悪役令嬢の胸のうち
小さな可愛らしい生き物は嫌いよ。
そう言うと、必ず嫌な女の子だと思われるの。陰でこそこそと悪く言われているのは知っているわ。
でも、栗鼠も兎も仔猫も、小さな可愛い生き物はみんな、私が近づくと怯えて逃げてしまうのよ。
甘いお菓子は嫌いよ。
そう言うと、変な女の子だと思われるの。
初めから甘い物が嫌いだったわけじゃないわ。幼い頃、私は苺のパイが好きだった。
でも、以前、お友達がくれた苺のパイに毒が入っていたの。
私は生死の境をさまよった。助かって目覚めた時には、全てが終わっていたわ。
私には何人もの護衛が付いて、自由に家の外で遊ぶこともできなくなった。
パイをくれたお友達がその後どうなったかは、誰も教えてくれなかったわ。
ただそれ以来、甘い物を食べると、どれも苦く感じるの。だから私は甘いお菓子が嫌いになったのよ。
王子様なんて嫌いよ。
10歳の時に、第1王子の婚約者になったの。王家から持ちかけられた縁談で、断ることができなかったのよ。
なのにその7年後、王子様から婚約破棄されることを私は知っている。
王子様は王妃様譲りの美しい容姿をしていたけれど、ちょっとわがままな少年だったわ。
でも優しい人。
甘い物が苦手な私のために、甘くないお菓子を用意してくれたり。
可愛い生き物に逃げられてがっかりしている私のために、誕生日に、私の大きすぎる魔力にも怯えない、大きな騎獣をプレゼントしてくれたりしたの。
そう。動物たちが私から逃げるのは、私の魔力が大きすぎるせい。
聖属性の大きな魔力を持つ私は、成人前から“聖女”の称号で呼ばれていたわ。
でも私は知っている。私が15歳の時、本当の聖女が覚醒するのよ。
毒に倒れた時から、繰り返し見た夢が私を追い詰める。
覚醒した聖女に恋をする王子様。聖女に嫉妬した私は様々な嫌がらせをする。そして、ついには禁術に手を出し、聖女の魔力を封印しようとして、逆に自分の魔力を封印されるのだ。
婚約破棄から処刑まで、何度夢で見ただろう。
私、決めたの。聖女が現れたら、自分の魔力を封印するわ。そして、あなたとお別れするのよ。
でもおかしいわね。聖女がなかなか出てこない。
夢で見た聖女は、とても目立つピンク色の髪をしていたわ。そう、苺のパイをくれたあの子のような、綺麗なピンク色。
出てくれば、すぐに見つかるはずなのに。
早く出て来なさいよ。王子様なんてあなたにあげるわ。
私を嫌いになる王子様なんて、大っ嫌いなんだからっ!