5頭目 桜操りし長
ギルドマスターに呼び出され、いきなり勝負を挑まれるという驚きの事態に頭の整理が追い付かない俺。そんなことはお構いなしに話を進めるギルドマスター。俺は手を引かれギルド内の訓練場まで連れていかれる。
「ここなら多少暴れても問題ないし、思う存分君の実力を見せてね」
「いやいや、だからなんで戦うことになってんですか!? 俺了承してないですよね!?」
「え、だって私が戦ってみたいんだよねぇ」
この人はだめかもしれない.... マイペースというか自己中というか。結局この残念美人のギルドマスターと戦うこととなった。
「ルールは簡単、先に死んだ方が負け」
「冗談.... ですよね?」
「よしじゃあ始めましょう!」
「待って待って、お願いだから冗談て言って!?」
審判役の冒険者が合図をし、俺の初の対人戦が始まった。しかも相手はギルドマスターであるため、並大抵の攻撃ではかすり傷さえ与えられないかもしれない。スキルを発動し、右腕と左腕にそれぞれ針槍と蜜盾を構える。
「用意はいいですかぁ? ではこちらも失礼して、『花筵』」
そう言い彼女が地面に手をやると、一面に桜の花びらが敷かれ、地面を覆いつくした。どうやら彼女は名前のとおり、桜を操る能力を保持しているようだった。
相手の能力が分かり切っていない以上むやみに突っ込むのは得策とは言えないが、先ほどのスキルを使用してから彼女は一歩も動かないためこのままただ時間だけが過ぎてしまう。覚悟を決めて懐へ飛び込み、思いっきり針槍を突き刺す。
しかし彼女の方はそれでも動かず、防ぐ動作もなかった。そのため俺の攻撃はクリーンヒットした。そのように思ったその時、彼女の体は無数の桜の花びらとなって散っていく。
「今の一撃はなかなか素早く、洗練された動きで素晴らしいものでした。しかしそれだけでは私には当たりませんよ?」
唖然としていると背後から声を掛けられる。慌てて振り向くがそこには誰もいない。あるのは先ほどから無数に散っている桜の花びらのみ。位置が特定できないため、次の一手が打てない。
今の俺は蜂とリンクしたことで多少なりとも強くはなっている。ただ、元は普通の高校生であるため戦い方なんてものはこれっぽっちも分からない。能力のごり押しが出来ない、考えないといけない相手の場合は明らかに不利となる。
「人の目では視認できないならば.... もしかして蜂なら何か分かるんじゃないか? 確か蜂には温感器官があるからそれを利用すれば――」
一か八かで蜂の群れを召喚し、指示を出す。目に見えないだけで必ずどこかにいるのだから、温度を感知する機能を使い位置を特定するという作戦に出る。
すると蜂たちは何もない空間に向かって一斉に攻撃を仕掛けた。おそらくそこに彼女が隠れているのだろう。やはり人の目には見えないが蜂たちには分かるようだ。
それを目印としてその空間に対して針槍を突き刺した。今度は手ごたえがあり、俺の攻撃は何か固いものによって防がれていた。
「なるほどなるほど。蜂を駆使して私の位置を特定するとは驚きですね。これを見破る人ってそんなにいないんですよぉ? これは面白くなってきました、少し本気を出しちゃおうかな」
そう口にした瞬間に空気が変わる。何か仕掛けてくる、それは分かっているのだがあまりの殺気に思うように体が動かない。
「うふふ、防がないと死んじゃいますよ? 桜技『桜狩り』」
一瞬の出来事だった。それまで攻撃を仕掛けていた蜂の群れは一匹残らず息絶えており、俺の首筋には刀の刃が向けられていた。
何が起こったのかは分からなかったが、自分が敗北したということだけは理解できた。抵抗はせず、両手をあげて降参する。
「俺の完敗、ていうか何もできませんでした。てか強すぎですよ、チートですよあれは」
「まあ腐ってもギルドマスターですからぁ。それなりに強くないと示しが付かないんですよ。それよりも今回の試験については合格です。昇格おめでとう!」
「あの、さっきから説明が足りな過ぎて理解できてないんですが....」
のちに詳しく聞いたところによると、どうやらこの一戦は俺の冒険者ランクの昇格のための試験だったようで、Fランクだった俺のランクはCランクにまで上がるそうだ。急に上がりすぎとも思えるが昨日の一戦はそれほどのものだったらしく、飛び級となるためギルドマスター自ら出向いて試験を行ったそうだ。
「それならそうと最初から言ってくれれば....」
「え~、だってサプライズって素敵でしょう?」
最後の最後までブレないんだなこの人は.... こんななのにあれだけ強いってどうなってるんですかね。なんか俺だけしょぼい気がするのは気のせいですかね。
「それにしても君の能力、まだまだこれからって感じですね。このまま鍛えていけば今とは比べ物にならないくらいに強くなれるはずですよ。ただ、力に飲まれてはいけません。使いこなしてこそ一人前です。君の力はどちらかというと魔の方によっている力ですから、使い方を誤れば.... 分かりますね?」
「いきなり真面目な口調になられると凄くやりずらい
んですが.... それほど重要だってことですね」
真剣な表情で諭してくる彼女。魔の方によっているという意味は分からなかったが、よろしくない力であるということなんだろう。だからこそ使い方は真剣に考えなければならない。そう言われて初めてこの力と真剣に向き合った気がした。
一通り話が終わるとギルドマスターは仕事があるから、と言って帰って行った。俺はギルドの受付まで行き手続きを済ませ、晴れてCランクに昇格となるのだった。
Cランクからはある程度危険なクエストが用意されているということもあり、普通は皆パーティを組むのだそうだ。Cランクのクエストなら一人でもまだ何とかなる可能性があるが、それより上となると一人で行うのはまず無謀だそうだ。
「俺あんま自分から行くの苦手なんだよなぁ....」
「あら、貴方パーティメンバーをお探し? ならば丁度いい、貴方にわたくしとパーティを組む権利を差し上げますわ」
何か背後から聞こえた気がしたが.... どうせ厄介ごとだろう、俺は聞かなかったことにした。
戦闘描写を勉強中です....