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【10話】今世でも貴方を……




 さて、ここからどうしたものだろうか。

 前回と大きく違う展開に困惑したまま、俺はヴァルトルーネ皇女の方へと歩く。

 泣き腫らした顔のヴァルトルーネ皇女にハンカチを差し出したあの時とは違う。彼女はこちらの存在をいち早く認識して、あろうことか俺に出てこいと呼びかけてきた。

 それにユーリス王子に婚約破棄と言われた時のヴァルトルーネ皇女の落ち着いた様子……まるで全て知っていたかのような表情だった。


「…………」


 彼女は一体……何を考えているのだろうか。

 ヴァルトルーネ皇女は、明らかに変わっている。

 前世で。

 同じこの場所で。

 俺が直接目にしたヴァルトルーネ皇女は、触れれば脆く壊れてしまいそうなくらいに不安定なオーラがあった。けれども、今目の前にいるヴァルトルーネ皇女は違う。


 瞳の奥にある輝きは潰えることなく燃え続け、予定調和であるかのように堂々とした立ち振る舞いを披露してみせた。真っ白く、雪のようなキラキラした白髪は風に揺れて幻想的な様相を表して。

 極め付けは、


「アルディア=グレーツ……」


 歩み寄るはずの俺が、逆に彼女から歩み寄られているということだろうか。ヴァルトルーネ皇女は俺の目の前まで来て、俺の左手を包み込むように握る。


「えっと……」


 予想していなかったからか、言葉が詰まって出てこない。そんな俺にヴァルトルーネ皇女はクスリと笑った。

 そして、笑ったことに対して柔らかい面持ちで謝ってきた。


「ごめんなさい。貴方の困り顔が可愛くて、つい……」


「いえ、構いません」


「ふふっ、やっぱり…………変わりませんね、貴方は」


 彼女は儚げに微笑み、小声で呟く。


「ずっと……貴方に会いたかった」


「え……?」


 その一言はまるで、生き別れた友人に向ける言葉のようであった。

 ヴァルトルーネ皇女と俺は士官学校に通い続けていたはすだ。

 であれば、『会いたかった』なんて言葉を発するのは不自然なこと。今の俺とヴァルトルーネ皇女は面識なんてないはずだ。


 いや……違うな。

 前世でも、彼女は俺のことを知っていたと教えてくれた。

 俺はそれを知らずとも、彼女が俺のことを認知しているのは別におかしくないのか。


「あの……ヴァルトルーネ皇女殿下? 失礼ながら、私と貴女様は同じ学舎に通われていて……えっと、だからその」


 喉に引っかかる言葉をなんとか押し殺し、努めて冷静にそう尋ねてみる。

 その表現がどういう意図で口から出たのか……そう聞いてみたかった。俺の反応にヴァルトルーネ皇女はまたも頭を下げた。


「ごめんなさいね。こんなこと言われたって、貴方からしたら意味の分からないことよね」


 なんだろう。

 ヴァルトルーネ皇女の青い瞳が一瞬大きく揺れたような気がした。俺が彼女からの勧誘を断った時と同じ顔。ちょっぴり寂しそうでいて、それでも衰えることのない意思の籠った顔。


「皇女でっ……!」


 皇女殿下と呼ぼうとしたところ、俺の視界は完全に塞がれていた。皇女殿下の胸にすっぽりと収まり、彼女の心臓の鼓動がドクドクと聞こえてくるのが分かった。


「少しだけ、このままで…………お願い」


 返事を返す気すら起きなかった。

 彼女の啜り泣く声が聞こえたから──。


 婚約破棄はやっぱり辛いものだったのだろう。

 前回と違う行動をしたのは、恐らく隠れていた俺を発見したから。

 きっとずっと我慢していたのだ。

 ユーリス王子との婚約は彼女の望んだものかは定かではないが、彼女の心に傷をつけたことは明白である。


「ダメね……泣くはずじゃなかったのに」


 ──泣いたっていいんですよ。あの修羅場は貴女にとって相当堪えるものだったんですから。


 しかし、俺の考えとは裏腹に彼女の次に発した言葉は、これまでしてきた考察を根底から覆すようなものであった。


「アルディア……やっぱり。今世(・・)では貴方を私の側に置きたいわ」


 決定的な一言。

 それは彼女が明らかに変化した理由の一端でもある。




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[一言] もうクライマックスだな(スタンディングオベーション)
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