第1回放送【ヴァラール魔法学院について】
キクガ「皆さんこんばんは。いい昼休みを過ごしているでしょうか。大勢の職員がわざわざ署名を集め、私の元まで直談判してきた故に存続することとなった『らぢお♪がやがや冥府』のお時間です」
オルトレイ「何故だか知らんが巻き込まれたぞ」
キクガ「司会進行は冥王裁判課課長のアズマ・キクガと」
オルトレイ「えー、呵責開発課の課長であるこのオレ、オルトレイ・エイクトベルがお送りするぞ」
キクガ「オルト、付き合ってもらってすまない訳だが」
オルトレイ「全くだ、キクガよ。考えもなしに仕事を増やすのではない。オレもびっくりしちゃうだろう」
キクガ「びっくりしたあとに喜んでいた訳だが、それに関しての申し開きは?」
オルトレイ「そりゃお前、楽しそうだから頷いちゃうだろう」
キクガ「このラジオは、過去はお悩み相談とかやっていた訳だが、今後は我々の采配で面白そうだという話題を取り上げていこうと思う。ぜひ楽しんで聞いていってほしい」
オルトレイ「言っておこう、このラジオを『つまらん』とか抜かす奴はこのオレが処してやるからな。覚えておけ。このオレがいる以上、欠伸が出るようなくだらない内容など取り上げんわ」
キクガ「ならば、早速第1回目の放送の話題な訳だが」
現世の話題:ヴァラール魔法学院について
キクガ「まず最初に取り扱う話題は、現世で話題となっている1000年の歴史を持つ名門魔法学校『ヴァラール魔法学院』な訳だが」
オルトレイ「この学校は我々の子供らが用務員として勤務していてな。オレも何度か遊びに出かけたことはあるが、あの学校は敷地も広ければ立派だし素晴らしい場所だな」
キクガ「学院長のグローリア君に言えば喜ぶ訳だが」
オルトレイ「そう? じゃあ今度言っちゃおうかな」
キクガ「さて、まずはヴァラール魔法学院の外観を確認いただく訳だが。こちらの映像は食堂の遠隔水晶にて投影させていただく」
オルトレイ「昨日のうちに設置しておいたぞ。だからと言って回すなよ、そのまま注目だ」
キクガ「それではこちらだ」
キクガ「さすが1000年の長い歴史を持つだけはある訳だが。荘厳で美しい外観だ」
オルトレイ「本当に城みたいだな。噂では亡国の王城を改造しただけと聞いたのだが」
キクガ「それは本当のことらしい。上質な魔力を求めて他の国が属領としてしまう前に、グローリア君が掻っ攫ったそうだ。ユフィーリア君はグローリア君を唆した形となる訳だが」
オルトレイ「何しとんだ、あの阿呆娘」
キクガ「まあまあ、そうでもしなければ今頃はヴァラール魔法学院も存在せずに魔法の発展も遅れていた訳だが」
オルトレイ「うむ、まあそう考えれば妥当な判断と言えるのか」
キクガ「さて、このヴァラール魔法学院について掘り下げていく訳だが。ちゃんと聞く準備はいいだろうか」
オルトレイ「あとで試験を受けさせて、70点以上を取るまで帰れませんの補講を受けさせるからな」
キクガ「それではこれだ」
ヴァラール魔法学院
世界初の魔女・魔法使い養成教育機関。魔法を専門的に教える学校ということで広く知れ渡っており、1000年もの長い歴史を誇る古い学院でもある。
生徒総数は1学年から6学年まで、合わせて12000人以上。教職員総数は20000人を超える。学ぶことが出来る魔法の科目は実に400科目以上にも上る。入学制限は15歳を過ぎていれば種別・性別・貧富の一切を問わず、分け隔てなく入学の許可を与える。
キクガ「まずはヴァラール魔法学院について、簡単な情報をまとめてみた訳だが」
オルトレイ「魔法の教科は、実はそれほど目新しいものではない。王立学院には普通に魔法の教科はあるものだしな」
