8頭目 不穏な影
明日投稿できるか分からないので今日二話投稿です。
「それで、この状況をどう説明なさるつもりかしら」
「いえ、あの、自分にも何が何だか分からないといいますか、逆に説明をして欲しいと言いますか....」
「ちょっと、あなた女王様に対して無礼ですよ? いい加減にしないと殺しますからね」
「女王様って.... 一体どんなプレイをなさったの!?」
ああ、これは完全に誤解されておりますね。いやいや、どんなプレイってお嬢様がはしたないんじゃないんですか? 意外とむっつりだったりして。
冗談は置いておき、今しがた起こったことを説明する。普通は信じられないことだし、苦し紛れの言い訳に思われるかもしれないが実際に実物がここにいるのだから何とか信じてもらえるよう一生懸命説得する。
初めは疑っていたマリアナも俺と蜂っ娘が嘘をついておらず、ありのままを話していると分かったのか最後は半信半疑ながらも納得してくれた。
「とりあえずそこの亜人の貴方、はしたないので何か着なさい。それから今まではよかったのかもしれませんがその姿では名前がないと不便ですわ。それに住む場所も。ヒナタ、貴方が保護者なのですからその辺しっかりと面倒を見てあげませんと」
「はい、すみません.... てかやっぱ俺が保護者なんですね....」
「街に着いたらまずはお洋服を買いに行きませんと。今回のクエストの報酬をお洋服代にあてましょうか。それからお名前はどうしましょう」
「なんか、母親みたいだな....」
「誰が母親ですかっ!!」
顔を真っ赤にして抗議しているけどさっきから母親のそれにしか見えないんですけど。なんかこう、溢れ出る母性というか何というか。
蜂っ娘にはお嬢様のブランケットを巻いて隠してもらい、三人で街まで帰還した。ギルドの受付で今日あった出来事を話すと最初は全く取り合ってもらえなかったが、マリアナが説得すると後日調査団を派遣してくれることになった。
「俺が説明しても全然信じてもらえなかったのにマリアナが説得したら一発だったな。あれはどうしてなんだ?」
「まあわたくしの家はそこそこ名家ですから。名を出せばある程度融通が利くんですわ」
「やっぱりお嬢様なんだな。お嬢様もある意味チートだよなぁ」
そう言えば俺はチートと言われるくらいこの世界では強いのか? いや、この前サクラさんに負けたばっかりだしお世辞にも強いとは考えにくいな。あの人こそチート級に強かったけど。それじゃあとんでもないスキルを持ってるとか? これも考えにくいな、俺のスキルは便利だけど万能ではないし。蜂だし。
そんなことを考えているうちに服屋に到着し、蜂っ娘の下着やら服やらを購入する。ちなみに何がとは言わないがGだった。何がとは言わないが。
俺は元々男だったので女の子の服なんてのはよく分からないので全てお嬢様に丸投げした。そうしたら「貴方も少しは服装に気を使いなさい」とおしかりを受けました。お母さんは怖いね。
蜂っ娘の名前に関してはハチミツの種類からとってレンゲと名付けた。名前をもらったのがよっぽど嬉しかったのか、「この名に恥じぬよう命を懸けて女王様をお守りします!」なんて言い出した。やばい子やん。
マリアナからは「レンゲに何かあったら許しませんからね?」なんて脅されました。ますます母親みたいになっているけど自覚はあるんだろうか。
用事を済ませた俺達は今日のところは解散ということになり、俺はレンゲを連れて自宅に向かった。姉にレンゲのことをどう話そうか頭を悩ませながら。
◇
ギルドマスターであるサクラは報告書に上がっていたユグドラシルドラゴンの出現、そして討伐という報告の真偽を確かめるため、調査団を連れて現地まで足を運んでいた。現地に着くとそこには巨大なモンスターの骨のみが残されていた。
「どうやら報告にあったことは本当だったみたいですねぇ。それにしてもこのような状態になっているとは。一体どんな戦い方をしたんだか」
ユグドラシルドラゴンが存在しているというだけで驚きであるにもかかわらず、それを倒せる人物がいる、しかもここまで徹底的に。これは前代未聞の大事件だった。これをやってのけられるのはサクラが知る限り一人しかいないが.... それにしても驚きを隠せなかった。
