表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

2頭目 ブンブンブン蜂が飛ぶ

 女性になってしまったことに驚きを隠せぬまま、姉と二人で朝食をとる。このショッキングな事実をまだ認めることが出来ずにいる俺を、姉は不思議そうに見つめている。


 「ヒナタちゃん、今日は随分と静かなのね。どうしたの、体調悪い?」


 「い、いや、ちょっと考え事してただけだから、だ、大丈夫....」


 「そう、ならいいんだけど。そういえば今日は冒険者ギルドへ行くとか言ってなかったっけ? お姉ちゃんやっぱりだわ、ヒナタちゃんみたいな女の子が冒険者になるなんて」


 うん、ごめんなさい、こっちの世界での記憶が全くないので全然会話についていけません。ってかこういう転生のさせ方ならその辺も考慮してほしかったんだけども.... あのロリマジ許さん。


 その後も姉の話を適当に聞き流し、朝食を終える。幸いにも一人でひたすら話してくれていたので、相槌を打っていれば何とか切り抜けられた。これで質問とか昔話とかされてたら終わってたな....


 部屋に戻って支度を整え、とりあえず冒険者ギルドに抜かうことにする。そもそも俺に魔王なんて倒せるとは思えないが、とりあえずやってみないことには話が進まない。幸いにも冒険者ギルドに行くというのは姉に話してあったそうなので意外とすんなりいった。


 「お金持った? 装備品は大丈夫? 忘れ物はない?」


 「お、お姉ちゃんそこまで心配しなくても大丈夫だから....」


 「うふふ、どうしたの急にお姉ちゃんだなんて。いつもは名前で呼んでるのに。お姉ちゃん照れちゃうわ」



 やっべぇぇぇぇぇぇ早速やらかした!! え、だって普通は姉のことはお姉ちゃんとか姉さんとかで呼ぶじゃん!! というか俺この人の名前分かんないんだけど!? これ終わりじゃない!?


 「うん、いや、なんといいますか、心境の変化と言いますか、心機一転と言いますか.... とりあえず行ってきます!!」


 そう言って家から飛び出す。流石にやばかった。あのまま追及されてたら絶対ばれるよ....


 飛び出したはいいものの、冒険者ギルドの位置が全く分からない。俺からしたら、全く知らない世界の全く知らない街にいきなりほっぽり出されたのだから当然と言えば当然なのだが。


 流石に誰かに声かけて聞くのも気が引ける。はたから見たらこの街の住民なのに迷子になって道分かりませんとか、考えただけで恥ずかしすぎる。


 とりあえず観光もかねて街をぶらつく。地図があればよかったのだが、無い物はしょうがないので歩いて覚えていく。


 町並みとしては完全に西洋風、というかこれぞ異世界の街だ、といったような造りの家が立ち並んでいてとても新鮮だった。俺もアニメなどでよく見て憧れていたので、段々とテンションが上がってきた。


 家から少し歩いたところに、いかにもといったような建物が建っており、以外にもあっさりと冒険者ギルドを見つけることが出来た。というよりこれだけあからさまだと、分からないという方が難しい。


 ギルドの中に入り、受付にて冒険者の登録を行う。どうやらこの世界では何の職業に着けるかは生まれた時から予め決まっているらしく、冒険者カードに血を一滴垂らすカードに職業が表示され力が解放、晴れて冒険者デビューとなるらしい。ただ俺は転生時にビーストテイマーと職業を指定しているので当然ビーストテイマーになるのであろう。


 「はい、これにて登録が完了されました。登録後は最下級のFランクから皆様始まります。ランクによって受けられるクエストが変わってきますのでご注意ください。一定以上のクエストを受けますと昇格となります。しかしDランクからは昇格するのに試験が必要となります」


 受付嬢のお姉さんが丁寧に説明してくれる。ある程度はアニメなどと同じようなシステムであったためさほど問題はなかった。


 「クエスト報告の際には採取クエストであった場合は採取物の提示を、討伐クエストの場合はその討伐対象の一部の提示をお願いします。探索にて発見されたアイテムや貴重品などに関しましては、持ち主が不明の場合は発見者の所有物となりますが確認作業が必要になるのでこれらも一度提示してください。もしもう一度今の説明を聞きたくなりましたら、冒険者カード裏面にあります魔法陣の刻印に指を置いて『冒険者について』と口にしますと今説明した内容が表示されます。また、『マップ』と口にしますと現在地から半径5キロ圏内のマップが表示されます。ほかにもお金をカードに入れておきますとお買い物の際にスムーズになります。それからー」


 想像以上に受付嬢のお姉さんの話が長く、半分気を失いそうになりながら聞いていた。俺はまだある程度知識があったからいいものの、本当の駆け出し冒険者の人たちはこんな長い説明を全部覚えられるのだろうか....


