お子さんへ。上を見なさいと思います。
何事も前向きになろう。
何事も上を向いていこう。
とても良い事だと思う。
「しかし、残念ね。そう思わない?」
「何がですか?酉さん」
車で営業先に行く酉と三矢の2人。
信号待ちしている最中、丁度横にあった中学校。制服を着た若い子供と大人の中間体。
「ああ、あの頃に戻りたいって気持ちですか。女性あるあるですね」
はははって、いつも酉に振り回されている三矢が、仕返しとばかりに先制パンチ。女性に言われるとカチンと来てしまう言い方に、車を運転しながら三矢はニヤリとしたが。
酉はそんなことなど思っておらず、逆に三矢に尋ねる。
「最近の子って下を向いていて、落ち込んでる感じなのよね」
酉が見ているのは、階段を一緒に上がっている女子と男子。微妙な距離に、
「これはスマホの影響かしら?ゲームの影響かしら?」
「……確かにないとは、言い辛いですね」
「あの場面なら三矢くん。上を向ける?」
なんの意図がある質問だ?
ブロロロロロ
車を発進させると同時に三矢は
「俺は前を向きますよ。上見て生きてます」
「なるほどね」
三矢の答えを聞いて、酉は何かを理解したのか。
「さっき男の子が顔を上げてれば、同級生のスカートの中が見れたと思ってたんだけど」
「あんたは何を観察してたんだ!!?」
「やっぱり、2次元と3次元の違いは、もう分かってるものかしら」
「分かってるわ!!子供でも分かる!!」
◇ ◇
営業が終わった。
結構な取引となった後、酉はまた三矢に尋ねた。
「……やっぱり、上を見るのは難しいのかしら」
「な、なにが?」
「三矢くんはやっぱり前を向いて、上を見るのよね?」
それは顔を見なきゃコミュニケーションができないからな。
「でも、あの取引先のおじさん。ずーっと、私の下。胸から下を見てたんだけど……そんなに大きくないわよね?」
「自分で蔑むなんて」
「バレないと思ってるの?女性にはバレバレよ」
そう言いながら、三矢に体を近づける酉。この逆セクハラ的な絡みが面倒だ。
顔を見れば、
「男の人って顔で判断するのね?」
胸を見れば、
「男の人って胸を見てきて、イヤらしい」
じゃあ、一切見なければ
「なにそれ。ちょっとはこっちを見てよ」
どんなにも面倒な対応をされるもんだ。こんな無茶な口撃に、こっちは視線をどこに向ければいいか。そして、女はズルイ。だって、男の顔と態度しか見ていない。
別に好意はないが
「あー、バレて結構ですよ。花屋に行って買わずに帰る男だっているだろうが、酉さん!」
「……ふふっ。それはそれって事ね。別にいいんだけど」
可愛い、なんて思われる事の方が屈辱だ。
この人にはホントに振り回される。
三矢だってこのままじゃダメだと思い、尋ね返す。
「酉さんはどっちを見てるんですか?」
「上から下を見ていくわ。人、全身を見てあげるわ。失礼だもの」
そーいう返し。俺がしたら、絶対に難癖を付けるだろうな。しかし、
「……下まで見るのか?」
「私に興奮してる男性の方を、笑ってあげるの」
「やめなさい。そーいうの失礼だから。ホントに直視とかするな」
三矢はこっそりとズボンのポケットに、手を入れた。