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【31話】最後の砦だった場所




 ヴァルカン帝国。

 首都アルダン。

 人口350万人、ヴァルカン帝国の北部に位置しており、南側にあるレシュフェルト王国領からはかなり離れた場所にある。

 海に面していることから、貿易も盛ん。

 まさにヴァルカン帝国の首都たる発展を遂げている。


 レシュフェルト王国からアルダンまで、馬車での移動は数日を要した。騎竜であれば、もう少しスムーズな移動が出来たのかもしれないが、そこまで急ぎで向かう理由もなかったため、馬車で十分だとヴァルトルーネ皇女は考えていたようだ。


「お疲れ様、アルディア」


「ヴァルトルーネ皇女殿下も」


「ええ」


 長旅を終え、労いの言葉を掛けてくれるヴァルトルーネ皇女。

 馬車から降りれば、既にアルダンの街並みが目の前に広がっていた。

 いくつもの高層建築物。

 統一感のある落ち着いた色合い。

 それがずらりと帝城に向けて並ぶ。

 中心部に向かえば向かうほどにその建物の数は増え、街並みを一望した感想として出てくるのは「圧巻」その一言に尽きる。



「ここは凄い場所ですね。……レシュフェルト王国とは全然違う」


 過去の世界で、ヴァルカン帝国の街並みをゆっくり眺めたことなどなかった。

 この都市も……目の前の敵をただ斬り伏せることだけを考えていたからか、こんなに素晴らしい街並みだった記憶など微塵も残っていなかった。


「そうね。ヴァルカン帝国の建築方式はレシュフェルト王国のものとは異なるわ。建造物の美しさをより重視するのがレシュフェルト王国。反対に機能性と都市の要塞化に重点を置いた建築をするのがヴァルカン帝国。王国から帝国に来た人たちは皆別の世界に迷い込んだみたいだと口を揃えて言うわ」


 彼女の言う通り、ヴァルカン帝国の建物はとても頑丈そうな素材で作られている。

 それに都市を取り囲む城壁は高く分厚い。



 ──要塞化に重きを置いたという言葉にも頷けた。

 


「アルダンは海に面している分、陸地から都市への入り口は限られているわ。……過去にレシュフェルト王国に追い詰められたヴァルカン帝国軍がここ、アルダンを最後の砦として戦った。圧倒的に不利な戦力差の中、7ヶ月もの間レシュフェルト王国含む連合軍から容赦のない猛攻を耐え抜いたのは、この都市が守り易かったお陰ね……」


 ヴァルカン帝国完全敗北に至るまでの道のりはそれなりに長かった。

 この場所で過去のヴァルカン帝国は勇敢に戦い散っていった。

 ヴァルトルーネ皇女もこの場所を守り抜こうと必死に奮戦したのだろう。

 彼女の顔は懐かしさと悲しみが混じったような複雑な感情を宿しているようであった。


「ヴァルトルーネ皇女殿下」


「ん?」


「今回は絶対に……守り切りましょう」


 陥落した過去はこの世界には存在しない。

 俺とヴァルトルーネ皇女の心の歴史にだけ刻まれたもう一つの世界での出来事。


 ──ヴァルトルーネ皇女が負ける未来はもう来させやしない。


「そうね。必ず!」


 ヴァルトルーネ皇女は俺の手を握ってきた。

 温かく、細くしなやかだが、同時に力強さも感じる綺麗な手。この手が血に濡れ、何人もの悲しみを背負わなければならなくなると考えると胸が苦しくなる。

 きっとそれはヴァルトルーネ皇女に与えられた宿命。

 逃れることなど出来ないものなのだ。けれども、彼女の背負う負担を軽くすることは出来る。


「支えます。貴女を──貴女だけをこの命がある限り」


 だから、この手を離す日は訪れない。


 そして、この都市を血生臭い戦場に変えることが二度とないように誓う。


「人探しをするんですよね?」


「ええ、アルディア。私は自由に動き回れない……だから、頼んだわよ」


「はい、必ず見つけます」


 どうかこの平和がこの先も維持できますように。

 そう心の底から願った。




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  『悪辣傭兵と正義の女騎士の穴だらけ共闘計画』〜裏切り者のクズ公爵を制裁すべく、女騎士との共同戦線を張り巡らす〜

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― 新着の感想 ―
[一言] 相模先生 おはようございます。 このたびはたいへんお忙しいところを ごていねいにご返信のメッセージをいただき まことにありがとうございます! たいへん嬉しく拝読いたしました。 またご連絡…
[一言] 相模優斗先生 こんにちは。はじめまして。 ご作品、とてもおもしろく、楽しく拝読しております。 主人公ふたり?のほかにも 個性的で有能な主要人物がたくさん登場しそうでとても楽しみです。 (…
[一言] 栄えてはいるが、流石に人口が多すぎる気が致す。 中世の都市で多くて10万だから
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