二人で迎える朝
あれから二人でお湯に浸かってるがずっと無言だ。
服を脱がされてる間も、体を洗われてる間もずっと無言で見つめられてる。
「……アイリ、なんか静かだね。大丈夫?」
「ごめん、わたしがちゃんと見てなかったから連れてかれたんだよね……」
「謝ることは無いよ。私が謝らないと行けないくらい」
実際、外で眠って攫われてる時も起きなかった私が悪いのであって、アイリに悪いところは何も無い。
「ソフィは悪くないよ……ちゃんとわたしが警戒しておけばよかった。狙われやすいってわかってたのに……いたっ」
ずっと自分を責めるのでデコピンをした。
私が誘拐されるといつもこうなるのでどこかで止めないと次の日まで謝られる。
「アイリの悪い癖。私はここにいるよ、大丈夫、大丈夫だから」
今度は私が抱き寄せる。頭を撫で続けると安心したのか眠ってしまった。
どうしよ。まさかお風呂で眠るなんて考えてなかった。体を揺らして声をかけても起きる気配がない。よほど疲れてたのだろう。
まぁ、無駄に心配させて走り回らせてしまった私が悪いので頑張るか。
お風呂から出て、起きないアイリを着替えさせ部屋に戻ろうとする。
来た時とは反対に私が抱き上げてる形になっている。
「おや、帰ってきた時とは逆になってるね」
戻る途中で女将さんとばったり出会ってしまった。
私とアイリの姿を見てくすくすと笑いながら話しかけてきた。
「疲れたみたい」
「そうみたいだね。アンタも疲れただろ?部屋に戻ってゆっくり休みな」
「ありがとう、おやすみなさい」
二階に借りてる部屋に戻ってアイリをベッドに寝かせて私も自分のベッドに入って眠りについた。
―――朝日の眩しさで目が覚めた。
昨日、少し眠っていたこともありすっきりと起きることができた。
しかし何故だろう。体が重い、というか起き上がれない。毛布をめくると私に乗っかるような形で抱きついてるアイリが居た。
起こそうかと思ったが、目元に涙のあとが見えたので、私は諦めて起きるまでじっとしてる事にした。
するとそんなに待たずしてアイリは起きた。
「んへへぇ、おはよ、ソフィ」
「おはよう、アイリ」
「もうちょっとこうしてていい?」
「うん、ちょっとだけね」
「ありがとお…………えと、昨日さ、どうやって逃げ出してきたの?」
「檻を壊してきた」
「いつものやつだね。……それで相手はどんな感じだった?」
「私を攫ったのは二人だと思う。顔は見てない。誰かに頼まれたって話してた。また狙われるかも」
「ふーん……」
「今度は油断しないから大丈夫」
「ううん、ソフィは心配しなくてもいいよ。私がちゃんと警戒しておくね。昨日だって……いでっ!」
アイリの悪い癖が始まりそうなので頭に軽く手刀を落とす。
そもそも私が店の中まで着いていっておけば起こらなかったかもしれないのだ。たとえその後、二人の時に行動されてたとしても、アイリがおかしい事に気づいてくれていたと思う。
「何回も言わせないで。私が言うことを聞かずにひとりで外にいたのが悪いの。そんなに自分を責めないで、ひとりで抱え込まないで、ね?」
アイリは私の胸に顔を埋めながら静かに頷いた。
「ところで、いつまで私はこのままでいればいい?」
「もうちょっと」
「そろそろどいて」
両手で体を掴み横に回転する。すると添い寝してる形になる。顔を見るとこれはこれでみたいな感じの笑顔でまた抱きついてくる。
気が済むまで待っていたらいつまでこのままかわからないし、そろそろお腹も空いてきた。なので、「お腹空いた」と伝えると、「そうだよね、夜何も食べてないもんね!すぐ準備するね!」とすぐに起き上がり準備を始めた。
やっと解放された。
程なくして朝食の準備が終わる。メニューはパンと干し肉だけだ。
「ほんとだったら作ってあげたいんだけど、まだどこのお店も空いてない時間だしこれで我慢してね。その代わりお昼はお店に食べに行こ!」
「ありがとうアイリ。準備してくれるだけでも十分だよ」
他愛ない話をしながら朝食を楽しみ、食べ終わったらアイリは服を作る準備をし始めた。今日はギルドへ行かず服を作る事にしたようだ。
私が何かに巻き込まれた次の日はいつも、部屋でゆっくり出来る作業をして必要最低限、外に出ないようにしているし、どんな事でも私から離れようとしない。
私も気持ちがわかるから何も言わないし、なにか行動する時は些細なことでも全て伝えている。
服を作りながら「お昼はここの近くにあるお店に行ってご飯を食べて、また部屋でのんびりしようね」と言ってきたので、頷いて返事をする。
さて、私は何をして時間を潰そうか。