誘拐
目を覚ますとそこは檻の中でした。なんて呑気に言ってる場合じゃない。
どうやら私は誘拐されたらしい。薄暗い中手探りで状況を把握しようとした際にわかったことなのだけれど、手錠と足枷が付けられておりあまり自由には動けないようになっている。
そして周りは手を伸ばせば鉄の棒に触れるし座っている状態で手を上に伸ばそうとしたら天井のようなものに触れたので小さい檻に閉じ込められていることがわかった。
話し声など聞こえる様子もないので周りに人はいないのだろう。
「アイリー!」
できるだけ大きな声で叫んでみるが特に反応は無い。
もう一度、「アーイーリー!」と叫んでみるが見張りなどが来る様子もない。
よし。
私は手錠を引きちぎり自由になった手で足枷も外してしまう。
そのまま鉄格子を広げ外に出る。
この見た目からよく誘拐されているのでこういったことに慣れている。
三回目くらいの誘拐の際に気がついたことなのだがどうやら私は普通の人よりかなり力が強いらしい。
人に付けるような手錠はこんな感じで簡単にちぎれる。鉄格子も並のものだったら簡単に広げられる。
なので今回のように見張りなどがいない場合はこうやって毎回逃げ出しているのだ。
しかし暗くてよく見えない。
暗闇の中を手探りで進むが時々木箱のような物に当たるので推測するにここはどこかの倉庫なのだろう。
あちこちぶつかりながら迷っていると微かに外から足音が聞こえてくる。
誘拐した人たちが戻ってきたのかもしれないと思い息を潜める。
「もう一人いた黒い方はどうします?」
「とりあえず銀色の方を簡単に持って来れたからいいだろ。あちらさんがもう一人も欲しいって言ってきた時に考えようぜ」
「そんなんでいいんですかい?」
「いいんだよ。まだ顔も見られてねぇんだし無理してもう一人連れてこようとして捕まったら意味ねーだろ?」
男二人が会話をしながら近づいて来ている。内容からして私を誘拐したやつで間違いないだろう。
足音が止まる。扉の前に着いたのだろう。
足音の反対側になるよう急いで木箱の隙間に身を隠す。
開いた扉からほんのりと光が入る。
男たちは光源を持っているのか迷いなく倉庫の中を進んで来る。
ちょっと進んだところで焦ったような話し声が聞こえる。
「おい嘘だろなんだこれ、手錠と足枷をして檻に入れてたはずだろ!?子供がこんなこと出来るのかよ!」
「先輩これやばいんじゃないですか!?頼まれてた子供に逃げられてますよ!」
「どうしろってんだ!手錠をちぎって檻をこじ開けちまうような化け物だぞ!」
「落ち着いてください、まだ子供がやったって決まった訳じゃないですよ!」
「あ、あぁ、そうだな。すまん取り乱しちまった……しかしどうすっかねぇ……どっちにしろ化け物が近くにいるってことだろ?」
「いっその事逃げます?」
「そうすっか。依頼してきたやつもなんかやばそうだったし、さっさと街から出て行こうぜ」
会話がまとまったのか二人はそそくさと走り去っていく。
しかし自分たちで誘拐しておいて化け物とは心外だ。私はまだ十四の女の子なんだぞ。
だけど助かった。倉庫の扉を開けっ放しにしてくれてるおかげでここから出ていける。
少し明るくなったおかげで気がついたのだが私は扉から反対方向へ向かっていたようだ。
外に出ると月が出ていた。長いこと檻の中で眠っていたようだ。
ここがどこなのかわからないからまずは大通りへ繋がる道を探そう。
男たちの話的にはイーリムの街のどこかなのは確かだと思う。
アイリみたいに身軽だったら屋根の上に登ったり出来るのだろうけど出来ないものはできないので地道に帰ることにした。
アイリ心配してるだろうな。