「あの子も可愛い顔してようしゃないですねぇ。貴方もそう思いません?」
サクラは先ほどからこちらの様子を伺っている一人の少年に対して問いかける。彼女だから気が付いたものの、全く気配を感じさせなかったため他のメンバーは皆気が付いていなかった。明かに人ならざる者のオーラをまとったその少年は顔に笑みを浮かべていた。
「僕に気が付くなんて、お姉さん強いでしょ?」
「そういう君も普通の魔物とは比べ物にならないくらいのオーラを放っているではないですか。さしずめ魔王軍幹部の一人といったところかしら?」
「お、正解! 正解したお姉さんには特別に―― 苦痛なき死をプレゼント!」
次の瞬間、少年の姿が目の前まで迫っており頭のあったところに拳が振り下ろされた。
すんでのところで避けたサクラは距離をとって体制を整える。よく見ると少年の右ひじから下は異形のものへと変化していて、どす黒いオーラを放っている。
「あれ、避けられちゃった。やっぱり強いなぁ」
「まさかこんなところでこんなことになるとは予想外でしたねぇ。仕方がありません、ここで排除しますね」
「やれるものならねー。でも油断してると後ろの人たちみたいになっちゃうよ」
そう言われて振り返ると、ここまで遺書にやってきた調査団のメンバーは皆頭をはねられ息絶えていた。今の一瞬でこれをやったとなると相当な手練れだと考えられる。
「はぁ、私あまり戦いたくないんですよね、疲れるので。なので貴方申し訳ないですが短時間で終わらせますね、『花筵』」
スキルを発動して相手を自分のフィールドへと閉じ込める。サクラの一番多用しているこの『花筵』はこのフィールド内でサクラのみが様々な恩恵を受けられるというものである。このスキルを使うことで確実に有利に戦いうことが出来る。
「へぇ、これがお姉さんの能力かー。なんだか奇麗だねー」
「ふふ、気を抜いていると一瞬ですよ? 桜技『桜狩り』」
高速の一閃が少年を襲う。タイミングを見計らい上手く回避したつもりなのだろうが、少年の右腕の肘から下は切り落とされて無くなっていた。
「うわっ、やっぱり強いなぁ。ここまでとは思わなかったよ。そうなってくると話が変わるなぁ」
「あらら、首をもらったつもりでしたが避けられてしまいました。流石幹部クラスは手ごたえが違いますね」
「その余裕、ムカつくなぁ。でもこのままやっても負けそうだしな、まあいいか、用事は済んだし。グレーテル、あとは任せたよ。この人殺しちゃて」
そのセリフとともに少年の体から黒い塊が溢れ出てきた。その黒い異形のものはかろうじて人型を保ってはいるが、今にを崩れだしそうな、生きているとは思えない肉体をしていた。
グレーテルと呼ばれたその異形は方向をあげるとサクラに攻撃を仕掛け始めたが、自分は動かずにそのドロドロの肉体の一部を自在に変化させ攻撃手段として扱っていた。
「んじゃ僕は帰るけど、せいぜいグレーテルを可愛がってね」
少年はそれだけ言うと異形を残したままどこかへ消えていった。残されたグレーテルはそれでも攻撃をやめることなく、周りのすべてを破壊しながら向かってきた。
「全く、不法投棄は法律で禁止されているのに。教育がなってないですねぇ。それにしてもこの子どうしましょう。体が強酸性みたいだから触れたらアウト。切って死ぬとは考えにくいし.... しょうがない、あれを使おうかなぁ。でも、あれは使ったあとが.... まあいいでしょう。あとのことは副リーダーに任せるとしましょう」
彼女が扱う究極の奥義、それはありとあらゆるものの命を刈り取り、自らの生命力へと変換するという、神のような代物だった。
「では私の生きる糧となってください。絶・桜技『徒桜』」
その一斬りで勝敗が決まった。グレーテルと呼ばれた異形は完全に生命活動を停止し、その場に崩れ落ちた。残ったのは鼻を突く腐敗臭のみだった。
「それにしてもグレーテルですか.... となると彼はヘンゼルといったところですかね。不思議ですね、何故あっちの世界の名前が出てくるんでしょう。あ、そろそろ限界、眠い....」
そういうとサクラはその場に倒れこみ、スゥスゥと寝息を立てるのだった。
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