表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/52

21話「晩餐」

 少しは寝ることができたのだろう。

 一桜がめをさますと、頭がスッキリしていた。


「すみません、おはようございます」


 そう言いながら携帯を取り出して時間を確認すると、夜の8時頃になっている。


「できるだけ寝て貰おうと思って、起こさなかったんだよね」

 古沢と話していた藤代が、毛布を受け取って手際よく畳んだ。


「クエスちゃんは……まだ寝てるんですね」


 クエスも横になったままだった。


「そうだね、食事もとった方がいい、一度起こしておこうか」


 古沢も立ち上がると、クエスの肩を揺する。

 もぞもぞと動いてクエスが目を開けたのを確認して。

「体調はどうかな、痛いところはあるかい?」と子供に話すように優しく話しかけた。


 しかしきょとんとしているのは、言葉が通じていないのだろうか。


「あ、そっか、クエスちゃん、古沢さんが体調はどう? って」


 ようやく理解したクエスは、体の状況を確認する。

 折れていた肋骨もくっついているようだし、魔力も少し戻ってきている。


「大丈夫そうだ、心配かけたな」


 と、トランドール語で返事をした。


「クエスちゃんは問題ないって言ってますよ」


 当たり前のように一桜が通訳する。

 しかし、そのやり取りには古沢は首をかしげていた。


「クエス君はなぜ一桜君の日本語だけ理解できるんだ?」


 その質問に、あからさまに一桜が「しまった」という顔をしながら。


「えーっと、クエスちゃん、人見知りで……私以外とはあまり話したがらないんです、日本語も少ししか分からなくって……」


 しどろもどろになっている一桜を観察するように見ていた古沢。


「そうか────大丈夫だ、何か事情があるのだろう?」


「はい、すみません」


 頭を下げる一桜。


「付き慣れない嘘を付くときは、予め示し合わせておくといい、すっと言葉が出てくれば人は信じるものだ」


 そういうと頭を下げる一桜の肩を優しく叩き「さぁ、食事にしようじゃないか」と努めて気にしない素振りで古沢はそう指示した。


「あれぇ~? 追求しないんですか?」


 そこに腕を後ろ手に組んだ藤代が、面白そうに茶々を入れながら寄ってくる。


「人知を越えたモンが歩き回ってる世の中だぞ? ミステリアスな女性が一人居たところで不思議はないだろうよ」


 ほんの少し機嫌を悪くしたような物言いだったが、藤代は気にする様子はない。

 わりと日常的な掛け合いなのだろうなと一桜は思った。


「そんなことより、食事の準備ができているぞ」


 いつの間にかテーブルの脇に滝隊員が来ており、テーブルにはすでにいくつかの食事が用意されている。

 その様子を見て一桜は驚きを隠せない。


「えっ? ハンバーグ!?」


 その中にはまさかのハンバーグらしきものまであるのだ。


「戦闘食糧Ⅱ型だ」


 缶詰めタイプではなくレトルトになっており、湯煎で温める事ができる保存食だ。


「あ、これは先輩の好きなやつですね」


 藤代はそういうと、手のひらサイズの缶詰めを古沢に渡す。


「おお、ありがとう、やっぱりこれが一番だな」


 濃い緑色の缶詰の外側にうっすらウインナーと書いてある、直径7センチ程度の缶詰の中に、びっしり10本くらい細長い肉がつまっている。

 古沢がひとつ取り出すと、その形はウインナーとは言い難い奇妙な形をしていた。

 皮が側面にしかついておらず、頭とお尻の部分は閉じられていない円柱状なのだ。


「それ、ウィンナーって言っていいものなんでしょうか?」


 一桜は懐疑的だが。


「食べてみるといい、美味しいぞ」と笑顔で古沢に勧められ、不安ながらも口に入れる。


 しばらく噛んででた感想は。

「……微妙ですね」と一言。


「そうか?」


 古沢は美味しそうに食べているが。

 藤代は「微妙でしょ?」と苦笑しながら不平を漏らす。


「先輩が好きなのは判るけど、結構重いんですよそれ」


「すまん助かるよ、これを食べないと元気がでなくってね」


 藤代は膨れっ面で抗議したが、実際に担いでいるのは滝という図式に……


「あはは」


「あ、一桜ちゃん笑った!」


 つい声を出して笑ってしまった。


「お父さんあんなで、辛いだろうに普通にしてるんだもん、お姉さん心配しちゃうよ?」


 眉をハの字にして本当に心配そうに一桜の顔を覗き込む藤代。

 しかし、当の一桜ははっきりとした眼差しで、それを見つめ返して言う。


「ありがとうございます、心配かけちゃってますね。でも大丈夫です、心は決まってますので」


 そのはっきりとした眼差しに、何を感じたのか、藤代は頷いた。


「そっか、強いなぁ。私なら泣いちゃうよ」


 そういう彼女も同僚を10人近く殺されている筈だが、そんな素振りを見せることはない。


「まぁ、強さも人それぞれってことだよ」


 ウインナーの最後の一本を頬張りながら古沢が言う。



 こうして、夕食が彼らの胃を満たした頃には、とっぷりと日が暮れ辺りに静寂が訪れた。



「────よし、行くか」


 古沢が呟くと、緊張が走った。


「ゾンビ狩りだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