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3話


 フロアマップを見る風花。ショッピングモールは広くて、本屋が何処なのかを探しているところだ。


「えっと、今が3階だよね?本屋さんは…えっと…5階だ!あれ?でもあたし達今3階のどこに居るんだっけ?あれ?」


 頭の上に幾つもの?を浮かべ、次第に頭から煙が吹き出しそうになっていた。


「風花、目の前に現在地って書いてあるよ」


 私はマップ上の現在地と書かれた場所を指差す。


「あれー、本当だ」


 けらけらと笑って誤魔化す風花。


「とりあえずエスカレーターに向かおう?」

「そーだね!レッツゴー!」


────────────────────────


「おぉー!凄いよ!本がいっぱいある!」

「そりゃあ本屋さんだからね…」


 大きなショッピングモールだからか、本屋さんも大きく、多くの本棚、多種多様な書籍が並んでいた。当然とは言ったものの、この本の数は確かに圧巻だ。


「めっちゃいろんな本あるよ!咲見て!この本、あかでみーしょう?受賞だって!なんか凄そう!この本面白いのかな?」


 それは最近アカデミー賞をとった映画の原作小説だった。映画は見てないけど、よく話題に上がるから名前は知っていた。


「えっと…アカデミー賞は凄い賞だけど、風花が好きな漫画とかとはまた違うから、面白いかはわからないよ?」

「そーなのー?」


 そう言いながら手に取る風花。少しペラペラとめくっていくと表情がどんどん険しくなっていく。


「なにこれ…ぎっちし文字だけじゃん。絵ないよ?辞書?」

「そりゃ……小説だからね」


「面白くない!」


 そう一喝して本を棚に戻す風花。


「もぉー、まだ碌に読んでないのにそんな事言って……」

「だって読めないもん!あっ!」


 少し不貞腐れながら別のコーナーに目を向ける。


「見て咲!料理コーナーだよ!」


 そう言いながら料理本コーナーへと走って行った。


「風花走らないのー!人にぶつかるよ!」


(ほんと落ち着きないな〜、もー)


 料理本コーナーに着くと、風花が料理レシピ本を開きながら見せてくる。


「ねぇ見て!これオムライスのレシピ!めっちゃ美味しそうじゃない?」

「確かに美味しそうだね」

「こんなお店みたいなオムライスが家で作れるなんてね〜」


 楽しそうに料理本を読む風花。当初の目的は頭からすっぽり抜け落ちていそうだ。


「ねぇねぇ、風花?私達が探してる本はここじゃないよ?」

「あっ!そうだった!」


 そう言うと、左右に首を振りながら目的地を探して、また走ろうとする。その前に私は風花の肩を掴む。


「はーい、ストップ!どーどー」

「ドー●リオ?」

「進化しちゃったよ」


 ポ●モンの話は特にしていない。


「ちゃんと何探しているのか覚えてる?」

「えっとぉ……あれぇ?」

「もぉ、お金持ちになる本を買うんじゃないの?」

「あっ!そうだった!ごめんごめん!えっと…なんのコーナーになるんだろう?」


 物を思い出してもそもそも何のコーナーかわかってなかった。それなら当然着くはずがない。


「うーん、多分ビジネス本になるのかな?」

「ビジネス!よし!ビジネス本コーナーを探そう!」


 探してみればビジネス本コーナーは直ぐに見つかった。


「えっ、ビジネスの本ってこんなにあるの…?」


 思いの外大きいそのコーナーの、あまりの本の豊富さに驚く風花。


「そりゃ、書いてる人はいっぱいいるんだろうからね」

「そうだったのか…。5冊くらいだと思ってた」

「……え!?5冊よりは……流石に多いね」


 5冊は流石に少な過ぎるだろうと思う。そんなに少なかったらコーナーとしても成立しないだろう。いや、するのかな?


「でもそれだけお金持ちがいるって事だよね……よし!こういうのは始めが肝心だからね!最初の本はとっても大事だぞ私!」


(凄い気合いだなぁ)


 でも確かに、最初の本は重要だ。今後の読書の基準になりかねないから、どうせなら内容がわかりやすい初心者向けの本がいいかな。


「本当に色々あるんだね、こういうのって何がいいんだろう……」

「なにこれー、七つの習慣?凄いよこれ!全世界で3000万部だって!これにしようよ!」

「こんな分厚い本、風花大丈夫?」


 パラパラと本をめくる風花。


「………」


 そして再び風花の顔色がどんどん悪くなっていく。


(なんかデジャヴ……)


 さっきも同じ顔してたなぁ。


「それにこの本2400円だよ?」

「2400円!?本ってそんなに高いの!?」

「うん、この本分厚いし、多分普通の本でも1600円とかするよ?」


 値段について、あまりにも衝撃的だったのか、足元が覚束ないようだ。


「えっ……漱石さん……沢山お別れ……」


 上の空の風花をみて、私はふとある事を思い出す。


「もしあれだったらこの下にBOOK・Fあるよ?」

「BOOK・F!そうだよBOOK・Fがあったよ!」


 本の買取もしていて中古本が安く手に入る本屋大手チェーン店の存在は、今の私達にとって希望の星だった。


「100円コーナーにも色々置いてあると思うし」

「100円!絶対にそっちのほうがいいじゃん!よし行くよ!」


 いつものように突き進もうとする風花


「ちょっと、BOOK・Fの場所わかってる?」

「あ……、わかりません」


 えへへと笑う風花に思わず呆れる。


「もぉ、一緒に行くよ」

「はーい!」


 るんるんな風花。風花の手を引く事に少し物珍しさを感じてしまう。いつもは無理矢理引っ張り回されるからなぁ。


────────────────────────


「おぉ!凄いよ咲!本がいっぱいだよ!」

「それは…本屋だからね……さっきもやったよこのくだり」


 溜め息をつく私を風花は特に気にしていない。


「ビジネス本コーナーはここだね」

「BOOK・Fでも沢山あるねー。あ、あそこが100円コーナーだ!」


(本当にいっぱいあるなぁ……)


