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44肉親

 発電所のエントランスロビーへと入った途端に、空気が変わるのをその場の皆が感じた。


「よく来たナ」


 声に導かれ視線を向けると、ノーライフキングの姿があった。

 まだ昼ではあるが、電気の消えた館内は薄暗く、彼の赤く光る目玉と、全身を覆う青白い炎のようなものが、その存在を妖しく浮かび上がらせていた。


「ようやく、ここまでたどり着いたのだ!」 


 本来であればここでお互いに口上を述べたりするのが一般的かもしれないが。

 そんな悠長な事をする間柄でも無いわけだ。

 一桜が滝に向かって頷くと、一瞬で地面を蹴った。

 同時に滝もバズーカを構え、チャフグレネードを発射した。

 相手は術師。

 魔法を封じた上で手数で押しきりさえすれば勝機はある!


 撒き散らされる銀紙を突っ切る弾丸のように進む一桜は、その刃を煌めかせた。


 しかし振り切る寸前、透明のガラスの壁にぶち当たったように弾かれる。


「なっ!?」


 相手は動いた気配もないが、確かに一桜は弾き返されていた。

 突然の衝撃にめまいを起こしたのか、すぐに立ち上がれそうにない。


「ホッパー!」


 すかさずクエスが彼女の足元に回避の魔法を放ったが、チャフの影響で発動しなかった。


「まずいのだ!」


 ノーライフキングが一桜に腕を伸ばしかけたところに、銀色の塊が飛び込んできて、かっさらって行く。


「大丈夫かな?」


 ライザックは一足早く彼女の後を追っていた、本来ならば連携で攻撃に回る予定だったのだろう。

 一桜はまだ頭がくらくらするものの、壁にもたれながら立ち上がる。


「ここから全て見せてもらっていタ。こっちの世界の人間は不思議な魔法を使うのだナ」


「対策済みって事でしたか」


 先ほど苦渋をなめさせられた、チャフの奇襲が通じないことにライザックは苦笑いを隠せない。

 自分が捨てゴマにされた気分だ。


「だがあらかじめ出しておいた魔法ハ、消せないようだナ」


 電気信号は、あらかじめ世界や物質が有している力に働きかけるものであり、それが発現したあとには効かない。

 魔法で生まれた炎に、銀紙を振り掛けても何も起こらないように。


「そうなると、あれは加護……インディネの加護です」


 小さな声で魔法を解説してくれるエリン。

 この時点でトランドール出身者は理解できたのだろう、苦い顔をする。


「風の神にお願いして、風が動かないようにする魔法です」


 この補足説明で、風とは空気の事だと滝は理解する。

 つまり、動かせない空気の壁を作って、攻撃を避けるための魔法なのだと。


 実際、銀紙がその見えない壁に遮られ、一部は上に乗っている。

 宙を舞っていたものがヒラヒラと落ちると、壁を消したのだろう、乗っていた残りも落ちてきていた。


「こちらにも魔法使いがいるのだ。小細工するより正面から戦った方が良いのだ」


 責める訳ではないが、戦況の把握をせずに飛び込んだ一桜に向かって、一歩前に出たクエスが言った。

 その言葉にピクリと体を跳ねさせたのはエリン。


「でも、リッチ以上の高位のアンデットには殆ど魔法なんて効かないって……それに私は拘束の魔法を解くわけにはいかなくて」


「そうだな、私のターンアンデットか、ミラックの聖職魔法くらいなのだ」


 クエスの言葉に一瞬視線をミラックに向けた一同だったが、すぐに戦場へと戻した。

 彼女の協力を期待していないというより、彼女に頼りたいと思う者はここには居なかったがゆえだろう。


「ということは、なんとしてでもクエスをサポートし、ターンアンデットをあいつに当てなければいけないわけだね」


 一桜が体勢を整えるのを見守っていた聖騎士ライザックが持ち前のリーダーシップを発揮し始めた。

 となりの一桜の方も、体は痛むようだが立ち上がって刀を鞘に戻して構える。


「相談は終わったかナ?」


 その様子を微動だにせずに待っていたノーライフキングは、どこか嬉しそうな声色でそう語った。

 そして手を空中で振ると、発電所の奥から何十体というスケルトンがワラワラと溢れだしてきた。


「ターンアンデット!」


 状況を把握すると同時に、殆ど条件反射で魔法を使うクエスだったが、スケルトンはその動きを止めなかった。


「なっ!」


 一瞬状況を飲み込めずに固まったクエスだったが、何かに気付いたのか、ホッパーで横に飛んだ。


 クエスがいた場所を漆黒の球体が通りすぎ、そのまま建物の玄関に穴を穿った。


「よく避けたものだナ」


 一瞬の隙を見逃さずに、ノーライフキングが魔法を放ったのだ。


「このスケルトンは特別製でネ、生きたまま呪いをかけて、皮を剥ぎ身を削いだのダ」


 クエスはこの秘術に心当たりがあった。

