表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

畑の手伝い

 昨日は散々だった。

 宿に着くまでずっと抱きつかれて歩きづらかったし、宿についたらついたでお風呂に行けばアイリから身体中を洗われ、寝る時まで尻尾を離してくれず、ベッドに入ったら一緒に眠ると言い抱きつかれて休んだ気にならなかった。

 ちなみに私は今、アイリにおぶられながらウルマーさんが待ってる東門へ向かっている。

 日が昇る前の街は少し薄暗く、少し不気味な雰囲気なのだがすぐそばに居る人のせいで別の不気味さを感じる。


「えへへっ、ソフィが背中に……」


 宿を出てからずっとこの調子なのだ。


「フヘヘ……じゅるり」


 今もしかして涎すすった?

 最近、アイリから何やらよくわからないが変な危機感が反応する事がある。

 昨日もお風呂で洗われてる時ずっと微妙な危険を感じていた。

 どうしてだろうか。

 あとアイリの尻尾が巻きついている脚が蒸れてきた。


「ここから歩く」

「まだ着かないから大丈夫だよぉ」

「降りる」


 背中から離れて地面へ足を着く。

 なにやら名残惜しそうな声が聞こえた気がしたが私は気にせず歩く。

 足音が自分の分しか聞こえないのでどうしたのだろうと振り返ると私が降りた場所でアイリがしゃがみこんでいた。


「どうしたの?私をおんぶして疲れた?」


 反応がない。


「体調悪くなった?」


 これまた反応がない。

 これは拗ねている。

 何故だろう。

 この短い会話の中で気を悪くする事を言ってしまっただろうか。

 このままじゃウルマーさんを待たせてしまうことになりかねない。


「依頼者の人待たせちゃうよ、アイリ行こう?」


 顔を少し上げ私の差し伸べていた手を見た途端、顔を輝かせ立ち上がった。

 そして私の手を握り「うん!」と元気よく返事をしてくれた。

 何故機嫌が良くなったかわからないけど助かった。

 次は私がおぶっていかないといけないところだった。


「ハッ、今何やら勿体ないことをしたような気が!」


 何を感じとったのだろうか。

 怖い。


 二人で手を繋ぎながらまだ人のいない街を歩くこと数十分。

 朝日が登り始め街が少しずつ光を浴びる。

 それと同時くらいに私達は東門前の広場へ着いた。


「おはよう二人とも」


 ウルマーさんはベンチに座って待っていた。


 二人で「おはようございます」と挨拶する。

 まさか日が昇る前から待っていてくれたのだろうか。


「さぁ、畑へ向かおうか」


 そう言うとベンチの横に置いていた荷物を取って立ち上がり詰所へ向かう。

 私達もそれに続く。

 ウルマーさんは「畑へ行ってくるよ」と詰所の人に伝え門を開けてもらう。


「一時間くらい歩くからね。疲れたら言っておくれ」


 やっぱりアイリにおぶってもらおうかな。


「ソフィが疲れたらおぶってあげる!」


 もしかしたら考えが読まれてるのかもしれない。


「はははっ、昨日から思っていたけれど、やっぱり仲がいいねぇ」

「えぇ、わたしとソフィは運命共同体ですから!」


 間違ってはいないが人に言うのは恥ずかしいのでやめて欲しい。

 こんな感じでちょっとした雑談をしながら門を抜けると前に広がっていたのは朝露の輝く穏やかな平原だった。

 私はその輝きに目を奪われ立ち止まる。


「この時間に起きることなんて滅多に無いから見たこと無かったでしょ」

「うん、綺麗」

「それは良かった!また見たかったら一緒に早起きすれば見れるよ」

「それは無理」


 早起きだけは二度とごめんだ。

 ぶーぶーと文句を言ってくるアイリから手を引かれウルマーさんの後を着いて歩く。


「そういえば二人の名前は書類で見たけど、どっちがどっちか聞いていなかったね。会話を聞いてる感じだと君がアイリで君がソフィアかな?」

 と私たちを順番に指しながら確認してくる。

「間違ってないです」とアイリが返事をしてくれる。