 さっきも思ったけど、本当に多い。どれがいいのか見ていると、風花が本棚を見ながら難しい顔をしている。


「まーけてぃんぐ?きんゆう?けいえいがく?とうし?………もう!あり過ぎでしょ!」

「うーん、どの本が良いんだろう……」


 同じような事が書いてあるように見えるし、種類が多過ぎてまるでわからない。


「こういう時は直感だよ!直感に頼る!」

「えー、ちゃんと調べた方がよくない?」


 直感頼りに不安を覚える私としては堅実な手をとりたい。


「だって調べても分からないし、あたしの直感はすごいんだぞ?」


 風花の言い分もわからなくはない。調べても結局はどれがいいのかわからない気がする。それに風花の直感は確かによく当たる。


「うーん、なら風花の直感を信じてみる?」

「まっかせなさーい!」


 胸を張り、直感センサーを働かせる。


「むむむ…むぅー……うぅ…」


 風花の顔が少しずつ険しい顔になっていく。


「……風花大丈夫?」

「……………!!!」


 何かを発見したらしい。


「これだよ!あたしの直感がこれって言ってる!」


 そう言いながらある1つの本を手に取って先に見せた。


「100円のコーラを1000円で売る方法?」


 私がタイトルを読み上げると、風花が本を興奮気味に押し付けてくる。


「凄くない?100円のコーラを1000円だって!これ読めばきっと、コーラを1000円で売れるんだよ!」


 目を輝かせる風花。


「うーん、絶対に違うと思うけど。ちょっと興味あるかも」


 そう言いながら私はペラペラとページをめくる。


「意外と読みやすいし、風花も読めそう。結構いいかもこれ」


 相変わらずの直感力に思わず感心してしまう。


「でしょでしょ!あたしって天才かもー!」


 鼻を高そうにしていた風花はある本棚に目を向ける。


「ねぇねぇみて!ビジネス書売れ筋ランキングだって!」

「ほんとだ。1位の本は…夢と金……」


 私は凄いタイトルだなと思い、少し興味をひかれた。


「1位の本、夢と金だって!なんか正反対な感じで面白〜」


 そう言いながら風花は笑っていた。


「これ高いのかなぁ」


 そう言いながら手を伸ばして値段を確認すると、裏には300円と書かれたシールが貼られている。


「いくらー?」

「300円」

「他よりは割高な感じだね」

「本屋さんで新刊を買うよりはずっと安いけどね」

「それはそう!」


 私がじっとその本を見ていると、風花が覗き込んでくる。


「咲、その本欲しいの?」

「欲しいというか……、どんな本なのかなーって」

「なるほど。──それなら咲はそれにした方がいいよ」

「えっ!?でも私、ちょっと気になっただけで……」

「でも、その本は咲が初めて自分で手にとったビジネス本だよ?いつも興味のある本は手に取って品定めするのに今日はそれが初めて。コーラはあたしが選んだ奴だし!」


 言われてみれば、今日は背表紙や帯ばかり見てて、手に取ろうとはあまり思わなかった。 


「うーん……」

「あたしは咲の直感を信じてみてもいいと思うなぁ」

(初めて手に取ったビジネス本かぁ)  

「……うん!私、これにしてみる!」


 私がそう決めると、風花は嬉しそうに笑っていた。


「うん!これでどっちも買う物は決まったね!そうと決まればとっとと買って、咲の家に行こー!今日はお泊まりだー♪」

「えっ!?私の家!?お泊り!?今日!?聞いてないよ!?」

「今言った!!」


 突然そう言われても困る。


「まだお母さんに聞いてないし、無理かも……」


 言い終わる前に、風花は誰かに電話をかけていた。


「あっ、もしもしー!おばさーん?風花でーす!こんにちわー!」

「えっ!?お母さん!?」


 電話の相手はどうやら私のお母さんのようだった。


「今日、咲の家お泊りしても良いですかー?───うんうん───オッケー?まじありがとうー!それじゃまた後でー!」


 そう言い終わると電話を切る。


「………お母さんいいって?」

「オッケーだって!」


 風花は親指を立ててグーサインを向けてきた。


「もぉ、勝手に話進めてー!」

「まぁまぁ、いつものことなんだからいいじゃん」

「そういう問題じゃなーい!というか自覚あんのかーい!」


 私の抗議を風花は聞き流し、私の腕を引っ張る。


「よーし!お会計して、咲の家に突撃だー!」

「全くもー……」

(本当に……忙しないんだから)


 文句を言いつつも、きっと今の私の顔には笑みが浮かんでいるんだろうなと自覚しつつ、私達はレジへと向かった。

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