3頭目 新たなる力
ビーストテイマーだと思っていた俺の職業が、実はビーテイマーとかいう謎の職業だった現状に頭を抱えてうずくまる俺。
「いやマジでどうなってるんだよ.... 何をどう間違えたらビーストテイマーが
ビーテイマーになるんですかね? 蜂限定のテイマーってことか? 俺は養蜂
家か何かですか?」
どうしてこうなった、としか言いようのない現状。そんなことはお構いなしに俺の周りを飛び回る蜂の群れ。もう、泣いていいですか....?
「こんな所でじっとしてても仕方がないし、さっさとクエストこなしに行こ
う.... そして帰って寝よう、もうなんか疲れた....」
飛び回る蜂たちを連れて目的地の洞窟まで向かう。蜂から逃げるため適当に走っていたのだが、どうやら洞窟付近まで来ていたらしく意外と歩かずに到着した。
洞窟は穴がそこまで大きくなく、大人がギリギリ通れるかどうかという程度のものだった。ただかなり奥まで続いているようで、ネズミのリーダーとやらを倒すには中に入って見つけなければならない。
「ネズミがうじゃうじゃいるこんな狭い洞窟に一人で入っていくってのも今
思えば嫌な話だな。考えたら今装備してる短剣一本でネズミの大群がいる巣
に向かうとか馬鹿な話だったわ.... 道中で何かテイムして戦力にしようって
思ってたけど今いるのは蜂だしなぁ。なんかこう上手いことネズミ退治とか
してくれませんかね....」
何気なく思ったことを口にした瞬間、周りを飛んでいた蜂の群れが洞窟の中へ勢いよく飛んで行った。暗くて中の様子を窺うことはできなかったが、ひたすら羽音と何か小動物の鳴き声が響いていた。
5分ほど洞窟の入り口で待っていると、一匹のネズミを抱えて蜂の群れは俺の元へと帰還した。冒険者カードにはクエスト達成の文字が浮かんでいるため、どうやら本当にネズミの群れを駆除したのちにリーダーを討伐して証拠として俺のところまで持ってきたらしい。
「害虫が害獣を駆除する、なんていう謎の現象につい置いておくとしよう。考
えたら負けな気がする。しかし本当に命令を聞くとは思わなかったけど、これ
ってこの蜂をテイムしてるってことでいいのか?」
道中やみくもにテイムをして全部失敗したと思っていたが、実は蜂のテイムに成功していたということらしい。俺を追いかけてきていたのも主人の元へ駆けつけていたからだったのだ。
それにしても蜂専門のテイマーとなるとこの後の冒険者生活が不安になる。というのも今回はネズミの群れという小型動物が相手だったから簡単に片付いたが、これがもし魔物とかそれこそ魔王を相手にした場合どう考えても軽くあしらわれて終わりな気がする。だってただの何の変哲もない蜂の群れだし。
「魔王倒すために送り込まれたのに、たいして戦力にならない力与えてどうす
るんですかね.... やっぱ馬鹿だなあのよく分からんガキは。で、この後
どうしよう、蜂連れて街に変えるわけにもいかんし。解散! っとか言ったら
解散するなんてことは――」
そう口にすると今まで群れていた蜂は一匹残らずどこかへ飛んで行った。どうやら本当に俺の思うがままに操ることが出来るらしい。
蜂を解散させた後、ギルドにクエストの完了を報告するために街に向かって歩き出す。今回は全て蜂に任せてしまったため、いまいち達成感がないというか申し訳ない気持ちというか。しかも使役している蜂が討伐したため俺にも経験値が入っているらしく、いくつかスキルを獲得していた。ゲーム風に言うとレベルアップしたというところか。まあこの世界ではそもそもレベルなどという概念はないが。
ギルド受付にて討伐したネズミのリーダーを提示して報酬をもらう。このネズミ問題は意外と深刻だったらしく、Fランクのクエストにしては報酬がよかった。ちなみにこの世界のお金の単位はG、つまりゴールドらしく、これまたアニメやゲームのようだった。
報酬をもらい外に出ると、突然俺は何かにぶつかり宙を舞った。何が起こったかを理解するよりも前に全身を激痛が襲う。もうろうとする意識の中で目をやると、そこにいたのは二本の角を生やしたサイのような魔物だった。
「う.... ぐ、なんで街中に魔物なんて....」
声を発するたびに胸が痛む。どうやらさっきの一撃であばらをやられたようだ。逆によくあの一撃を食らって生きてられたもんだ。よく見ると足も変な方向に曲がっており、左手は動かすことが出来なくなっていた。
「おい、街に魔物侵入したぞ!! 今すぐBランク以上の冒険者読んで来いっ!!」
「あいつはやばい、俺達じゃどうにもならねぇ!!」
「うるせぇさっさと武器を構えろ! 今は俺達でどうにかするしかねぇんだ
よ!!」
騒ぎに気が付いたのかギルド内から何人かの冒険者たちが出てきて現状を目の当たりにする。皆武器を構えて応戦するが、一人、また一人と突き飛ばされていった。
一通り冒険者たちを片付けた後、サイの魔物はもう一度俺をターゲットにしたのかこちらに向かって走り出そうとしていた。
「んだよ、初日からこれってついてねぇな.... 逃げる体力も残ってないしここ
で終わりかよ.... でもただで死ぬほど俺はお利口じゃないんでね!!」
最後の力を振り絞り、俺は蜂たちに命令を下す。その瞬間蜂の群れがどこからともなく現れ、サイに向かって攻撃を仕掛けた。
しかし流石は魔物といったところか、蜂の猛攻も大してダメージが通っているようには見えなかった。こうなるだろうとは思っていたものの、実際に聞かないとなるともはや今の俺ではどうしようもない。
「何か他に手段は.... そうださっき獲得したスキル!」
先ほど獲得したスキルにすべての望みをかけ、かろうじて動く右腕で冒険者カードを取り出す。すると冒険者カードの自動音声システムが起動する。
『新しく獲得したスキルはリンク状態のみ使用可能です。使用するためには、
現在仮契約している生物との正式な契約が必要となります。リンク状態となり
ますと能力向上など様々な恩恵が得られますが、リンク状態となっている生物
と同種の生物としか今後は新たに契約をすることが出来なくなります。以上の
ことを理解したのち、リンク状態への移行作業を開始しますか?』
何やら難しい質問をされたようだが、今の俺にいいえという選択肢はない。多少デメリットがあろうともこの状況を打開できるなら迷う必要はない。
「全くこの状況で質問するなよ。もちろんYESだっ!!」
『了解しました。これよりリンクを開始します。それにあたり幾つかのスキル
の解放、肉体の強化、能力共有が可能となります。シークエンス開始まで、
5,4,3,2,1――』
その音声とともに蜂が俺の体に群がり、体を覆いつくす。蜂に纏わり付かれながら体が淡く発光し、俺の進化が始まった。
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