キクガ「王立学院……」
オルトレイ「お前はどこかの学校を思い浮かべただろうが、オレの知っている王立学院はまあ普通の場所だ。学術に体力育成、礼儀作法、各国の言葉や文化などを学びつつ、合間に魔法の授業を挟み込む程度だな。王立学院は大体3年から4年の通学期間が設けられ、卒業後は大体就職するか地元に帰るのかが多いな」
キクガ「詳しいな」
オルトレイ「そりゃもちろん、オレはこう見えて名家出身だからな。当然ながら王立学院にも通わされたさ。礼儀作法に学術、体力育成など学んでいてつまらんものばかりだったから大半はサボタージュしていたがな」
キクガ「君ならそうだろうと思った」
オルトレイ「そういうお前はどうなのだ、キクガよ。異世界では学校に通っていたのか?」
キクガ「ちゃんと大学まで修了している訳だが」
オルトレイ「何ぞそれ」
キクガ「こちらには大学の概念がないのか……詳しくは後ほど、ということにしておきたい訳だが」
オルトレイ「話を大きく戻そう。王立学院で学ぶことが出来る魔法は普遍的で一般的、そしてあまりにも知識が浅い。何かちょっと触れただけで一人前の魔法使いみたいな扱いをされるのだから片腹痛い。名門魔法使い一族であれば寝ながらでも使える魔法を、わざわざ授業という形式で時間をかけるなど――ハッ。悪いが鼻で笑えるな」
キクガ「そこまでボロクソに言う必要があるのかね」
オルトレイ「大いにある。何せ王立学院で学ぶ魔法とやらは浮遊魔法を教えるのに1年がかりになる。もうな、阿呆かと」
キクガ「対するヴァラール魔法学院の場合は?」
オルトレイ「今まで魔法など全く使ったことありませんとばかりのお子様でも3時間足らずで魔力操作から魔法の仕組み、浮遊魔法を完全習得まで出来るぞ」
キクガ「なるほど、それほど優秀な魔法使いや魔女の教員が勢揃いしている訳か」
オルトレイ「それだけではない。この魔法の秀才オルトレイ・エイクトベルの観点から見たヴァラール魔法学院の優秀な部分を2つほど紹介しよう」
キクガ「ノリノリな訳だが」
オルトレイ「まあ聞け。オレの時代にあったのならば絶対に何度も入学したいぐらいの設備なのだ、あの魔法学校」
キクガ「それで? 優れている点とは?」
オルトレイ「1つ目は『完全実技制』だな。いわゆる授業は実技が中心となっている」
キクガ「座学はやらないのかね?」
オルトレイ「やらん。そもそも魔法は使ってナンボの世界だ。実践を積んで初めて運用が可能となる。その理屈を教職員も学院を取り仕切る学院長も理解しているから、座学による魔法のお勉強などを廃して完全実技制を取り入れたのだろうよ」
キクガ「ふむ、そう言われてしまうと確かにそうだと納得してしまう訳だが。何事も経験が大事という訳かね」
オルトレイ「というよりそもそも、座学などをして何の意味があるのだ。魔法の仕組みに関して勉強をするなら実際に使ってみた方が早い。故に王立学院よりもヴァラール魔法学院の方が魔法に関してのみ優秀と言えるだろう」
キクガ「魔法に関してのみ」
オルトレイ「他は知らん。そも、魔法使いとか魔女とかってアクが強いところがあるからな」
キクガ「話は変わるが、2つ目は?」
オルトレイ「2つ目は『自由度の高い時間割制度』だな。これは自分自身で時間割を組み立てることが出来る非常に自由度の高い、ヴァラール魔法学院独自の取り決めだ」
キクガ「それだけを聞いてしまうと、凄いと思う反面、大したことではないと感じてしまう訳だが。元の世界でも似たような場所はいくらか確認できた訳だが」
