6頭目 トカゲのちドラゴン
「ちょっと貴方、聞いてますの? 私のことを無視するなんていい度胸ね」
そそくさとこの場から逃げようとしていたところ、肩をつかまれた。俺にはわかる、これから絶対にめんどくさいことに巻き込まれるということが。
「あの、俺忙しいんで他をあたってください」
「先ほどからずっとパーティ募集の張り紙を眺めていたではありませんの」
「いや、急に用事を思い出したというか....」
「今まで忘れていたのだからそれほど重要でもないでしょう?」
振り向いたら負けだ、今すぐ逃げたい。しかし肩を掴んでいる俺を逃がすつもりはないらしい。絶対に逃がすまいと凄い力で肩を鷲掴みにするものだから、肩が引き千切れるのではないかと思った。
これは逃げられない奴だ、と半ばあきらめ振り返る。そこにいたのは銀髪の美しく長い髪を持ち、高級そうな衣装を身にまとった俺と同い年位の女の子だった。
「えと、それで、何の用?」
「やっと話を聞く気になりましたのね。どうやらパーティメンバーを探しているようだからわたくしが貴方とパーティを組んで差し上げますわ。泣いて喜んでもよろしくてよ」
え、何この子、イラっとするんだけど。というかなんでこんなお嬢様っぽいのが冒険者ギルドにいるわけ? しかも一人って、お付きの人はどうした。
「あの、お嬢様?」
「わたくしのことは特別にマリアナと名前で呼ぶことを許可しますわ」
「あ、はいそうですか....」
やばい、この悪びれもしない感じの上から目線超ムカつくんだが。海溝みたいな名前しやがって。
「マリアナ.... 様はどうしてこちらに?」
「どうしてって、もちろん冒険者だからですわ」
マジか、この子も冒険者なのか。しかしこんなお嬢様全開の子が冒険者だなんて珍しいこともあるもんだな。家の人には反対されないのだろうか。
「親御さんとかには何も言われないんですか?」
「ええ、まあ勝手に出てきて登録しただけのことですから」
「おいおいおい、思いっきりアウトじゃねぇか!! やめてくれー、俺を面倒ごとに巻き込まないでくれ!!」
俺は頭を抱えうずくまる。嗚呼、やっぱり面倒ごとだった。なんで、なんで面倒ごとに俺を巻き込むの? 異世界に勝手に転生させたガキといい、このお嬢様と言い。
「どうやら貴方はCランクのようなのでわたくしの護衛に丁度いいと思いましたの。ですから貴方にはこのわたくしとパーティを組めるという名誉を差し上げますわ」
「うん、もうなんでもいいです....」
「それは肯定ということでよろしくて? よかったですわ、受けたいクエストがあるのですが一人ではどうにもならなくて困ってましたの」
彼女が提示してきたクエストは討伐クエストで、ブロッコリザードというふざけた名前のモンスターの討伐だった。このブロッコリザードというのは名前の通り、背中にブロッコリーを生やしているトカゲだそうな。
そのトカゲを討伐し、背中に生えたブロッコリーを収穫して来いとのことだ。いやいや、この世界のブロッコリーはどんな生え方をしてるんですかね?
幸いにもこのトカゲはそこまで強いモンスターではなく、難なく倒せるらしい。なのに需要が高いために報酬がおいしいということで人気のクエストなんだとか。
そうこうしているうちにクエストを受注してきたお嬢様に強引に連れられ、町を出てすぐにある森の中まで連れていかれた。
ブロッコリザードは乾いた暖かい日の当たるところに生息しているらしい。色は緑色で何より背中にブロッコリーが生えているため、簡単に見つかるのだそう。
噂の通り、少し歩くと簡単に見つけることが出来た。というより一面ブロッコリーだらけで、誰かが栽培してるのではと思うほどだった。
「さあ、狩って狩って狩りつくしますわよ!」
テンション高めにお嬢様はそういうと、腰から一本の鞭を取り出した。多分あれが彼女の武器なんだろうけども、何というか.... そういうプレイかなっていうか.... う自信家
華麗な鞭さばきで次々とトカゲを倒していく彼女。洗練されたその動きは悔しながらに見ていて美しいと思えるものだった。一人でここまで出来るんだ俺いらないんじゃ?
ものの5分足らずで約50匹ほどのトカゲを討伐し終え、ブロッコリーの収穫作業に移る。収穫してみると俺の知っているブロッコリーとなんら変わりはなく、これだけ見たら本当にトカゲから生えていたものだなんて思えなかった。
「結局俺いらなかったじゃん。一人でどうにか出来てたし」
「いえ、クエストを受ける条件として、最低Cランク二人でということでしたの。だから困っていたのですわ」
「こんなクエストにCランク二人も必要ないと思うけどなぁ。ん、ということはマリアナもCランクってことか」
最初はこんなお嬢様に冒険者が務まるのかと考えていたが.... さっきの姿を見たらまあ、Cランクの冒険者であるといわれても納得か。
すべてのブロッコリーを収穫し終え袋に詰めて持って帰ろうとしたその時、突然大きな揺れが俺たちを襲い、あまりの大きさに立っていることが出来なかった。
「なんだ地震か!?」
「いえ、これは.... もしかして、いやそんなまさか....」
何かを感じ取ったのかマリアナは戦闘態勢をとった。対して俺は何が何だか分からず、木にしがみ付くしか出来なかった。
すると奥の方に生えていた超巨大な木がゆっくりと持ち上がっていく。信じられない光景に目が離せずに見ていると、その木の根元からは巨大なトカゲ.... というには可愛すぎる、まさにドラゴンといったものが顔を表した。
「やはりあれは伝説のユグドラシルドラゴン....」
そう口にするマリアナ。目の前に現れたのはブロッコリザードのように背中から巨木を生やしたドラゴンで、明らかにこちらを敵視していた。
「ア、アレハナンナンデスカ?」
「あれはユグドラシルドラゴンと言って、ブロッコリザードの突然変異の怪物ですの。ただその姿を見たものはそう多くなく、伝説上の生き物とされていましたわ。ですがこれは.... 不味いですわね」
「うん、何も理解できてないけど超やばい状況だねっていうのだけはすっごく理解できるわ」
なんでだろう、本当になんでだろう。なんで俺の周りではこうも次々と面倒なことが起こるのか.... え、なんですか、こいつと今から戦うんですかね?
伝説上の生物とされていた怪物との戦いが突如始まることとなり、早くも元の世界に帰りたいと思う俺であった。