21話「晩餐」
少しは寝ることができたのだろう。
一桜がめをさますと、頭がスッキリしていた。
「すみません、おはようございます」
そう言いながら携帯を取り出して時間を確認すると、夜の8時頃になっている。
「できるだけ寝て貰おうと思って、起こさなかったんだよね」
古沢と話していた藤代が、毛布を受け取って手際よく畳んだ。
「クエスちゃんは……まだ寝てるんですね」
クエスも横になったままだった。
「そうだね、食事もとった方がいい、一度起こしておこうか」
古沢も立ち上がると、クエスの肩を揺する。
もぞもぞと動いてクエスが目を開けたのを確認して。
「体調はどうかな、痛いところはあるかい?」と子供に話すように優しく話しかけた。
しかしきょとんとしているのは、言葉が通じていないのだろうか。
「あ、そっか、クエスちゃん、古沢さんが体調はどう? って」
ようやく理解したクエスは、体の状況を確認する。
折れていた肋骨もくっついているようだし、魔力も少し戻ってきている。
「大丈夫そうだ、心配かけたな」
と、トランドール語で返事をした。
「クエスちゃんは問題ないって言ってますよ」
当たり前のように一桜が通訳する。
しかし、そのやり取りには古沢は首をかしげていた。
「クエス君はなぜ一桜君の日本語だけ理解できるんだ?」
その質問に、あからさまに一桜が「しまった」という顔をしながら。
「えーっと、クエスちゃん、人見知りで……私以外とはあまり話したがらないんです、日本語も少ししか分からなくって……」
しどろもどろになっている一桜を観察するように見ていた古沢。
「そうか────大丈夫だ、何か事情があるのだろう?」
「はい、すみません」
頭を下げる一桜。
「付き慣れない嘘を付くときは、予め示し合わせておくといい、すっと言葉が出てくれば人は信じるものだ」
そういうと頭を下げる一桜の肩を優しく叩き「さぁ、食事にしようじゃないか」と努めて気にしない素振りで古沢はそう指示した。
「あれぇ~? 追求しないんですか?」
そこに腕を後ろ手に組んだ藤代が、面白そうに茶々を入れながら寄ってくる。
「人知を越えたモンが歩き回ってる世の中だぞ? ミステリアスな女性が一人居たところで不思議はないだろうよ」
ほんの少し機嫌を悪くしたような物言いだったが、藤代は気にする様子はない。
わりと日常的な掛け合いなのだろうなと一桜は思った。
「そんなことより、食事の準備ができているぞ」
いつの間にかテーブルの脇に滝隊員が来ており、テーブルにはすでにいくつかの食事が用意されている。
その様子を見て一桜は驚きを隠せない。
「えっ? ハンバーグ!?」
その中にはまさかのハンバーグらしきものまであるのだ。
「戦闘食糧Ⅱ型だ」
缶詰めタイプではなくレトルトになっており、湯煎で温める事ができる保存食だ。
「あ、これは先輩の好きなやつですね」
藤代はそういうと、手のひらサイズの缶詰めを古沢に渡す。
「おお、ありがとう、やっぱりこれが一番だな」
濃い緑色の缶詰の外側にうっすらウインナーと書いてある、直径7センチ程度の缶詰の中に、びっしり10本くらい細長い肉がつまっている。
古沢がひとつ取り出すと、その形はウインナーとは言い難い奇妙な形をしていた。
皮が側面にしかついておらず、頭とお尻の部分は閉じられていない円柱状なのだ。
「それ、ウィンナーって言っていいものなんでしょうか?」
一桜は懐疑的だが。
「食べてみるといい、美味しいぞ」と笑顔で古沢に勧められ、不安ながらも口に入れる。
しばらく噛んででた感想は。
「……微妙ですね」と一言。
「そうか?」
古沢は美味しそうに食べているが。
藤代は「微妙でしょ?」と苦笑しながら不平を漏らす。
「先輩が好きなのは判るけど、結構重いんですよそれ」
「すまん助かるよ、これを食べないと元気がでなくってね」
藤代は膨れっ面で抗議したが、実際に担いでいるのは滝という図式に……
「あはは」
「あ、一桜ちゃん笑った!」
つい声を出して笑ってしまった。
「お父さんあんなで、辛いだろうに普通にしてるんだもん、お姉さん心配しちゃうよ?」
眉をハの字にして本当に心配そうに一桜の顔を覗き込む藤代。
しかし、当の一桜ははっきりとした眼差しで、それを見つめ返して言う。
「ありがとうございます、心配かけちゃってますね。でも大丈夫です、心は決まってますので」
そのはっきりとした眼差しに、何を感じたのか、藤代は頷いた。
「そっか、強いなぁ。私なら泣いちゃうよ」
そういう彼女も同僚を10人近く殺されている筈だが、そんな素振りを見せることはない。
「まぁ、強さも人それぞれってことだよ」
ウインナーの最後の一本を頬張りながら古沢が言う。
こうして、夕食が彼らの胃を満たした頃には、とっぷりと日が暮れ辺りに静寂が訪れた。
「────よし、行くか」
古沢が呟くと、緊張が走った。
「ゾンビ狩りだ」




