流水を渡る(原題:VampireGIRLY)
プロジェクト名、悪意の累代飼育――――――――魔術的とも言える科学特製の試験管の中で近親交配的な混合を続け、濃度を高めたVampire。そこに性成熟を迎えたばかりの人間をかけ合わせ、創り出された存在がいる。
「どうやってその情報を聞き出した」
「まず、私はドライヤーを冷風にしたのよ」
悪魔の血を引く少女は、投げかけられた質問に対し屈託の無い無表情でそう答えた。窓から入る、春の日差しを受けながら。そう、彼女が生まれたおかげで唯の実態無き概念であった吸血鬼の特性は変質し、日光、十字架、流水、土等……様々な制約を受けぬ怪物ができあがったのだ。
「それから?」
製作者であり、飼い主でもある女は尋ねる。
「風をね、二時間。ずーっと目に当ててあげたの。こうして左目を、指でグイと開いてね。右目に風が当たらないよう必死に閉じていて、とても、とても面白かったわ」
「なるほど」
なるほどというのは納得したという意味があり、話を続けろという意味も含む。
「それからね、接着剤を流し込んであげたのよ。目が乾いて可哀想だったから。あなたの机のひきだしにあった接着剤よ? 悪い人ね」
少女はこのような遊びを頻繁に――そして好んで――――行っていたが、血を吸うことは滅多に無かった。彼女を管理する者達からすれば、他者を完璧な奴隷とする吸血時感染による支配――――厳密に言えばそれも唯の概念なのだが、便宜上そう呼ばれている――――――を行ってほしいものではあるのだが、そう簡単にはいかないようだ。なぜなら彼女は、血液よりも、香港から輸入した紅茶と珈琲を混ぜ合わせた飲み物を好むからである。
「牙を見せてみろ」
「今日はそんな気分じゃないの」
彼女の口腔内に牙は無い。だが、確実に存在はしている。
「典礼言語を聞かせるぞ」
「あら? どういうつも――」
「 」
女は、人類では聞き取れぬ発音の言葉を放つ。そしてそれを聞いた少女は、頭を抱え嘔吐しながらのたうち回った。当然、小さな口から吐き出されたのは、紅茶と珈琲の混ぜものである。
「はぁっ、はぁっ――――ふぅぅ」
息を荒げ。それを整え。
「もう終わり? 与える刺激としては、不足していると思うわ」
気丈に振る舞う。
「連続して行えばおまえは死ぬ」
「死んだら困るものね」
「ああ、そうだな。おまえが子をなすまでは」
少女はポケットからハンカチを取り出し口元を拭うと、じっと女の瞳を見つめてこう言った。
「私を誰が私を孕ませてくれるのかしら?」
青い瞳でまっすぐに、まっすぐに女の瞳を見つめて。
「私ではない。女だからな」
「性別なんて試験管の中なら関係ないと言ったのは、あなたじゃない」
「人類の理想に寄り添うふりをするな、化物め」
少女はゲタゲタと笑う。その愛らしさを全て台無しにしてしまうかのような顔で、ゲタゲタと。