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02話『さらなる絶望』


 混濁する意識の中、石とは違う固い地面に違和感を感じるクエス。

 小石や砂は落ちておらず、ざらざらとした手触りの悪い表皮は若干生暖かいように感じた。

 胸に開いていた穴もなく、手触りや匂いといった五感は正常に働いている事から、死んだとも思えない。


 不思議な状況に、クエスはうつ伏せになっている体を起こそうと、右手に力を入れたその時、頭上より高圧的な声が降り注いできた。


「ようやく目覚めたのか、(あるじ)よ」


 その声は(おごそ)かなようでありながら、同時に人を見下すような響きを持っていた。


 クエスは更に腕に力を入れ、上体を反らし顔を上げる。

 きらびやかな高位の法衣に身を包んだ、大柄の躯体(くたい)。そして骸骨の顔。


「ノーライフキング!!」


「そう、主が望んだはずだが?」


 歪める口が無いからか、歯をカタカタ鳴らして笑う。


 クエスにはこの骸骨がどんなものなのか、すぐに理解ができた。

 魔神に頼んだ最強の不死者そのものだ。

 彼は戯れに、自分の眷属でひとつの国を作るほどの力を持っている。


「しかし、主も報われぬな」


「どういう意味なのだ?」


 クエスは意地の悪い従者にイラつきながら立ち上がる。


「あの魔神におもちゃにされたのだな可愛そうに」


 その言葉にクエスはたじろぎ、改めて辺りを見回した。


 継ぎ目の無い大きな石の壁が左右に反り立っており、先程臥していた地面も完全に平坦な黒い石でできている。


「ここは、見たことの無い遺跡なのだ……」


「遺跡などではない、ここはそういう街だ」


 ノーライフキングは見てきたようにそう語る。


 対照的にクエスは真っ青になり、慌て始める。


「こんな街トランドールには無かった、ここはどこなのだ!」


 彼女は動揺こそすれ、馬鹿ではない。

 この状況から、自分が今居るのは憎き仇の住む世界とは違う場所だということ。


 ()()()()()()()()()()()()()()


 あの魔神は確かに言ったことを叶えたが、望みは叶えるつもりがなかったらしい。彼女とその従者は、滅ぼすべき対象を失ってしまった。


「くそっ、くそっ!!」


 地面を叩いてもそのくやしさは変わらないのだが、他に当たり処もなかった。


「やはり魔神、信用するべきじゃなかったのだ!」


 今さら悔いても仕方ない。

 そして同じような笑みを浮かべるものがもう一人。


「いやはや、趣味の悪いお人だ」


 ノーライフキングの嘲笑(ちょうしょう)を含むその語気に、癇癪(かんしゃく)を起こしそうになる。


「絶対に見つけて、ぶっ殺してやるのだ!」



「……主よ、それは叶わぬ願いだな」


 特段ノーライフキングに恨みがあるわけではないが、クエスはその虚空のような目に対して睨みを効かせた。


「ここは私たちの世界とは違うようだ、主が寝ておる間に少し見てきた」


「飛ばされてきたのだから、帰る方法だってあるはずなのだ!」


「そうかもしれないが、主一人で何ができるというのだ?」


「生きているなら、可能性はあるのだ!」


「生きているなら……な」



 急に温度が下がったような感覚と共に、高圧的だったその言葉は、クエスへの攻撃性を含む言葉に変わった。


 この最強の不死者は()()()()()()()()()


 その瞬間、放たれた魔法をクエスは倒れ込むように(かわ)した。

 後方の地面が(えぐ)られ、その破壊力を物語っている。

 クエスは焦りながらも、ニヤリと笑って見せる。


「その程度の威力しかないなら、やられる道理はないのだ」


 逃げる様子もなく、立ち向かおうとする。


「言い訳になるが、私の本分は戦闘では無いからな。しかし、主も杖を何処かに落としてきたのか?」


 同じように余裕で話すノーライフキング。会話のついでのように魔法弾を放つ。

 それを魔力のこもった掌で横に反らすクエス。


「私に仇なすのであれば、今のうちに消しておくのだ!」


 魔神の力を使ったとしても、やっていることは召()術の一種だと思われた。きっとクエスが触れながら召()の呪文を唱えさえすれば、ノーライフキングだけでも元の世界に飛ばすことができるだろう。


「させぬよ」


 ノーライフキングの攻撃は更に熾烈(しれつ)を極めたが、クエスは早くも対応してきていた。

 不適にクエスが笑い、一歩、また一歩と歩み寄っていく。


 だがその歩みは不意に止められることになる。

 建物の隙間から、ゾンビが2体現れ、クエスの足と胴体にしがみついたのだ。


「なっ!」


 その言葉を発するか発しないかの刹那、次の魔法で体が弾かれ、5メートルは後方の石の建物に(したた)かに打ち付けられた。


「私は戦闘向きではないが、仲間を増やすのは得意でな」


 ノーライフキングは、息も絶え絶えな少女に向かって、とどめを刺そうと近寄ってゆく。


 しかし何かに気付いたのかその歩みを止めた。


「なお、その目をするのか。楽しませてくれるな主は」


 クエスは仰向けに倒れ、意識を失いかけていたが、彼とその後ろにある世界全てに対しての憎しみの炎だけで、かろうじて覚醒していた。


「気が変わった。主は私がこの新たなる世界を征服しうる様を、指をくわえて見ておくがいい。その暁には主を殺してやろう」


 先程魔神に「悪い趣味だ」と言っていたが、彼ら邪悪なものにとってはむしろ褒め言葉のようなもの。

 そして、彼らは時折こうやって人を弄ぶのを楽しむ。


「主しか私は止められぬ、しかし、非力な今の主にどこまでできるか、見せて貰おうか」


 ノーライフキングは右手を上に上げる。

 すると、路地からわらわらと無数のゾンビが現れた。


 はじめから一対一ではなかった。


「術式が不完全で、質の悪い駒しか揃っておらん。次に逢いまみえる時にはもう少し歯応えのある戦いができるであろうな」


 一方的にしゃべるノーライフキングに、歯痒い思いを募らせるしか、今のクエスには出来ない。


「せっかく新しい世界に来たのだ、お互い楽しまなければなぁ、主よ」


 カタカタと歯を鳴らして笑うと、ノーライフキングは闇に溶けるように消えていった。


 死の恐怖からの脱却が安堵感をもたらしたのか、クエスの意識はまたもや途絶えた。



 かくして、クエス・ラビリスは、憎き仇を取ることもできず、魔神に騙され、従者に裏切られ、この世界で全てを失った。


 そんなクエスが、世界を救うための旅が始まる。

ご指摘、ご意見なんでも受け付けます。

もちろん応援もあればよろしくお願いします♪

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