 長かった説明もようやく終わり、いよいよ初めてのクエストを受ける段階になる。しかしまだ駆け出しであるため危険度の高いクエストは受けられないため、必然的に安全度の高い採取クエストが基本となる。


 俺が初めてのクエストに選んだのはマッドマウスという、まあ簡単に言うとドブネズミの討伐である。このマッドマウスは戦闘能力こそ皆無だが、集団でやってきて街の食糧を食い荒らしてしまうらしい。そんなマッドマウスが最近この街の近くの森の洞窟に巣を作ったらしく、放置してしまうと被害が出てしまうためその群れのリーダーを討伐してほしいとのこと。リーダーを討伐することで群れは散り散りになるんだとか。


 受付にて申請をした後俺は街を出て森に向かった。街を一歩出るとそこは一面自然に囲まれており、これぞファンタジーの世界といった感じだった。


 森を歩いていると一匹の猫のような生物と出くわした。


 「せっかくビーストテイマーになったんだし、試しにテイムしてみるか。えと、やり方は.... 目標を指定して念じる.... それだけ?」


 冒険者カードに表示されたテイムの方法し、試しにテイムを行ってみることにした。しかし、何の反応もないまま猫は何処かへ行ってしまった。


 「テイム失敗か? まだ俺のレベルじゃ無理とか? そもそもこんな方法で本当にあってんのか....?」


 その後もリスや鳥に対してテイムを行ってみるが、全くもって反応を示さなかった。せっかくビーストテイマーになったのに全然生かせていない。


 半ばテイムを諦め、大人しく目的地の洞窟に向かおうとマップを表示させながら歩いていると、ふと先ほどから何か音が聞こえることに気が付いた。


 「なんだこの音、ブブブってさっきからうるさいけど。何かの.... 羽音?」


 音の正体が気になり辺りを見回す。すると背後から何か黒い塊のようなものが俺に向かって迫ってきていた。


 「え、え、何あれ!? なんでこっち来るの.... ってかあれ蜂の大群じゃん!!キモいというか怖っ!! やばいやばい俺を狙ってるって!!」


 音の正体は何千何万という蜂の大群で、何故か俺めがけて一直線に向かってきていた。まるで一匹の生き物のように密集して動くその姿に戦慄した。


 次にとった行動と言えばただただ走ることだった。あんな大群に襲われでもしたらただじゃ済まない。下手をしたら命に係わる。しかし今現在あの蜂をどうにかする魔法を習得しているわけでもアイテムを持っているわけでもないため、ただ走って逃げることしか出来なかった。


 「なんで動物たちには好かれないのに、蜂の大群に好かれなくちゃいけないんだよ!! 俺がなにしたってんだ、勘弁してくれ!!」


 わめきながら森の中をひたすら駆け抜ける。水の中なら安全であると考えてひたすら水辺を探しながら逃げていた。


 すると突然前方の草むらから、およそ2メートル近くの体長の巨大な熊が現れた。熊は俺を見るなり餌と判断したのか、涎を垂らし唸り声をあげながら走り寄ってきた。


 前からは熊、後ろからは蜂、どちらの方向に逃げても無事では済まないだろう。食われて死ぬか刺されて死ぬか。そもそも何故転生したばかりなのに死の運命が迫っているのか。


 「なんで転生初日に死ななきゃいけないんだよ!! 蜂さんたち頼むから俺じゃなくてあの熊を狙ってくれ。一生のお願い!!」


 そんなことを頼んだところで通じるはずもないのに、ただひたすら懇願していた。


 覚悟を決めて目を瞑ったが、何故か蜂たちはあんなに追ってきていた俺の横を通り過ぎ、熊めがけて攻撃を仕掛けていた。


 信じられない事態に、逃げることを忘れてその様子を眺めていた。いくら何でも言葉が通じたとは考えられないし、だとしたら何故ターゲットを変更したのかも分からない。今一つ分かっているのは腰が抜けてしまって逃げるに逃げられなくなったということ。


 暫く熊と蜂の攻防は続き、断末魔をあげた熊が動かなくなり勝敗が決した。あんなに巨大で強そうだった熊に勝つ蜂っていったい....


 「熊がやられたってことは次は俺じゃん!! は、早く逃げないと.... って、ん?」


 熊を倒した蜂たちは次は俺を目標に―― することはなく、俺の周りをひたすらブンブンと飛び回っていた。まるで俺からの次の支持を待っているかのように。


 「ちょ、ちょっとこれどういうこと!? 冒険者カードに何か説.... あれ、なんだこれ.... どうなってるの?」


 カードを取り出して気が付いたが、俺の職業の欄に書かれていたのはビーストテイマーではなく、ビーテイマーという初めて見た職業だった。


 「ビーテイマーって何....? さっきからテイム失敗してるのって.... そしたらこの蜂たちって....」


 すべての謎が繋がり、現状を理解する。それと同時に俺は叫んだ。


 「あのクソガキ何一つ願いかなってねぇか!!!! 今度会ったらぶっとばす!!!!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