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22話『ゾンビ狩り』

 ビルの一階出口で古沢が外を警戒している。

 顔の横の握りこぶしを開くと、手招きに似た動きに変えた。


「おっけー、ついてきて」


 藤代さんが小さな声で指示を出し、みんなで集まる。


「ゾンビは目が悪い、夜となると尚更感知されにくい。そこでだ……」


 古沢が手を出すと、間髪いれずに滝がリュックから道具を手渡した。


「それは、暗視ゴーグルですか?」


 一桜が言うと、小さく親指を立てて返す。


「三人分しかないが、これで戦況を有利に進められる筈だ」


 そう言いながら古沢、藤代がそれを装着する。

 そして残りひとつを滝が一桜に装着した。


「私より滝さんがつけた方が……」


「……見えてる」


 滝は言葉少なくそう言うと、さっと前線へ進んで行ってしまった。


 電気は通っているものの、避難時に消したままになっているためか、星の明かり程度の光量しかない筈なのだが。


「滝はまぁいい、とりあえず簡単な作戦を伝えておく。まず、滝と俺が見晴らしのいい交差点で、音と光を出してゾンビをおびき寄せて隠れる。状況を見て処理をするのだが、無理は禁物だ。私たちの目的はゾンビの殲滅ではなく、あくまで一桜君のお父さんを止める事だ」


「ゾンビ掃討は、いま政府が検討しているの。どっちにしろ私達だけじゃ人数も足りないし、弾も足りないからね」


 そういうわけで、状況を確認した滝が戻ってきて頷くと、古沢と一緒に表に出ていった。


「さぁ、私達は隠れて、お父さんが来るのを待ちましょう」


 少し離れたところで、棒で何かを叩くようなカンカンカンと音がなる。

 一桜が暗視ゴーグルでそっちを見ると、ひときわ明るく光っていた。


「滝君さっきいなくなったときに、近くの車から発煙筒接収してたみたいね、気が利くわ」


 藤代が感心していると、反対側でも同じように火が焚かれ、その影から人が飛び出し物陰に隠れるのが見えた。


「これで準備おっけーね、私達は見張るお仕事頑張りましょう」


「はい」


 クエスは終始静かにしているが、辺りをキョロキョロ確認している。

 きっと、夜目が利く魔法でも使っているのだろうと一桜はあえてスルーした。




 ────小一時間ほど、場所を移動しながら同じことを繰り返した。


「簡単には出て来てくれないかぁ……」


 始めに緊張感に耐えきれなくなったのは藤代だった。


「でも、きっと居ると思います」


 警戒を解かずに一桜とクエスは夜空をにらみ続けている。




「そろそろ次に移動するわよ」


 集まってきたゾンビが、諦めてバラバラになり始めたところを、後ろから無理なく仕留めている。


「やっぱ滝はすごいわ」


 感心するように藤代が呟く。


 確かに、コーヒーを持ってきたときも、食事を用意してくれた時も、その存在に気付かなかった。

 一桜はこれでも修行漬けの生活を送ってきたいっぱしの求道者だ、殺気や気配といった人の存在、感情を感じるのは得意な筈だったのだが。


 滝は乗り捨てられた車の影から静かに出ると、ゾンビの口を塞ぎながら首の骨を折る。

 ゆっくりと寝かすようにゾンビを倒す。


 同時に小さな小石を拾ったのだろう、最後尾のゾンビにぎりぎり聞こえるくらいの音が鳴る場所に投げる。

 面白いくらいにゾンビがその音に引き付けられたところを仕留める。


 そうしながらも、状況確認を怠らない。

 スッっと双眼鏡を取り出すと、古沢の方を確認しているようだ。


 古沢の方はというと、頭の上で人差し指を立ててくるくる回して居る。

 そしてその指で一桜たちの隠れている方を指差す。


「あ、先輩達帰ってくるって」


「分かるんですか?」


「ハンドサインで、こっちで集合って指示してたからね」


 そう言ってるうちに二人が帰ってくる。


「お疲れ様です先輩」


 藤代が水筒を古沢に差し出す。


「せめて班長だバカモン」


 水筒を奪い取ると、ごくりと一杯だけ飲む。

 あまり飲みすぎると、トイレに行く回数が増えてしまうため、極力水分を取らないようにしているのかもしれない。


「首の骨を折っても動くやつと、動かなくなるやつの違いが分からん」

 口を拭いながら、古沢が吐き捨てる。


 その愚痴を専門家であるクエスに伝えると、ひとつの見解を示してくれた。


「たぶんですけど、怪我している部分から広がっている呪いみたいなものなので、首や顔を噛まれているなら、そこがコアになってて、例えば手を噛まれたゾンビは首がなくなっても体は動くんじゃないかって」


 一桜の解説を聞いた滝は軽く頷いた。

 思うところがあったのかもしれない。


「指とか噛まれたゾンビは、腕を折ればもう動かないってこと?」


「仮説が正しければそうですね」


 藤代の疑問に答える一桜もまだよく分かってはいなさそうだが……



 その時、一桜と滝がなにかに気付いたように立ち上がった。


「来ました」


「ほえっ?」


 藤代が変な声を出した頃には、二人は表に出てその姿を捉えている。


 その視線の先には、袴に赤黒く染まった胴着を纏った、一桜の父親が立っていた。


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