朝
私、ソフィアは人に狼のような耳と尻尾が生えており、獣人という訳ではないのだけれど半獣人のような見た目をしている。
親の片方が獣人だったとか、私と同じ見た目の人だったということはなく、父も母も普通の人間だったらしい。
らしいと言うのは物心ついた時には私の近くにはいなかったので人に聞いただけの情報だからだ。
ちなみにこの世界には人の他に、エルフと獣人がいる。
エルフはほとんどが人と同じ姿ではあるが耳が長く尖っている。
獣人は見た目だけの話をするなら人の姿をした動物と例えた方が早いだろう。
エルフと人間の間に生まれてくる子供は時々ハーフエルフと呼ばれる人間よりちょっと長く、エルフよりは短い尖った耳を持つ人が生まれることはある。
しかし獣人と人もしくはエルフの間に生まれる子は母がどちらの種族かによって見た目は決まる。
母が人なら人。獣人なら獣人というような感じだ。
人であれば多少毛深くなる、獣人であれば手足が人間のように五本指になったりと少しだけ特徴を引き継ぐことはあるらしいが。
このように種族について簡単に説明したが私のような生まれ方をするなんてことは無いのだ。
かなりおかしな生まれ方をした私は生まれ育った村で自由な生活を送ることは出来ず、ほぼ監禁されているような生活をしていた。
そんな私を村から連れ出してくれたのがアイリ。
一緒に旅をしている私と同じ境遇の女の子だ。
アイリも私のように猫のような耳と尻尾を持っている。
私とは違い、その見た目から親から捨てられた後、親切な人に拾ってもらいある程度大きくなるまで育ててもらったらしい。
その後、十四の時その人の元を離れ旅に出て、そして立ち寄った村で私に出会ったという流れだ。
アイリ曰く他にも色々と理由はあったけど一番の理由は一目惚れした。なので連れて行こうと思ったとの事。
まぁ、そんな感じで私達の旅は始まった。
そして現在、〇〇国のイーリムという街に来ている。商人ギルドが管理している大きい街だ。
私達は昨日この街にたどり着いたばかりなのだけれど……
「起きて、ソフィ起きて!」
「んー、もう……そんなに急いでどうしたの」
眠気で重くのしかかる瞼を擦りながら起き上がる。
「どうしたもこうしたも、もうお昼だよ!?」
アイリは私を起こした後、大急ぎでベッドから飛び出して着替え始める。ひとりで眠っていたはずなのになぜ横に居たのだろうと言う疑問はさておき。
「そうなんだ、おやすみ」
私は毛布に残っている温もりに誘われて再び夢の世界へと向かう。
「おやすみじゃないよ!今日は冒険者ギルドに行って良さそうな依頼を探すって言ったじゃん!」
そうだった。私たちが受けれそうな依頼を探さないと一週間分の宿代と食費しか無いんだった。
だけど心地良さと眠気には敵わないので依頼探しは任せることにしようと思う。
「選んできて。アイリが選んできた仕事ならなんでもいい」
「……ソフィ、前もそう言って選んできた依頼に文句言ったよね」
「だって、簡単な雑草抜きって聞いてたのに、行ってみたら大きな屋敷で庭も庭言うより森だったんだもん」
「―――あれは……うん、わたしがちゃんと依頼を確認するべきだったかも……?ってちがーう!それは自分で着いて来て確認しなかったのも悪いじゃん!」
ペタんと耳を畳んでその上から手で塞ぎ大声から守る。
寝起きの頭に響くので大声で叫ぶのはやめて欲しい。
「わかったから叫ばないで……」
「あ、ごめんね……」
アイリがよしよしと頭を撫でてくれる。
「よし、じゃあ早く準備しよ!」
「ゆっくりじゃだめ?」
「もうすでに遅れてるんだから早く行かないといい仕事無くなっちゃうよ」
「わかった……」
諦めてベッドから足を下ろして椅子へ向かって歩く。
そのまま椅子に座ると待ちきれないといったように持っていたブラシを使って寝癖だらけになっていた髪と尻尾を手早くといてくれる。
器用なものだ。
「こんな時間じゃなかったらソフィの毛並みをもっと堪能できたのになぁ」
「毎朝準備を手伝ってくれるのってもしかしてそれが理由?」
「…………そんなことないよぉ?」
言葉は否定してるが声が震えている。
「さ、終わったよ。ほら早く着替えて、急がないと!」
「はーい」
私は急かされながら着替えた後、アイリに半ば引っ張られるような形で部屋を出た。
階段をおりると宿の女将さんが受付から挨拶をしてくれる。
「二人ともおはよう、気をつけて行ってくるんだよ」
「おはよう、おばさん!行ってきます!」
「行ってきます……」
挨拶をすませて宿を出て冒険者ギルドに向かって走り始める。
大通りに出るとすで働いてる人、どこかへ向かう人達で賑わっていた。
私達二人は人と人の間を上手くすり抜けながら走る。
実際には前で引っ張ってくれてるアイリが上手くすり抜けてくれてるだけだけど。
走りながら前から小言が飛んでくる
「もう、今日は早く起きなきゃダメだよって言ったじゃん!」
「アイリも起きてなかったから同罪」
「わたしは朝日が昇ってきたくらいには起きてたよ?」
「……じゃあなんで横にいたのに起こしてくれなかったの?」
「だってわたしを抱きしめて眠るソフィが可愛くて可愛くて……えへへっ」
寝顔を見るのに夢中で時間を忘れていたという事だろうか。
「じゃあ私悪くない」
「うん、ソフィは悪くない。悪いのはわたしだった!」
それでいいんだ。
「ま、まぁとにかく急いでギルドに向かわないとね!いい依頼が無くなっちゃうかもしれないし」
「うん、早く行こう」