10話
図書室で借りていた本を返して部室に戻ると、全員既に帰る準備を終えていた。
「す、すみません、荷物置きっぱにして……」
「別に構わないわ。私達も今片付け終えた所よ」
「あたしも今クッキーを食べ終えたところだよ!」
「なんでまた食べてるの……」
サムズアップする風花にジト目を向けていると、風花が思い出したように先輩達の方を向く。
「あっ、先輩!明日から土日で学校休みですけど、部活ってあるんですか?」
「自由参加だけどあるよ〜、私は明日もいるよ〜」
「私は行けるときだけだけれど、明日は行くつもりよ」
「そうなんですね!わっかりましたー!」
そういうと、風花が私の手を引っ張って走り出す。
「ほら咲行くよ!時間は待ってはくれないよ!」
「ちょっ…!あまり引っ張らないで!転んじゃうー!」
「玄葉先輩、桜舞先輩!今日はありがとうございました!これからよろしくお願いします!明日も来ます!」
「今日はお騒がせしてすみませんでしたああぁぁ……」
言いたいことを全て叫びながら走っていく風花と私の謝罪の声が廊下に響いて消えていく。
「本当に賑やかな娘達ね」
「これから楽しくなるねぇ」
「ふっ、そうね。──さぁ、私達も帰りましょう?」
「うん!」
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「たっだいまー!」
「うぅ……」
風花の家までノンストップで走らされて、目が回ってしまった。
「おかえりー!随分帰りが遅いのねって……」
「あっ、ママ!今日咲も泊まるからご飯よろしくねー!」
そう言いながら、私を引っ張ってニ階に行こうとする風花。だけど肩を掴まれて身動きが止まる。
「ちょっと待ちなさい。風花……?ママ何も聞いてないんだけど?」
「あっ…それは…そのぉ」
「いつも言ってるわよね?報連相はしっかりしなさいって」
「ほうれん草はちゃんと食べてるよ!……あれ、でも今日ほうれん草入ってたっけ?」
駄目だよ風花…!今茶化したらまずい事に……素で言ってるんだろうけど!
「野菜のことじゃないわよ……。報告・連絡・相談の頭文字を取って報連相………!前もって連絡しなさいってあれ程いったわよね……?」
おばさんの声が震え、怒りのボルテージが上がっていく。
「あー…忘れちゃったというか何というか……」
怒るおばさんの周りに炎の幻覚が見える。
「これで何回目だっけ?」
(あー……これやばいやつだ……)
「何度言ったら覚えていられるのよあんたはぁぁぁっ!!!」
「ごめんなさーーい!!!」
(先に上がってよう。暫くかかりそうだし……)
その後、しこたま怒鳴られ続ける風花を置いて、私はそそくさと風花の部屋に避難した。
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──部屋にて──
「何もあんなに怒らなくてもいいじゃん……」
不貞腐れる風花だけど、はっきり言って自業自得だ。
「ほらぁー、だからあの時連絡しなって言ったじゃん」
「うぅー。なにも言えん……」
「……あれ?おばさん、なんか叫んでない?」
耳をすますと、下からおばさんの声が聞こえてくる。
「え!?マジ?ママなにー?」
内容は分からないけど、とりあえず返事をする風花。
「─────入っちゃいなさい」
「えー?何ー?」
ドアが勢い良くあき、すごい形相のおばさんが入ってきた。
「お風呂入っちゃいなさいっ!!!」
「………はい……」
思わず風花が縮こまる。おばさんが顔を私の方に向けると、さっきまでとは別人のように優しい表情になる。(いつもはこっちがデフォなわけだけど)
「咲ちゃんも入ってね。おばさん選りすぐりの温泉の元入れておいたから、気持ちいいわよ♪」
「はい、ありがとうございます」
部屋を出る前に、ギロッと風花をみて、
「あんたはすぐはいる!」
と言って、ドアを締めた。
「…………………」
「……取り敢えずお風呂、入っちゃおうか」
「………うん」
完全に縮んでしまった風花を連れて、風呂場へと向かった。
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「お風呂気持ちよかったぁ」
