的にこのような形式に片づけられてよかったのではないか?」
アッシュ「それもそうか」
キクガ「現在では種別ごとに本棚を整理して収納されているらしい」
オルトレイ「この図書館、行ってみたいんだよなぁ。だって3000万冊の魔導書、その他の図書だぞ。より取り見取りではないか」
アッシュ「俺は逆だな。行ったら眠くなる」
オルトレイ「お前はもっと本を読め」
キクガ「ところでオルト、この魔導書図書館には初級から禁書まであるという説明があった訳だが。その、初級から禁書というのは一体何なのかね?」
オルトレイ「おっと」
アッシュ「ここはあれだろ、ご聡明なエイクトベル家の元当主様の出番だろ」
オルトレイ「自分が答えられないからってここぞとばかりに頼りおって。まあいいだろう、世界でおよそ2番目に優しい魔法使いであるこのオレが答えてやろうではないか」
キクガ「ぱちぱちぱち」
アッシュ「ひゅーひゅー」
オルトレイ「口で言うな、馬鹿タレども。初級から禁書まで、という表現は魔導書の階級だな。危険度によって格付けされているが、こちらの通りだ」
初級:魔法初心者が読む魔導書。いわゆる魔法の教科書みたいな役割を果たす。内容を読んでも害はなく、文章内容も簡単なものが多いのでお子様からでも読める。
中級:初級よりも少しだけ段階が上がった魔導書。魔法に慣れてきた魔女、魔法使いが読む。内容は初級よりも若干難しくなっており、文章内容もやや難しめ。開いても害はない。
上級:中級よりもさらに段階が上がった魔導書。魔法に慣れた、あるいは少し難易度の魔法を学びたい魔女や魔法使い向け。内容は読んでも害はないが、少し技術が必要になってくる為に『魔導書解読』の資格が必要になる。
特級:魔導書解読の資格を有する魔女、魔法使いしか開けない魔導書。開くと体調不良に見舞われるか、魔導書自体が襲いかかってくるものが多い。魔導書そのものに魔法がかかっており、読むには所定の条件が必要になってくるので厳重保管されている。
禁書:開いたらまずい魔導書、文字通り読むことを禁じられている。呪われていたり、即死の魔法がかけられていたり、内容も使うと誰かが死ぬような凶悪なものが多い。また魔力汚染もされやすいので、シンカー試験を踏破することと所定の資格を有していなければ近寄ることすら出来ない。
オルトレイ「分かりやすく説明してやったぞ」
キクガ「非常に分かりやすい説明な訳だが」
アッシュ「テメェはこれらの本を読んだことはあるのか?」
オルトレイ「オレを誰だと思っているのだ。当然、読んだことはある。初級から魔法を学び、中級で魔法を発展させて習得し、上級を経て大人となり、特級や禁書に手を出して父親にぶん殴られたりしたからな」
アッシュ「資格がなきゃいけねえんじゃねえのか」
オルトレイ「命を顧みない子だったのだよ、オレは」
アッシュ「顧みろよ」
キクガ「それにしても、読んだら死ぬとは想像できない訳だが。どういう仕組みかね?」
オルトレイ「お前や魔力回路の備わっていない獣人のアッシュには想像できんだろうがな、魔女や魔法使いには血液を通す血管の他に魔力を通す『魔力回路』が存在するのだ。魔法を使う為に必要な神経だな」
キクガ「それは可視化されるのかね?」
オルトレイ「可視化されるぞ。魔法を使うとな、ちょっとだけ発光したりするのだ」
アッシュ「たまにこいつ、魔法を使う時に発光するよな。おそらくそれだ」
キクガ「何と。見たことあるのかね」
アッシュ「まあ、目がいいから。発光するって言っても、本当に気づかない程度だぞ」
オルトレイ「獣人の視力は優れているからな。魔力を宿していない代わりに他人の魔力を可視化、あるいは匂いを嗅ぎ分けることも出来るとはなかなかいない」
アッシュ「俺の話はいいだろ」
オルトレイ「では話を戻そう。その魔力回路が集中している箇所がある。眼球だ」
キクガ「なるほど。魔導書に与えられた魔力が視界から侵入して、悪さをするという訳かね」
オルトレイ「察しが早くて助かるな。まさしくその通りだ」
アッシュ「眼球から悪いもんが入り込んでくるとかおっかねえな」
オルトレイ「魔法ってのは往々にしてそういうものだ」
キクガ「ところで、各階級の有名な魔導書というものが知りたい。どういうものがあるのかね?」
オルトレイ「おっと、愉快な質問だな。オレの主観になってしまうがいいか?」
キクガ「構わない」
オルトレイ「初級はまあ、教科書みたいな役割だな。『初めての○○』みたいな感じで書いてある本は危険度はないし、誰だって読める。お勧めの出版社は赤色魔導だ」
キクガ「出版社もあるのか」
アッシュ「赤色魔導な。あそこ絵本とか有名でよ、うちの娘も好んでるな」
オルトレイ「いい選択ではないか。教育にも適しているしな」
キクガ「出版社も注目するとメモしておかなければ」
オルトレイ「さて次は中級だな。中級はいわゆる参考書みたいなものだな。現在、学んでいる魔法が難しいと感じるようになったら読むといい。お勧めは『ブルーハーツ社』だ」
キクガ「また出版社」
アッシュ「新聞とか出してるよな、あそこ。新聞は分かりやすいし」
キクガ「何だかんだと読んでいるな、アッシュ」
アッシュ「活字ぐらい読んだことはあるっての」
オルトレイ「上級ともなると研究資料とかになってくるからな。大して難しくはないが、読み方を間違えたりすることがあるので注意しろ。特に上級の魔導書で有名なのがパズル本だな。読み方によって全く違う内容になるというな」
キクガ「ほう?」
オルトレイ「具体的に言えば、好きな人を振り向かせる魔法を学んでいたのに人を呪い殺す魔法を覚えていたとかな」
アッシュ「真逆じゃねえか」
オルトレイ「パズル本はそういうものなのだ。だから資格が必要なのだろう」
キクガ「で、特級と禁書だが」
オルトレイ「他人の手記が多いな。恥ずかしい日記とかが多い。お勧めは『ヨクモクの書』と『ハイリの日記』だ。読んでいて頭がおかしくなるぞ」
アッシュ「それ内容聞いてもいいか?」
オルトレイ「いいだろう。ヨクモクの書は著者であるブランディ・ヨクモクのハーレム妄想小説だ。自分自身が主人公となっているな」
アッシュ「聞かなきゃよかった」
キクガ「気をしっかり、アッシュ」
オルトレイ「一方でハイリの日記は、隣のご夫婦を呪い殺そうとする魔女ハイリ・エーデルガイズの日記だ。恐ろしいぞ、たまに血文字が混ざる」
キクガ「混ざるな、そんなもの」
オルトレイ「混ざっちゃうんだから仕方がないだろう」
アッシュ「お、もう昼休みが終わるな」
オルトレイ「今回はここまでにしようか。また次回も楽しみにしていろよ」
キクガ「それでは午後も業務を頑張っていきましょう。お疲れ様でした」