山の中の穴のミミークイ
山は戦争に巻き込まれていた。ほうぼうで砲弾が降り、爆発が起きる度に、地面が大いにうなる。穴の中で隠れていたミミークイは、いずれここも崩壊してしまうのではないかと、心配しながら、大事そうに卵を抱えていた。最後に食事を食べたのはもう昨日のことだ。昨日は遠くから空気の轟きが聞こえる程度だったので、空を警戒しながら、山に生い茂る植物や昆虫を捕まえて食べることができたのだった。
お腹が空いてとても苦しい。でも、もうしばらく、この穴の中で辛抱すればきっとこの苦しみから解放される。彼女はそれを知っていた。
穴の中はとても暗く、広く、ひんやりとしている。彼女の体の何倍も高い所にある穴の天井が、また大きく揺れ、土の粒が降ってくる。彼女は降ってくる土で卵が割れてしまわないように、卵をそっと包んだ。まだ、耐えないといけない。耐えるときだ。
ミミークイが穴の中でじっとして、しばらくたつと、地面の轟きが収まり、山は静寂さを取り戻した。もしかしたら、終わったのかもしれない。彼女は辺りを警戒しながら、穴の出口へと向かおうとした。
そのときだった、
「皆殺しだ!」
という低い叫び声と、喉を裂いて無理やり空気を流したような、残酷な悲鳴の後に、乾いた破裂音が何回か続いた。その音を聞いた彼女はすぐに卵がある、穴の奥の方へと逃げ込んだ。
「こんな所に洞窟があるぞ!」
彼女をぞっとさせるのに十分なほどの声が洞窟内を伝播した。
そしてブーツが硬い岩を踏みしめる音が、徐々に近づいてくる。このままだと、彼女も見つかって殺されてしまう。彼女の周りに武器らしい武器は、小さなハサミしかなかった。いざとなったら、これで戦うしかない。
穴の天井に頭が届くほどの大きな男が、暗闇から姿を現した。男の手には、ライフル銃が握られている。
見つかってしまった。ミミークイは震えながらもハサミを広げ男に威嚇する。
男は立ち止まった。
二人はお互いに睨み合った。彼女にとって、この時間はとても長い時間に感じたのかもしれない。必死にハサミを構えた。
すると男は辺りを見回しながらこう呟いた。
「こりゃあ、酷い場所だ。なにも見えん」
男は洞窟をあとにした。
危機を逃れたミミークイは安堵した。なんとか生き延び、守り抜くことができたのだ。この卵を。
ちょうどその頃、卵にひびが入り割れ始めた。
ようやく、辛い時間が終わる。なんとか耐えきることができたのだ。それを見た彼女は卵が割れるのを心待ちにした。
ついに、卵が割れた。
「こどもたち、さあおいで」
ミミークイは、赤ちゃんに腹を喰いちぎられて絶命したのだった。
孵化したてのハサミ虫は餌を捕まえることができないので、まず母親の体を食べるみたいです。