髪の毛を念入りに乾かす。しっかり乾かさないと、髪の毛が膨れ上がって爆発しちゃう……。
「そうだねー。登別温泉をチョイスするとはやるなぁママ!」
「おばさん、入浴剤大好きだもんね」
おばさん厳選の入浴剤は凄く気持ちよかった。結局今日も風花に引っ張られて走る事になったけど、その疲れも吹っ飛んだ気がする。出来ればずっと入っていたいけど、流石にのぼせる。
「本当だよー、この前もいきなりママが温泉入りたいって言って、パパと3人でお風呂屋さんに行ったもん」
「ははは、おばさんも相変わらずだね…」
「まっ、そんなことはさておいてってやつだよ」
「?」
「これからご飯の時間!ごはん!ごはん!」
そう言いながらリビングに向かう風花。
「ちょっとまだ私髪乾かしてないー!」
急いで乾かそうにも、髪の毛はすぐには乾いてくれなかった。
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「おぉ……お、お母様これは…」
食卓の料理を見て唸る風花。
「ハンバーグとママ特製サラダだぁ!」
特製サラダは7種類の野菜が入って、ドレッシングはおばさんの手作りだ。
「美味しそう…」
「ママ!ありがとう!いただきまーす!」
早速いただこうとする風花に、おばさんのストップがかかる。
「ちょっと待ちなさい。風花、あんたのはそれじゃない、こっち」
そう言って指を指したのはお皿の上にめざしが3匹。
「え……」
何これ……?と言いたげに皿を指差す風花。
「当然でしょ、昨日も今日連絡なし何だから、あんたはこれで十分」
「そ、そんなぁ〜。マ、ママ……ごめんなさい」
涙を浮かべながら謝る風花。
「なにー?足りないのー?じゃあもう一本あげる」
「ママー!勘弁してぇー!!」
何だかんだでいつもの光景だなぁ。
「すみません、お先いただきます」
「はーい、咲ちゃん召し上がれ」
「あっ、ずるい!私も」
「あんたはめざし!」
「うぅ……うぅ…反省してますー!」
すると、横からにゃぁ〜という声がする。
「あら、ライス来たのー?」
そう言い、足元へとやってきた猫を抱きかかえて撫でる風花ママ。
この猫は風花の家の飼い猫で、名前はライスシャワー。
風花がまだ小学生の頃、おばさんと二人で歩いているときに拾ったらしい。バーマンネコと言う品種らしく、とても珍しい猫みたい。風花曰く、拾った時に近くの教会の鐘でライスシャワーが行われていたらしい。ライスシャワーは夫婦への祝福と、その後の生活の繁栄を願う行事、だからその出会いへの祝福と、これからの幸せを願ってそのまま名付けたらしい。因みに風花は「美味しそうな名前だよね〜」と、気に入ったからつけたのも理由の一つらしいけど、正直言って野暮だと思う。
「はーいライスー!ご飯だよー!」
目の前に差し出されためざしを、遠慮なく食べるライスシャワー。
「あー、ママ大変!ライスが私のご飯食べちゃったよ!うぅーお腹減ったよー!あっ!こんなところにハンバーグが!食べていい?」
わざとらしい芝居をする風花におばさんがやれやれといったふうな顔をする。
「あー、もうわかったわかった。食べていいわよ。その代わり、次から気をつけなさいね」
「はーい、かしこまりましたー!いただきまーす!」
お預けをくらった分、いつも以上に勢い良く平げていく風花。
「うーん!今日もママのご飯美味しい!」
ふと、風花のお母さんの顔を見ると、ライスを抱きながら嬉しそうだった。
「ママ、このドレッシングまた新しいやつでしょ!」
「そうだよ!なんかアイディア湧いてきて作っちゃってさ、結構美味しいでしょ?」
「これやばいよ!」
「本当に美味しいです」
おばさんのドレッシングは絶品だ。これまでいくつもの手作りドレッシングを食べてきたけど、そろそろ本を出せるんじゃないかな。
「あら、ありがとうね」
「風花……もう少し落ちついて食べなよ…口の周り、ソースとドレッシングでべたべただよ」
「まったくこの娘は……。いつも落ち着きがないんだから」
「うぇ…あってぇ……うぉれ……おぅぃしぃぉ……」
「「食べてる時は喋らない!」」
私とおばさん、二人同時に叱られてちょっとビクッとしてたけど、口に入れてた分を飲み込んだらまた食べ始めた。……やっぱり風花が落ち着いてご飯を食べるのは無理そうだ。