 これは魔法ではなく儀式で作り出されたスケルトン。

 まだトランドールに魔法という概念がなかった時代に行われていた、失われた技。


「貴様は物知りだな、もうジジイしか知らない技だと思っていたのだ」


「当然ダ。私がそのエグザス・ラビリスだからナ」



 衝撃。

 クエスの頭はハンマーで殴られたかのように暗転。

 思考が止まった。


 しかし、その思考を無理やり戻したのは、肩を貫く鋭い痛み。クエスの動揺を狙って、槍状にした魔法を放ってきたのだった。


「ぐぅっ!」


 唸り声を上げながらの一瞬で、二本目、三本目の槍を回避する。

 そして睨み付けるようにその虚空の眼底を睨み付ける。


「それガ、再会した肉親に向ける目かネ?」


 さも愉快そうにカタカタと顎を鳴らして嗤う。

 クエスは懐から水晶の入った袋を取り出すと、ノーライフキングを更に睨み付ける。


「フン、信じてないようだナ」


「そんな戯言に騙されないのだ!」


 口ではそう言ったが、クエスは魔神討伐のために国に召集されたあとの、エグザスの動向を知らなかった。

 いや、知ろうと思えば知れたのだろうが、知りたくなかった。

 その名前を聞く度に、16年という長い間の修行付けの日々を思いだし、うなされなければならなかったからだ。

 願わくば討伐から帰ったのちには、死んでいて欲しいとすら考えていたほどだ。


「私は老いる事のない身体を望んだ。その結果自分を不死者にする秘術を使い、ノーライフキングへと進化したのだ」


「バカな!」


 クエスは叫び声とともに、黒い魔法球を放った。

 会話をしている間にも、じわじわとその距離を詰めてきていたスケルトンに当たり、大きく吹き飛んだ。

 しかし、その身体はバラバラにはならず、さも当たり前のように立ち上がったのだ。


「お話のところ申し訳ないんだが」


 クエスが状況を把握すると、声の主が壊れないスケルトンをブロードソードで弾き飛ばすのが見えた。


「こいつはどうやったら壊れるのかな?」


 多少の焦りを見せたライザックが、こちらにスケルトンが押し寄せないよう、必死に戦線を保ってくれている。


 今までのスケルトンは魔法でその骨同士を保っていたため、魔法を当てたり、繋がりが切れればバラけていたが……。


「普通に攻撃してもだめなのだ! その術は《概念》に縛る術が施されているのだ」


 その言葉の意味が伝わったとは思えなかったが。

 人間の骨は、頭蓋骨に脛椎が繋がり、鎖骨や、肋骨がくっついている。

 そういう《概念》にそれぞれの骨を縛っている。

 だからその腕を引き離そうとしても、絶対に引き離せないという代物だ。


「身体の何処かに術を施した印があるのだ、そこをねらうのだ!」


「オッケー!」


 代わりに返事をしたのは一桜。

 一瞬で孤立したスケルトンに詰め寄ると、それが持っている刀を反らして弾く。

 観察するがそれらしきものはないようだ。


「背中側かな?」


 スケルトンが剣を構え直して振り上げた一撃を、一桜はヒラリと躱して、刀で左肩を横に軽く薙ぐ。

 剣を振り下ろした勢いと、刀の攻撃でバランスを崩したスケルトンはそのまま前のめりに倒れた。


「うわ、こんなところに」


 その後頭部あたりに、一見してソレだとわかるいかにもな模様が、赤い血のような文字で描かれている。

 スケルトンを足で押さえつけ、その印目掛けて刀を突き刺した瞬間。

 手足の骨が重力に従って地面に転がった。


「これは、難儀しそうかも」


 一体を仕留めた一桜は苦笑しながら数十体のスケルトンを眺めている。

 その様子を横目で見ながらも、クエスはノーライフキング……いや、エグザスを牽制していた。


「お前の仲間が我が僕を屠るのが先カ、それとも私がお前を屠るのが先かナ」


「私がお前を殺す選択肢が入っていないのだ!」


 クエスは黒い槍を数本浮かべると、同時にエグザスへと向けた。

 しかし、ヒモ状にした黒い鞭でそれを叩き落とすと、そのまま風を切って振り回してくる。

 その流れるような攻撃を、左手に纏った黒い弾で弾き返す……。


 彼女達の戦いは拮抗していた。

 完全に同じ質の魔法の戦いでは決着がつかないように思えるほど。


「このままでは埒が明かないナ、ひとつ昔話でも聞かせてやろウ」


 唐突に。しかし確実に嘲りと悪意を持った声でエグザスが切り出した。

 もちろん攻撃の手を緩めるわけではない。


 クエスは敵の攻撃を躱して、弾いて、隙に攻撃を叩き込むだけで精一杯、話などできるはずがない。

 しかしエグザスは、まるで食事をしながら話すように、自然な雰囲気で言葉を発し始めた。


 その一言目がクエスの心を抉る。


「お前の両親を殺したのは、私ダ」

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