世界は循環していた筈だった。
はじめまして、こんにちはこんばんは。サナギと申します。
昔は朝が嫌いでした。来なきゃいいのにってな。
そんな感情から生まれた物語です。どうぞ宜しくお願い致します。
突然だが、君達は「朝」という存在を知っているだろうか。毎日必ず我々に訪れる概念の事だ。太陽が昇り、人間が生命活動を始める導となるもの。勿論、人によっては違うのかもしれないが。
当たり前だが、この世界には昼と夜、そして朝がある。太陽が昇り沈んでいくように、循環する日常は変わらない。世界に住まう住人達はこの巡り巡る現象を疑う事もしなかった。当たり前の事だ。
人々は知らない。朝から昼に変わるその扉を、ある管理者が開けている事を。また昼から夜、そして夜から朝も、それぞれの管理者が世界の空に鍵を差している事を。
一日に一回。たったそれだけ。たったそれだけが、この世界の管理者の務めである事を皆知らない。身分を隠しているのだから当然だ。
だからこそ、人々は困惑した。他国との大きな戦争がようやく終わったのち、時間が経っても日が昇らず、夜が明けなかったから。例え午前8時になっても、午後2時になっても、景色は闇のまま。時間だけが過ぎていった。当然のように、国中は大混乱になった。
未だこの国は暗闇に包まれたまま、今か今かと夜明けが来るのを待っている。
そうして、五年の時が流れた。
夜が続き、人々の生活にも変化が起きた。この国、美此世(とはもう名ばかりなのだが)の警察権を持つ組織が拡大したり、必然的に必須となってしまった明かりの製造業が活発化したり。他にも色々。
世間では「八咫烏」と呼ばれる組織がある。前述したこの国の警察権を持つ組織の事だ。国家を守る治安維持組織として人々には認知されている。その組織の元締め、謂わば親会社みたいなものがある。その名は「暁」。
さて、この国に住む生物は主に二種類いる。人間と、妖だ。人間は昼の時間に、妖は夜の時間に活動するのがこの国の暗黙の了解となっている。歴史を辿れば理由もわかるのかもしれないが、今を生きる者達にそんな事を調べる暇はない。
人間と妖が住まうこの国では、夜になると狂暴化する者や、逆に生命力を失う者が居る。個体差と言う奴だ。八咫烏はそんな、夜となってしまった国で起きる様々な出来事を対処し、また保護する役目を担っていた。
世界は夜のまま。夜明けを待つ人々の願いもまた、叶わないまま。時間は止まってはくれないのだ。
そんな事、分かっている。分かっているよ。
たとえそれが、世界を循環させる能力を持つ管理者であっても。