オルトレイ「だが、よく考えてみろ。お前の知っている学校とやらが自由に時間割を組み立てることが出来たとして、果たして何通りになる? せいぜい授業の科目は20から30と見積もっていいだろう。組み合わせでいけば多少誰かと被ることは否めない」
キクガ「確かにその通りな訳だが」
オルトレイ「対するヴァラール魔法学院は実に400科目以上にも存在する魔法の授業が存在する。星の数ほど存在する魔法が一挙に学べるのだ。しかも決めた時間割はいつでも変更可能という柔軟度もある。自分自身だけの学びたいだけ学べる時間割が作れるのだ」
キクガ「いつでも変更することが可能とは素晴らしい制度な訳だが」
オルトレイ「事実、魔法は危ないからな。才能がなければ死んでしまう危険性も孕んでいる。興味があるから授業を取ったはいいけれど、いざ授業に臨んでみたら『何か合わない』とか『この授業は危ないな』と感じることもあろう。その時の為に変更を可能にしているのだよ」
キクガ「実際、1日ごとに時間割を変えたり、1週間ごとや1ヶ月ごとに時間割を変える生徒も多数見受けられる訳だが。休憩時間も自由に設定できる故に、誰とも似たような時間割がなくなるという訳か」
オルトレイ「休憩するにしても敷地面積が広いから、休憩などやりたい放題だ。いいよなぁ、オレもヴァラール魔法学院に入学してみたかった!!」
キクガ「君に抜けられると困る訳だが」
オルトレイ「分かってらァ。もうすでに死んでいるのだから現世の学院に入学する訳にもいかんだろうに」
キクガ「さて、ヴァラール魔法学院の情報は以上になる訳だが」
オルトレイ「お、終わりか?」
キクガ「ここで1つ、企画を用意してみた訳だが」
オルトレイ「企画?」
キクガ「題して、我々が実際にヴァラール魔法学院に入学したらどんな時間割を組み立てるのかという内容な訳だが」
オルトレイ「何と!! それは面白そうではないか!!」
キクガ「あらかじめ、グローリア君から現在のヴァラール魔法学院ではどのような魔法を学ぶことが出来るのか聞いてきた訳だが。こちらのお手製のフリップボードに、1時間目から6時間目までの時間割を組み立ててほしい」
オルトレイ「ほほう。これは当然、お前もやるだろう?」
キクガ「当然な訳だが」
オルトレイ「ならばやろうすぐやろう絶対に面白いぞこれは!!」
キクガ「興奮気味な訳だが。――ではこの冊子から自由に選ぶといい訳だが」
オルトレイ「冊子、太くないか?」
キクガ「授業の概要や見所などをまとめたヴァラール魔法学院の入学時に頒布されるものらしい。辞典ほどの分厚さがある訳だが」
オルトレイ「この中から選べって? 迷っちゃうではないか!!」
キクガ「制限時間は5分」
オルトレイ「厳しい!! いやだが、やってみせるぞ。素晴らしきオレの時間割に刮目するがいい!!」
キクガ「それではスタート」
〜5分後〜
キクガ「完成した」
オルトレイ「何とか絞った……オレの脳味噌が溶けてしまうぞ……」
キクガ「それではまず、私から」
オルトレイ「よし来た」
キクガ「私の時間割はこちらだ」
1時間目:魔導書解読学
2時間目:死者蘇生・基礎
3時間目:休憩
4時間目:占星術
5時間目:休憩
6時間目:黒魔術・基礎
オルトレイ「黒魔術、さらに死者蘇生魔法か。なるほど、冥府での仕事に役立てようというラインナップだな」
キクガ「実際、私はオルトに比べるとまだこの世界に来て日が浅い訳だが。冥府についてもまだまだ勉強する余地がある。故に冥府での仕事に関していそうな魔法を学びたい」
オルトレイ「しっかり休憩を挟んでいるしな」
キクガ「あまり無理はしたくない」
