昼食
宿近くの料理屋のテラス席で、アイリは「これにしようかな、でもこのパンケーキも気になる……いや、やっぱりイチゴのパフェもいいな」なんて独り言をいいながら、メニューとにらめっこをしている。
「悩んでるなら私がもうひとつの方頼もうか?」
「ううん、いいの。ソフィは自分か食べたいものを頼んでね」
「だったら早く決めて。お腹空いた」
「ううー」と言いながら難しい顔でアイリは頭を抱えた。
にらめっこを始めてからかれこれ十分ほど経っていた。
流石に私のお腹の虫が待ちきれないと騒ぎ始めたので急いで欲しい。
アイリは決まったのか、それとも諦めたのか「注文いいですかー!」と店の人を元気よく呼んだ。
昼より少し早くに来たからか、人もまだあまりいなかったので、店の人はすぐに注文を聞きに来てくれる。
「何にしましょう?」
「このパンケーキとイチゴのパフェお願いします!」
二つ注文するんだったらこの悩んだ時間は何だったんだろう。
「ソフィは?」と聞いてきたのでメニューの羊肉のステーキを指さして代わりに注文してもらった。
アイリが注文を終えると、店の人は軽くお辞儀をし、厨房の方へ向かって行った。
料理ができるまで暇なので前でくねくねと動く細い尻尾を眺めていると「ソフィはどんな服がいいとかリクエストある?」と聞かれたで「動きやすければなんでもいい」と答える。
「いっつもそればっかり」とアイリはちょっと拗ねたように呟いた。
「じゃあ勝手に作っちゃうからね。とびっきり可愛い服に仕立てちゃうから!」
「派手なのはやめて。出来れば今と同じ感じがいい」
この流れで何も言わないと、とんでもなく派手な服を作られてしまう。前は黙っていたら、リボンやヒラヒラとしたものがたくさんついたワンピースなのか、ドレスなのか分からない派手な服を作られた。
「出来ればソフィにはもっと可愛い服を着て欲しいんだけど……前せっかく作った服もまだ着てくれてないし。もっとお洒落をするべきだよ!」
「そうは言っても、動きにくいのはいや」
「うーん、まぁわたしも嫌がるなら無理とは言わないけど、時々は着てくれないかな?」
「部屋の中でならいいよ。外に行く時は絶対着ない」
動きにくいし派手で目立つような服を着て街を歩き回るのはごめんだ。
「着てくれるならなんでもいいよ!」
いいんだ。
「まぁわたしも、あれは外用に作ったわけじゃないし」
じゃあ最初から言って欲しい。言われてもお願いされない限り着なかっただろうけど。
「言っても着なかったでしょ?」
「バレた?」
「うん、ソフィはヒラヒラとした服に興味なしって感じだもん」
そこに、「失礼します」と、注文していた料理が届いた。
アイリは料理を見て、わぁと感嘆の声を上げた。
私の前にも料理が置かれた。シンプルなステーキではあったが結構大きめで、私の顔くらいのサイズはあるんじゃないだろうか。
「ソフィの、すごく大きいね。一口分けてよ」
甘いものとお肉って合うのだろうかという疑問はさておき、一口大に切ったステーキを、大きく開けて待っている口に運ぶ。
「んんー、美味しい。はい、ソフィもあーん」
そう言いながらスプーンに乗っけたパフェを食べさせようとしてくるので「私はいい」と伝えた。
アイリは食べることが出来ても、私は甘いものを食べた後に脂っこいものは食べれる気がしない。
「わたしもソフィにあーんしたいー!」と言うが無理なものは無理。
「だったら一口分残しておいて、最後に食べる」
「絶対だよ!絶対あーんするからね!」
そこまでこだわる事でもないような気がする。
アイリは私の食事の進み具合を注意深く観察しながらパンケーキやパフェを食べ始める。
私も気にせずゆっくりとステーキを切り分け、終わったら一口大になった肉を口に運ぶ。
半分くらい食べ終わったあたりでふとアイリの方を見ると、丁寧に一口分ずつ残してこちらを見ていた。
「気にしないで食べてていよぉ」
そっか、どうしよう。実はお腹いっぱいになったとか言い出しづらい雰囲気だ。
「ねぇ、アイリ」
「なぁに?」
食い気味に返さないで欲しい。
「もしかしておなかいっぱい?」
なんで笑顔のままなのだろう。怖い。
「あ、あと一口なら入る……」
「よかった!どっちがいい?パフェ?それともパンケーキ?」
「パフェ」
答えると同時に「はい、あーん」とパフェを口に入れてきた。
アイリは満足したのか満面の笑みである。
「でもこれどうしよっか」とステーキを指さしながら言ってきた。
「もう無理、食べれない」
「そっか、じゃあもったいないし私が食べちゃうね!」
と皿に手を伸ばして止める。
「ソフィが食べさせてくれると嬉しいな」と言うので仕方なく、ステーキが無くなるまでアイリに食べさせた。