10頭目 再開
俺は茨の毒を食らい深い眠りへと誘われた。眠っている最中に夢の中で俺がこの世界へ来ることになった原因の場所へ戻ってきていた。
「やっほーおひさ。その後調子はどうよ?」
俺の前に現れたのはあの日出会った幼女だった。何故もう一度この空間に来たのかは分からないが、今俺がやるべきことは一つだった。俺は右手の手刀を―― 彼女の脳天に振り下ろした。
「痛っ! え、え、急に何!? なんでいきなりチョップ食らったん!?」
「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」
「え、喧嘩売ってる? 胸無いのを遠回しにバカにしてる?」
「もう一発、行きます?」
「はい、自分の胸に手を当ててよく考えさせていただきます」
俺をいきなり転生させ、尚且つ性別は変えるわ職業は訳わからんのにするわと散々やってくれたクソガキに一発お見舞いした後に尋問をする。女にされてしまったのは百歩譲っていいとしよう。何故ビーストテイマーがビーテイマーになったのか。ことの次第によっちゃあもう一発お見舞いしなければならない。
「俺ちゃんとビーストテイマーって書いたよな? どうしてこんなことになってるんだ?」
「あーそのことなんだけどね、うん、悪かったとは思ってますマジで」
「何があったかを隠さず話しなさい」
「あの、最近老眼がひどくってね.... 小さい字がね、読めんのだわ」
「つまりあれか、老眼がひどくてよく見えなくてこんなことになったと」
「はい、その通りでございます」
その話を聞いて俺はもう一発手刀を振り下ろす。頭を抱えうずくまる幼女だったが自業自得であろう。そもそも老眼なのになぜ字で書かせた? 小さい字が読みにくいのが分かってたならほかに方法があるだろう。もしくはルーペ買いなさい、ルーペを。最近CMでよくやってるやつ。
「で、俺は男に戻れたり職業を変えれたりはするのか?」
「え、無理に決まってるじゃん。何馬鹿な事言ってr.... ごめんなさい私が悪うございました。反省してますのでその拳をおさげください」
流石にこれは一発殴ってもいいんじゃなかろうか。本当にさっきからふざけているというか何というか。奴の反応からするに俺はもう男には戻れないらしい。
「本当に俺は男に戻れないのか?」
「うん、少なくとも私には無理かな。私も何でもできる神様ってわけじゃないし、出来ないことも多いのよ」
「前から気になってたけどお前って神じゃないの?」
「正確には神じゃないよ、そう呼ぶ人も多いけどね。私は簡単に言うとこの世界の意思、つまりは世界そのものって方が正解に近いかな」
俺はこいつのことを神か何かだと思っていたがまさか世界そのものだとは思ってもみなかった。
奴の詳しい説明によると、もともとこの世界に存在しない俺という人物を無理やり存在していたことにするのさえ大変だったため、そこでさらに今から性別を変えるとなると修正が追い付かなくなるそう。
難しい話だったが簡単に言うと俺は一生このままらしい。それを聞いてうなだれた。どこかまだ男に戻れるのではないかと希望を持っていただけにこの事実のダメージは大きかった。
「あー、その件に関しては大変申し訳根く思ってるよ? でもまあなんだ、今の君すっごくそんなにへこむこともないと思うけどなぁ」
「俺は男なんだよ.... 可愛いって言われても嬉しか無いわ」
「もー、それは前世ではでしょ? 今は女の子なんだから諦めて女の子として生きればいいじゃん」
そんなことを言ってくるかの彼女だったが、そう簡単にいくわけがない。何と言われようが俺は男を捨てるつもりはないし、恋愛対象だって女のはず.... あれ? 俺ってちゃんと女の子が好きだよね? でも風呂の時とかレンゲの裸を見ても特に何も思わなかったような.... やばい、もしかして心まで女化進んでないか!? 早いとこどうにかして男に戻らないと!!
「全く無理しくていいのに.... ってそんなことより今回私が君をここに呼んだのは理由があるからなんだった! えっと確か君、魔王軍から勧誘とかされてたよね? 分かってると思うけどその話に乗らないでね?」
「ああ、なんだそのことでここに呼ばれたのか。その件なら心配しなくても乗るつもりなかったし大丈夫。そもそも魔王軍に自分から行こうなんて普通は考えないだろ」
「それならいいんだけど.... いや実はさ、今の魔王の右腕っていうのがね、私の送り込んだ転生者なんだよね....」
「え、は? なん、うぇ? ごめん訳わからな過ぎ動揺が」
「いや、僕が一番動揺してるんだよこれでも。どうして寝返ったのか分からないんだけど、相当やばい状況なのは間違いなくてさ。だから慌てて君を呼んだんだ。その君まで万が一向こう側に行かれるとお手上げなのさ」
衝撃の事実に開いた口が塞がらない。魔王を討伐するために送り込まれた転生者が、まさか討伐どころか反旗を翻し魔王軍に加わって人類に牙をむいた。それは確かにあせって当然だろう。それで急遽俺が転生させられたらしいが、無理やりすぎると感じたのは一刻を争うからということだったからみたいだ。
「だからってまだ今の俺じゃあ魔王は倒せないぞ?」
「その点は平気だよ。たとえどれだけ時間がかかっても問題ないのさ。重要なのは君という抑止力がいること。つまり魔王に敵対でいてくれていいってことことなんだ」
「な、なるほど。分からんけど分かったわ。魔王軍に加わらなきゃとりあえずはいいってことか」
「うんそゆこと。マジで頼んだよ、君の選択には世界がかかっていると思いたまえ」
「おい、変なプレッシャーかけんな」
急に世界の行く末は俺が握っていると聞かされ動揺はしたが、俺に魔王軍側につく意思はこれっぽっちもないし心配はいらないだろう。
「よし、これで話したいことは話したしそろそろ現実に戻してあげよう。そうだお詫びにいくつか君にヒントをあげよう。無意識に君は自分の力を抑え込んでるみたいだけど、もう少し自分の今の能力を認めてもいいんじゃないかな? 確かに手違いで間違がった職業になったのかもしれないけどその力を拒んでいたら成長出来ないよ?」
「それってどういう――」
言葉の意味を問おうとしたところで世界が白くなっていく。目を覚ますと現実世界に戻て来ていた。自分がどのくらい寝ていたのか、それが気になり辺りを見回す。
俺が次の瞬間目にしたのは、茨姫とレンゲがアクション映画のような激戦を繰り広げている姿であった。
「え、このハイスペックな戦いの中に飛び込むの? 無理やん.... 死んじゃう、俺死んじゃうよ?」
この光景を見てよし、戦いますか! なんてことになるわけもなく、ただただ戦いの行く末を見守ることにする俺だった。




