スライム狩り?
日曜日。
せっかくなので今日も異世界に出かけよう。
しかしゲームならサクサクこなせるような依頼も現実だと普通に時間がかかる。
昨日のキノコ狩りクエストだって10時に出かけて帰ったら17時だ。
毎週土日に出かけるのはしんどいかもしれない。
2時間くらいで帰るつもりだったので後から親につっこまれてちょっと焦った。
いつの間にか出かけてることもあるよってごまかしたけど。
異世界の1日は日本と時差がない。
今日はちゃんと外に行くと言ってから家を出ている。
家のドアにお札を貼ってそのまま異世界へGOである。
お昼もいらないとちゃんと言ってきた。
今日受けた依頼はスライム狩り。
武器選びの時とは違って今度はダンジョンに潜る。
本日の特別依頼で、達成条件はなく参加賞とランキング形式で副賞がつく。
時間は2時間1セットの最長3セット。
何となく面白そうなので受けたけど、ロビーで昨日の主婦さんに会ってその話をしたらとんでもない事実が判明した。
「その依頼のスライムってのは植物性のスライムよ。正直私は2時間もキツかったわ」
異世界のスライムは動物性と植物性がいて、強さも無害から熟練冒険者でも嫌がるレベルまで様々なのだそうな。
今回のクエストは壁に張り付いた植物性スライムを壁からひたすら剥がす単純作業である。
「皆さまお集まりいただきありがとうございます。只今からクエスト用のアイテムを配布します。ダンジョン内には冷えますので必要な方には防寒着もレンタルします」
支給されたのは武器というよりヘラ。
そして背中に背負うカゴとトング。
クエストの内容はスライムをヘラではがしては背中のカゴに入れるだけ。
スライムはダンジョンの壁のあちこちにべったりくっついていて、単純に言えばダンジョンの美観を著しく損なう状態だった。
耐えきれない程の悪臭を放ったり、不気味に蠢いたりもしない。
ただ壁にたくさんへばりついているのだ。
「このダンジョンは5層までが完全攻略済みで魔物は出現しません。人も使わないので空気が淀みこのようにスライムまみれになっているのです」
スライムの元となる菌糸がダンジョン中の壁に広がっていて、空気中の埃などと混ざってスライムになるそうだ。
結果空気はキレイになるが、このまま置いておくとダンジョンの壁が腐るので定期的な駆除が必要になってくるのだという。
使用しないエリアを埋め立てる案もあるが、過去にそれで下層がつぶれる事故があって未使用の低層階はこの世界の社会問題の1つらしい。
参加賞は1セットにつきアイテムチケット1枚とフードチケット2枚。
元の世界だと100均の商品券とおむすびとペットボトルドリンク1本くらいの価値だ。
はっきり言ってなめてる。
何となくで引き受けるんじゃなかったと後悔し始めた。
「それでは職員に続いて2列に並んでダンジョンに入って下さい」
今回もギルドの職員同伴のクエストだ。
はじめて入るダンジョンはカラフルなスライムが壁や床一面に張り付いた気持ち悪いけどちょっとファンシーな空間だった。
壁は石をいくつも積み上げた感じで天井は一枚岩のように見える。
「照明に張り付いているスライムは職員で駆除しますのでそれ以外をお願いしまーす」
光っているスライムは照明を取り込んでいるらしい。
参加者は意外といて20人くらい。
勝手に進まないように先頭にはギルド職員がいて、適当に散らばって異世界冒険者たちがスライムを剥がし終わったら奥へ進んでいく。
スライム狩りは始めてみたらちょっと楽しい。
簡単に剥がせるので私は2時間黙々とひっぺがし続けた。
でもやっぱり2時間で飽きる。
1セット終わったところで家に帰る事にした。
「早かったのね」
「あんまりいいのがなかったからねー」
「スマホ忘れてたでしょ?すぐ追いかけたけど追い付けなかったわよ」
「それは悪かったね」
家のドアが繋がっていたのは異世界だ。
たとえ1秒後でも誰かが家の外に出て追いかけても私はもういない。
なんか悪いことをした気分になった。
今日みたいに2時間程度で帰るなら自分の部屋から出かけても問題なかっただろう。
公園のトイレも行きは良くても帰りは外の様子がわからないし、意外と堂々と遊びに行く方法がない。
そんな事を考えながら午後も何となく気になって今度は自分の部屋からスライムを剥がしにいってしまった。
3層からは魔石が取れるスライムが混ざっているので参加者が意外なことに増えていた。
このまま2時間で4層までのスライムを狩りきるらしい。
1層か2層のスライム狩りに参加しないと3層に進めないため、2層から参加したり、私は偶然だけど中抜けして戻ってくる参加者もいるのでこんな感じでなんとかなるのだ。
5層は普通に魔石取りが出来るので現地の人もそこそこスライムを剥がす為、今回はクエストの範囲に入っていない。
「魔石って何に使うのかな?」
何匹かスライムを剥がしていたら中に小さな核みたいな物が入っているスライムを見つけた。
壁に張り付いている状態だとわからないけど、剥がすと明らかに何か入ってるのがわかる。
「ギルド手帳の電池とか?そのままじゃウチらに使い道はないけど大きいのだとスタンプカード満台紙分のスタンプが貰えたりするよ」
独り言のつもりだったけど黒ギャルが答えてくれた。
「えへへ。多分同い歳くらいだよね?ウチこの世界でだけギャルやってるんだ」
衣装チケットでは肌や目の色も変えられるのでこうして微妙な依頼を受けてはこの世界でだけ黒ギャル生活を楽しんでいるのだそうだ。
ガングロとまではいかないけれど日に焼けた肌にボリュームのある金髪に青い目。
ピンクのパーカーに蛍光色のサロペッツと水色のブーツという暗いダンジョンでかなり浮いている姿をしている。
「普段は田舎の会社で事務やってるんだけど、月イチくらいで渋谷まで買い物に行っててスカウトされたんだよね」
そのまま黒ギャルと喋りながらスライムを剥がす。
「私は飲み会帰りに流れでなんとなく。そっかーアバターみたいな感覚で盛ったりも出来るのか」
「年齢も性別も結構なんとかなるみたい。よかったら今度一緒にクエストに出ない?」
リアルに同世代の女子は珍しいからと誘われてしまった。
「うん。でも私まだこの世界に来たばっかなんだけど大丈夫?」
「おっけー。それじゃあ来週日曜、ギルドで待ち合わせね」
ついでに黒ギャルは私が転移方法で悩んでいることを伝えると異世界が一枚噛んでるチェーンのネットカフェを教えてくれた。