番外編『在りし日の皇女と王国騎士』
過去番外編です。
あとがきにお知らせあるので、最後までご覧ください!
これは、俺とヴァルトルーネ皇女がぶつかり合っている頃の話。
火の粉が舞い散る戦場で、俺たちは互いに武器を構えながら向かい合い立ち尽くしていた。
「流石の腕前ね」
「それはこっちの台詞だ」
邪魔者は誰一人いない。
多くの死体が積み重なった悲惨な戦場。
遠方では無数の爆発音と勇ましい叫びが聞こえてくるが、近くに生きている人間は俺とヴァルトルーネ皇女以外にはいなかった。
俺が息を荒げている中、彼女は余裕そうな表情を貫いたまま、こちらに一歩近付いた。
そして疲労を感じさせる吐息を吐いて一言。
「ねぇ……一時休戦にしない? 他に誰も見ていないことだし」
意外な言葉に目を大きく見開いたが、彼女は戦意がないことを示すように微笑んだ。
そんな緊張感の失われた態度に毒気を抜かれた俺は頷いて剣を鞘に収めた。
「……皇女が敵国の騎士に休戦を提案するなんて、どうかと思うぞ」
「なら剣を構えていてもいいのよ?」
「……興が削がれた。休戦に応じる」
「あらそう。ふふっ」
彼女は無防備にも、俺の近くに腰を下ろした。
俺が裏切り、自身の首を刈り取るとは微塵も考えていなさそうな顔だ。
「貴方も座って」
「ああ、分かった」
俺は促されるまま、ヴァルトルーネ皇女の隣に座り込む。
敵対している者たちが、互いに寄り添って座るなんてことは、普通ならあり得ない。
遠方では今も兵たちが戦っており、爆音が響き渡っている。焦げ臭さと死臭が漂う真っ赤な戦地には似合わない状況だった。
「なんだか悪いことをしている気分ね」
「……確かに」
「でも背徳感? ……みたいなものがあって、私は嫌いじゃないけどね」
「皇族が一番言っちゃいけなさそうな言葉だな……」
「そうかもしれないわね」
彼女は苦笑いを浮かべながら、こちらをじっと見つめてくる。
「ねぇ、貴方はどこか遠くに逃げたいと思ったことはない?」
不意の問いかけに俺は即答する。
「そう思ったことはないな……逃げたいのか?」
「ええ。何もかもを投げ出して、誰も私のことを知らない土地に行きたいと……戦場で人の命を奪うたびに思っているわ」
無益な戦いは俺も好きじゃない。
ヴァルトルーネ皇女のように、敵国の兵を殺すことに罪悪感を覚えたりはしないが、大切な人が死ぬごとに、戦争の無益さを実感する。
「貴方が私と一緒に逃げてくれると言うのなら、私は喜んで帝国を捨てるかもしれないわ」
「冗談はよしてくれ」
「あら、私は結構本気よ?」
「本当に……皇女とは思えない言動だな。調子が狂う」
ヴァルトルーネ皇女は明るい声音で話してくるが、言葉の節々に彼女の真意が見え隠れしている気がした。
暫く無言の時間が続いた。
地面を見続ける彼女はとても綺麗で、戦場にいることを忘れてしまいそうになるくらいに穏やかな空気が流れていた。けれども、幸せな時がずっと続くことはない。
こちらに近付いてくる足音を感じ、俺とヴァルトルーネ皇女は全く同じタイミングで立ち上がる。
「名残惜しいけれど、休戦の時間は終わりね……」
「ああ……」
敵味方か分からないが、敵対している者同士が仲良くお喋りを続けてはいられない。
「今日は楽しかったわ。貴方と話すことができて……」
純白の白髪を揺らし、ヴァルトルーネ皇女は背を向ける。
「さようなら……次も生きて会えたなら、またお話しましょう」
「ああ」
その後ろ姿はどこか寂し気で、俺は言葉を返すことができなかった。
もう再会することはできないかもしれない。俺か彼女が双方生きて、戦場で戦い続けられる保証なんてないからだ。
両軍が激突する前に、ヴァルトルーネ皇女の姿は消えていた。
「生きて会えたら……か」
独り言を呟き、真っ黒な空を見上げていると、後方から声がかかる。
「アルディア殿、ご無事でしたか!」
煤だらけの鉄鎧を身に纏った部下が周囲を警戒しながらこちらに歩み寄る。
「ああ、まあな」
「損害が激しいため、王国軍は撤退を開始しております。アルディア殿も急ぎ、拠点に帰還してください。立て直し再攻撃の機会を窺いましょう!」
王国と帝国の戦争はまだまだ続く。
だからきっと、彼女とはまた会えるだろう。
心の奥底には謎の確信があった。
彼女は死なない。
だから俺も──彼女と再び出会うまで、死ぬことはできない。
在りし日の皇女との一幕は俺にささやかな生きる意味を芽生えさせた。
お久しぶりです。相模優斗です。
この度隠れ最強騎士の第4巻が2025年4/25日に発売されます!
4巻発売に際しまして、WEB版の方も105話よりリメイク投稿を実施していきたいと思っております。
隠れ最強騎士第2巻から諸事情によりWEB版とは違う展開になっていき、こちらの更新をどうしていくべきか分からなくなり、更新を止めてしまいましたが、思い切って書籍とWEBは別のストーリーとして動かしていくことを決めました!
リメイクは9章105話から実施していきます。
今後ともよろしくお願いします!
暫くは番外編の投稿になるかと思いますが、重ねてよろしくお願いします。




