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どうしてこうなった。16

 それから1週間後。

 サーベル殿下・ゾネス・ゴレット・ブルトン・俺とウィリティナが国王陛下に呼ばれた。ウィリティナは、無事だった。良かった。どういう事なのか尋ねたかったが、呼び出されている以上は何も出来ない。何処に居たのだろう。


 取り敢えず呼ばれている場所は謁見の間ではない。何処なのか判らないけれど、其処には先客が居た。


「父上……」


 背中だけを見てゾネスがそう呟く。という事は悪女とゾネスの父である公爵か。呼びかけが聞こえたのか、勢いよく振り返った男性がゾネスの頬を拳で殴り付けた。ゾネスは全く構えていなかったから吹っ飛ぶ。


「お前はっ! あれほど姉に世話になっておきながら、お前を弟だと可愛がっていたメルフィーになんて事を! 恩を仇で返すとは……」


「父上、ですが」


「黙れ! いいか! お前の事は死ぬまで許さん! が、メルフィーの最期の願いだ。貴様にはきちんと公爵位をくれてやる!」


 さいごのねがい。


 どういう事か尋ねるよりも前に、そこに横たわる存在に気付く。その向こうには静かに涙を流し続ける、あの悪女の侍女が。


 横たわっていたのは


「メルフィー……?」


 サーベル殿下がポツリとその名を呼ぶ。


「お前がその名を呼ぶ事は許されない」


 陛下の声が低く冷たく部屋に響く。


「あの、何故、このような」


 何を尋ねれば良いのか分からない、とでも言うようにゴレットが尋ねる。


「ふん。宰相の息子でありながら、この状況を見ても何も判らんか」


 陛下が更に冷たく言い捨てる。


「陛下、亡骸を連れて帰りたいのです」


「まぁ待て。余も早くそうさせてやりたいが、此奴らにはきちんと理解させねばならぬ」


「……御意」


「父上」


 サーベル殿下が呼びかけると、陛下の眉間に皺が寄る。


「発言の許可もしておらぬ。それに余は国王としてお前達を呼んでおる」


 慌てて礼を取る俺たち。


「ふん。ようやく、か。全く、サーベルよ。ここまで愚かだとは思わなんだ。メルフィー嬢も死んでも死にきれんだろうな……」


 静かに涙を流し続ける侍女の存在が、この場が幻ではない事を表している。いや、公爵の震える肩も。


「見ての通り、メルフィー嬢は死んだ。お前達の犠牲になって、な」


 そこから陛下は淡々と話し出す。


「本来、我が国の国王が娶る王妃は、王族の血を引く公爵家の令嬢若しくは友好国の王女が基本。同盟を結ぶための婚姻は有るだろうが。王女は言うに及ばず、公爵家の者も王族教育を受けているからである。その下地が有るからこそ、王太子妃ゆくゆくは王妃教育に耐えられる」


 つまり、ウィリティナにはその下地が無いということだ。


「3公爵家の令嬢は順に娶られる。メルフィー嬢も順によってサーベルの婚約者に選ばれた。順当ならばサーベルが後に国王となる予定だった。それ故に王妃や前王妃の実家ではない公爵家からメルフィー嬢が選ばれた。メルフィー嬢に資質が無ければ友好国の王女に打診していたが、幸いメルフィー嬢に資質があったから問題なくサーベルの婚約者として迎えた」


 そういう経緯があったのか。


「サーベルが愚かにも恋に溺れた時、メルフィー嬢は先ず、余と王妃にウィリティナという娘を愛妾に迎える事の許可を申し出てきた」


 その言葉にサーベル殿下も俺たちもハッとする。


「余も王妃もメルフィー嬢だけで良い、と伝えたが、サーベルと恋人ならば引き裂く方が可哀想だ、と言ってな。その後サーベルに打診したはずだが、サーベルはただ怒るだけではなく、そこな娘を愛妾などにしない。妃にする! と断言したそうだな。故にメルフィー嬢は直ぐ様婚約解消を願って来た。


妃という事は、正妃に迎えるということ。だが、メルフィー嬢が婚約者ではその可能性は潰える。何故なら近隣諸国も含め、一夫一妻が基本だからだ。王家も貴族も世継ぎの問題が有る故に、世継ぎが出来なかった場合のみ、貴族は愛人を。王家は側妃ないし愛妾を迎える。我が国では貴族の世継ぎは女子でも認めるが、王位継承だけは男子のみにしているから、男子が生まれるように側妃か愛妾を迎える事もある。それをサーベル、貴様だけでなく皆が理解している事のはずだ!


そしてメルフィー嬢は自身との婚約を解消し、そこな娘をメルフィー嬢の義妹として公爵家に迎え入れて正妃にする手筈を整えた」


 悪女、が?

 そんな事を?


「だが、余も王妃も渋った。いくら体裁は整っても所詮王族教育を受けていない娘。王妃になる力が無い、と。そこでメルフィー嬢が言い出した。公務や執務を行うためだけの側妃としてサーベルに嫁ぐ、と。つまり世継ぎはウィリティナが、王妃としての仕事はメルフィー嬢が、ということ。学園卒業後にそうなるようにメルフィー嬢は手筈を整えていた。それこそ、宰相も自分の父である公爵も、それどころかこの国にいる全ての貴族に手紙を認めて協力を仰いでいた」


 静まり返る部屋。俺も、サーベル殿下も、他の皆も何も言葉が出て来ない。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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