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31話『ステルス行動』

 もうすぐ合流場所だったが、クエスの魔法強化のためにショッピングセンターへと寄り道をすることになったわけだが。


「いやぁ、壮観ですね」


 三階建ての駐車場の上から、ガラス張りの天井の下にいるゾンビを見下ろして、藤代がぼやいた。


「絶対に弾も足りないし、気付かれないように一匹づつ倒してたら、一月以上掛かりますよ」


 そんなことは一目瞭然だ。

 正攻法で行っても突破できるはずがない。


「ここでひとつ、試してみたいことがあるのだが」


 どうするかと悩む一同に、満を持してクエスが皆に語り出す。


「疑問点として、なぜ彼らはお互いに殺し合わないのかというとこだが」


「そりゃぁ、仲間だからでしょ?」

 藤代がまたもや口を挟む。


「いや、彼らにそんな知能はないのだ、単純に噛んでも意味がないからだと思うのだ」


 もう呪われている者を、これ以上呪う必要がないから。ということなのだろう。

 それについてはみんな納得した。


「というわけで、これは実験的要素もかねているのだが……」


 ごくり、と生唾をのむ音が聞こえる。


「私が誰かをスケルトン化させれば、襲われないのではないか?」


「へぇ、それは名案ね」

 藤代がその案を肯定したことで、他の三人の目が藤代に向く。

「で、誰がやるの?」


「名案だと思っている藤代君に任せるよ」

 流石の古沢も、怖じ気づいているようだ。


 効くかどうかもわからないお守りを持って、ゾンビの群れの中を歩けと言われているのだから当然だ。


「私ぃ!? 冗談じゃないわよ」


「だが、今名案だと言った」

 普段無口な滝までもが、生け贄を押し付けようとしている。


「ムリムリムリムリ!」

 両手を顔の前でせわしなく振っているが、二人の自衛官はそれに圧力を掛けるかのように寄っていく。


「大丈夫、私がやります」


 そこに救いの手、一桜が名乗りを上げた。


「良いのか、一桜」

「大丈夫、いざとなったら術を解いてくれれば、私なら戦えるし」


 今にも生け贄にされそうだった藤代はほっとため息を付くとともに、男どもを睨み付けている。



 こうして、一桜が被験者となり、ゾンビの群れに入る事になった。


「俺たちは、駐車場で待機しているから、危なくなったら逃げてこい」


 古沢たちに見送られ、階段を使い慎重に降りて行く。


「じゃぁ一桜、頼んだのだ」


 そう言うと、クエスは呪文を唱える。

 彼女の得意とする水系の魔法でないために、少し手こずっているようだが。


「マーチングボーン」

 その瞬間、一桜の体から力が抜ける。


「うっ! これ、結構きついね」

 顔をしかめる一桜。


「まて、立ち上がろうとするな、筋肉を使って立とうとしても、骨が言うことを聞かないから無理なのだ、力を抜くのだ」


 言われるがまま、全身の力を抜くと、筋肉に掛かる痛みがすっと取れる。


「さぁ、行くのだ」


 クエスはといえば、自衛隊が用意した寝袋に頭まですっぽり収まっている。


 ゾンビたちは、人間を見付けると襲いかかるが、障害物に隠れていたり、それを人間と認識しなければ襲ってこない。

 その習性を利用するために寝袋に入って、一桜に引っ張って貰う作戦だ。


 階段の踊り場から曲がると、すぐにゾンビがいた。


「居るよ、早速」

 一桜がそう言おうとしたが「うぁあー」としか聞こえない。

 骨を支配されているから、顎も動かない。言葉にはならなかった。


「そうだろうな、そのまま真っ直ぐ進むのだ」


 しかし、発した音さえ聞こえれば込めた意味が伝わる、コモンラングルのお陰で会話することは出来るらしい。



 ソンビとすれ違う。

 目や瞼は筋肉で動くため、一桜の目がキョロキョロ動いている。


「目を閉じておくのだ、人と思われたら終わりなのだ」


 クエスは寝袋の中から的確にそれを指示する。

 これは、自衛隊の戦闘を覗いていた「バードウォッチャー」の魔法だろう。

 出し惜しみをしている場合ではない。やれること全てを使って、可能性を探しているのがわかる。



