どうしてこうなった。20
この後。
三男で武官として生活費を稼げるようになった俺は王命により、ウィリティナと結婚する。ウィリティナは俺に依存して事あるごとに「私は悪くない」が口癖となる。そして子を産んでもその口癖が直らないので、子どもの前では言わないよう咎める事になった。王命故に離婚も出来ず、かと言ってウィリティナは変わらず。そのうち男遊びと酒に逃げていき、ある日家出してそれっきりになった。長男が5歳。長女が3歳の時の事だった。
結局、実家を頼るしかなくて、母に頼りながら仕事と家事と子育てに時間が取られていく。ただ、毎年、公爵領に赴いて彼女の命日には花を捧げる。今なら解る。悪女なんかじゃなかった。それどころか俺は守ってもらっていたのだ、と。本当に俺は愚かだった。何も見えていなかった。
彼女は俺などに参られたくないだろう。それでも俺が出来るのは、それだけだから。それしか出来ないから。
サーベル殿下は王太子の位を辞して王族のままだけど、第二王子殿下を支える臣下の道を選んだ。結婚はしない、と宣言して生涯独身を貫いた。彼女から幸せを願われたと知って、声が枯れる程号泣した、と第二王子殿下が仰っていた。サーベル殿下は、彼女の命日には、欠かさず訪れてそれこそが幸せだとでも言うように、穏やかに彼女の墓へ微笑む。
ゾネスは実母に罵倒され死をもって償え、とまで言われたらしいが、それは公爵が止めたらしい。彼女がゾネスに跡を継がせる事を望んだから、と。ゾネスの実母はそれを聞いて激しく嘆きながら、ゾネスに「一生を公爵家に捧げなさい」と叱責した、と。やがて陛下直々に婚約者を紹介され(これも彼女の最期の願いだったそうだ)その身を削って公爵家に力を捧げていた。
ブルトンもゴレットも彼女が自分達の未来を潰さなかった事に感謝し、親に再びしごかれながら、国のために生涯を捧げていた。どちらもあわや婚約破棄(もしくは解消)というところで婚約続行になった婚約者達を大切にし、結婚し、家庭を築きながら。妻達の尻に敷かれながらも、2人もやはり彼女の命日には墓に参る事を忘れなかった。
俺たちに出来る事は、彼女に守られ救われた人生をきちんと生きる事だけ。ウィリティナはどうしているのか、正直分からないけれど。いつか、彼女の墓の前で会える事を願う。ウィリティナにも、ちゃんと現実に向き合って欲しい、と願う。
それが多分。彼女も望んでいる事なんかじゃないかな、と勝手に予想。
「メルフィー……様。ごめん。俺、君のことをきちんと向き合えば良かったって思ってるよ」
毎年同じ謝罪を口にする俺は、多分メルフィー嬢からすれば馬鹿の一つ覚えにしか思えないものだと思うけど。それでも俺は、彼女を色眼鏡なんかじゃなくてもっときちんと見ておけば良かった、と後悔する。
ただ、この後悔を活かして。子ども達に寄り添える親になりたい、とメルフィー嬢の墓に願掛けしている。勝手に願掛けして悪く思わないでくれ、と勝手な事を思いながら。
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