オルトレイ「メリハリは大事よな」
キクガ「さて、オルトの番な訳だが」
オルトレイ「オレはこれだ」
1時間目:属性魔法・水
2時間目:魔法工学
3時間目:錬金術・鉱物
4時間目:宝石魔法・基礎
5時間目:精神異常系魔法・恐慌
6時間目:生活魔法・料理
オルトレイ「ふはははは、どうよこの完璧なラインナップ。素晴らしいだろう!!」
キクガ「ああ、素晴らしいほどに理解できない教科がいくつかある訳だが」
オルトレイ「何ということだ」
キクガ「すまない、オルト。子供にでも分かるぐらいに詳細な説明を頼む訳だが」
オルトレイ「まあ仕方があるまい。そこまで言うなら説明してやろうではないか」
キクガ「それぞれたまに分かるものは分かるのだが……」
オルトレイ「おそらく魔法工学に関しては知っているだろう。七魔法王が第二席【世界監視】を関する魔法使い、スカイ・エルクラシスが取り仕切る授業だ。魔法によって兵器や道具を作り出す授業は、オレの仕事にも取り入れられるからな」
キクガ「それは理解している」
オルトレイ「念の為だ、戯けが。ほれ、特に何が知りたいんだ?」
キクガ「錬金術の鉱物とあるが」
オルトレイ「そもそも錬金術は黄金を生み出す為の魔法だ。その過程で人造人間とか、不老不死の薬品が出来るのだが、真髄は黄金を魔法で作り出すという部分がある。鉱物とはすなわち、その真髄である黄金を作り出す系統の授業だ。他にも系統は『生命製造』と『等価交換』に分かれるが、まあそれは興味があれば語ってやろう」
キクガ「金持ちになれそうな魔法な訳だが」
オルトレイ「ただし莫大な資金が必要だぞ。金1粒を錬成するのに、果たしていくらのルイゼ紙幣が吹っ飛ぶか……家でも建つのではないか?」
キクガ「何故そのような授業を学ぶのかね? 単純に面白そうとか、そういう理由かね?」
オルトレイ「それもあるが、第一に鉱物とは黄金の他にも錬成が出来るからな。たとえば宝石、たとえば金属、たとえば魔石などな」
キクガ「なるほど。錬金術で宝石を生み出し、次の宝石魔法で生かすつもりかね?」
オルトレイ「分かってきたではないか。戦闘においていちいち行動を止めるのはナンセンスだからな、同時並行が出来るのであればそれに越したことはない。宝石を錬金術で生み出してから、魔法の資材にする。常套手段だな」
キクガ「その宝石魔法も、私にとってはあまり馴染みのない訳だが」
オルトレイ「宝石は綺麗だろう、ああ言ったものには一定の魔力が内蔵されている。それに外側から働きかければ小型の爆弾のようなものが完成する訳だ。その小型の爆弾である宝石を上手く使うようにするのが宝石魔法だな」
キクガ「なるほど、そんなことが……」
オルトレイ「さて、疑問があるとすれば最後の『精神異常系魔法』かな。これは文字通り、精神に働きかける魔法だ。魅了や睡眠、恐怖を植え付ける恐慌など様々な分野があるぞ」
キクガ「オルトは恐慌を選択した訳だが」
オルトレイ「相手に恐怖心を植え付ける為の魔法だな。恐怖とは相手を思うように行動できなくさせることもある。戦意喪失させるのも戦い方としては常套な手段だと思わんか」
キクガ「全体的に戦いに使えるような代物ばかりだが。最後の生活魔法が安心の砦な訳だが」
オルトレイ「料理はいいだろ、主に相手の胃袋を掴んで意のままに操るのだ。調理場は戦場だぞ」
キクガ「ここでも戦闘狂の脳味噌が発揮されてしまった」
オルトレイ「おっと、そろそろお時間だな。次回もまた同じような内容のラジオをやるから、お前たちはしっかりと今回の放送で予習をしておくように」
キクガ「それでは次回の放送でお会いしましょう」