七つの子らの戯言
高電圧注意という看板が括りつけられているフェンスの上に、七羽のカラスがとまっている。
ヒトの耳にはカーカー、アホーアホーと鳴いているようにしか聞こえない彼らの会話を、ちょっと翻訳してみよう。
「最近、どうだ?」
「ボチボチだね。めっきり羽根に艶がなくなってきてさぁ。いよいよ歳だな」
「艶が無くなるくれぇなら、まだ上等よ。俺なんか、抜け羽根が酷いのなんの」
「良い物を食べてないからよ。この冬からかしら。町内を出歩く人間が減ったわね」
「いいことじゃないか。エサ取り放題だ」
「そうでもないだろう。三丁目の商店街は、軒並みシャッターが降りてるぜ?」
「あそこの定食屋のポテサラは、旨いのにな。なんでなんだろう?」
「人間たちの考えることは、わからないわ。でも、サンミツがどうの、ジシュクがどうのと口走ってるのと、何か関係があるのかも」
「そういや、人間どもは、揃いも揃って鼻と口を隠してるな」
「変な風邪が流行してるみたいだぜ。ツバの広い帽子とサングラスをしてるのは、この時期らしいけど、マスクまでされちゃ、怪しさ満点だぜ」
「そういや、四丁目で店の窓ガラスが割られてたな。床にキラキラが散らばってて、綺麗だった」
「私も見たわよ。素顔を晒さないから、そういうことが起こるのかしら。いやぁねぇ」
「まぁ、風邪をこじらせるのは人間だけだから、いいけどよ。可哀想なのは、コウモリたちだぜ」
「なんでさ?」
「知らねぇのか? どっかのアホな政治家が、コウモリが犯人じゃねぇかって根も葉もねぇ噂をバラまいたのさ。ありゃ、きっと選挙対策って奴だ」
「ホント、災難ね。ツバメやツグミは、いくら越境して飛び回っても咎められないのに」
「災難と言えば、五丁目でボヤ騒ぎがあったな。あれは、何が原因だったんだ?」
「火元は、スプレー缶らしいぜ。中のガスが抜けてなかったんだとよ」
「家から出てくる袋の数が増えてるからな。二丁目以外は」
「あぁ、あっちは駄目だな。役人が多いから、旨い汁は、みんな吸われちまってる」
「ちゃっかりしてるわね。――あら、雨だわ」
「今日は、このへんでお開きだな。解散!」
カラスたちは、めいめい、ねぐらへと飛び立ち、フェンスの上には酸性雨が降り注いだ。