 そのままアイリとウルマーさんは雑談を始めた。

 こう言った依頼では他の人と会話をするのが苦手な私の代わりにアイリがまとめて返事を返してくれる。

 私は本当に必要最低限しか依頼者と会話をしない。

 なので私はひとりで依頼を受けること自体がまず無い。

 いつもアイリに任せっきりなので申し訳ないとは思っている。

 そのうち慣れなければ。

 そうすれば二人で別々の依頼を受けてもっと簡単に旅費が稼げるのに。

 三十分ほど歩いただろうか。

 道が森へと続いていた。

 森へ入ったあたりで「ここを抜けたらすぐ着くよ」と教えてもらう。

 特に危ないようなことも無く森を抜けた先はまた平原になっていた。

「見えて来たよ」とウルマーさんが位置を指しながら教えてくれる。

 一目見た感想は今すぐ帰りたいだった。

 平原に続く道の右側の方に一軒の家と柵に囲まれた濃い緑に染っている畑があるのだが広さが凄い。

 奥の方に見える柵が驚く程小さく見える。

 アイリは「わぁー!すごく広いですね!」とか言っている。

 私はすでに絶望していた。

 これを三人で?

 一日じゃ終わらないだろう。

 明日も早起きしなきゃ行けないのだろうか。

 それだけは絶対嫌だ。

 畑に着いた私は今日で絶対終わらせると言う決意を持った。


「早く始めよう」

「おぉ、ソフィがやる気に満ちている」

「頼もしいねぇ」


 ウルマーさんが言うには収穫は半分でもう半分の畑はまだ育ち切ってないので雑草だけを抜くらしい。

 軽く説明を受けて作業を始める。

 まずは収穫作業からするらしい。

 借りた鎌を使い無心で黙々と薬草を狩る。

 お昼がすぎる頃には大体の収穫は終わっていた。


「思ったり早く収穫が終わったね、二人とも遅くなったけど昼食にしようか」

「はーい!」

「はい」


 畑の前にあった家へと案内される。

 この家はウルマーさんの両親が住んでいるらしく、昼食の準備をしてくれているらしい。

 家へ入ると優しい目をしたお婆さんと白いちょび髭のお爺さんが出迎えてくれた。

 昼食を食べながら話を聞いていると、いつもは私たちを除く三人で作業をしていたらしいのだが今回はいつもより量もでき、ウルマーさんが両親にたまには休んでいて欲しいと言うことで依頼を出そうと言うことになったらしい。

 普段は両親が畑の手入れをしていたのか。

 そしてウルマーさんは薬草を街へ運んだり売ったりしているから外れの方に住んでいるのだろう。

 ちなみに街で使われている薬草の三分の一はウルマーさんが育てている物らしい。

 食事を終わらせた私は移動とか大変だろうなとか考えながら周りが食べ終わるのを大人しく待っていた。


 あの後、雑草などを狩ろうとしたのだが普段から手入れされた畑は特にやることはなかった。

 ウルマーさんが収穫した薬草を運ぶ準備があるらしく何やら作業しようとしてたので手伝おうとはしたのだがこれ以上は大丈夫と止められた。

 このまま両親の家に残るらしくその場で報酬を貰ったので大人しく帰ることにした。


「思ったより早く終わってよかったね」

「うん」

「報酬も貰えたしこれで少しは余裕が出来たね」


 今回の報酬は銀貨40枚、収穫の手伝いだけでこの額は少し貰いすぎなくらいだ。依頼書に書いてあったのは30枚だったのだがウルマーさんの両親からこれで何かいいものでも食べなさいと銀貨10枚を上乗せされた。とても断れる雰囲気じゃなかったので貰うことにした。

 ちなみに宿に泊まるのための費用が銀貨2枚なので単純計算で二十日分くらいにはなる。

 これで次の依頼がゆっくり探せそうだ。


「まだ日も高いし、このままギルドに行ってほかの依頼探そうか」

「今日はもう休みたい……」

「まぁいつもに比べてすごく頑張ってたしね。いいよ、今日はご飯買って帰ろっか」

「ありがとう」


 私たちは何気ない会話を交わしながら来た道を戻り街へ帰った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