 一桜はゾンビの横をすり抜けた。

「やった、これなら」

 唸り声をあげながら、一桜の体は進む。


 2匹、3匹……

 どうやらこの作戦はうまく行った。


 一気に進み、目的地であるヒーリングストーンの店へと到着することが出来た。



「着いたけど、この中からどうやって探すの?」


「取り敢えず目ぼしいものを寝袋の上に落とすのだ」


 そう言われても体の主導権はクエスが握っているので。


「じゃぁ水晶を探すね」

 一桜は目だけで回りを見渡した。


 店頭には大きな品物はあまり置いていないのか、小さな欠片で水晶が売られている。


「取り敢えず水晶と言うものであれば、なんでもいい、まずは試してみたい」


 一桜が指示する石を、たどたどしい動きで地面に叩き落とす。

 一斉に近くのゾンビがこっちを振り向くが、人間の姿を認識しなかったのだろう。すぐにまたよろよろとさ迷い始める。


「怖ぁー」

 一桜が唸っている間に、隙を見てクエスが寝袋から手を出し、一つ拾い上げる。


「これが水晶と言うものか……」


 手触りは角がなくツルツルしている。

 クエスはほんの少しだけ魔力を込めて魔法を発動してみる。

 水晶は寝袋のなかで、微かに光を放った。


「これは!」


 感嘆の声が寝袋から漏れそうになる。


「なんと純度の高い珠なのだ!」


 手に持っている石は前の世界で使っていたものとは比べ物にならない小ささだが、同等と言えるほどの効果を発揮した。


「こんな国宝級の輝石が、一般に売られているというのか!」


 あまりの興奮っぷりに、ゾンビにばれてしまうのではないかとヒヤヒヤする程漏れ出ている。


 かなり興奮気味のクエスに水を注すのもどうかとは思うが『一個500円』と値札には書いてある。


「それ、コーラ5本分くらいだよ?」


 開けたままの広角をひきつらせて、一桜が言う。顎が動けば苦笑いといった表情だろうか。


「何だと。あのコーラという飲み物は国宝級の産物だったのか!?」


「いや、豊田さん助けに行ったとき普通に並んでたでしょ?……強いて言うなら、お昼ごはん一回分くらいの値段かな」


 寝袋の中でわからないが、きっと顎が外れるほどに驚いているのだろう。


「もし私が、トランドールに帰ることが出来るのなら、ここにある石を全部買って帰るぞ!」


「しーっ! 興奮しすぎだってば」


 一桜は困ったように辺りを見回した。

 その時、カウンターの下に水晶玉の大きなものを発見したのだ。


「クエスちゃん、お目当てのものあったかも!」



 こうして、さらに興奮するクエスを抑えながら、なんとか水晶を手に入れることが出来たのだった。




「良かった! ミッション成功したのね!」


 帰ってきた二人を見て、藤代が抱きつく。


「はいご心配掛けましたが、作戦はうまく行きました、あちこち体が軋む感じはしますけど」

 骨の自由が戻り、苦笑いをする一桜。


「私も、自分で操るのがあんなに難しいとは思わなかったのだ」


 普段なら「敵を倒せ」とか簡単な命令だけを送って、あとは放ったらかしにする。

 スケルトンは2単語程度しか理解できないため、割と簡単な命令しか出来ない。なので、一桜を操作するためには、何度も命令を更新していく必要があった。


 「10進め」「右を向け」「3進め」「少ししゃがめ」「右手を前に出せ」……

 それを、魔法の鳥の目線で操作するのだから、余計厄介だ。


「さすがに、全員を一気に操作するなんて芸当は無理なのだ」


 寝袋に入っていただけで、疲れた顔をしている訳ではなさそうだ。


「でも、水晶はあったんでしょ?」

 藤代の言葉に、二人は顔を上げ、満面の笑顔で答えた。


「この珠があれば、世界すら滅ぼせるかもしれんぞ!」


「いや、その世界を救う話をしてたんじゃ?」


 興奮して鼻息の荒いクエスに藤代が突っ込むと、自然と全員に笑顔が伝播(でんぱ)した。


 これで、この元凶と戦うことが出来る。

 その希望が、にわかに目の前に開けてきたのだから。


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