初クエスト
一週間はあっという間だった。
これだけ楽しみなことがあるのは何年ぶりだろう。
土曜日の朝、私は自分の部屋にお札を貼るとドアを開けた。
転移したら服も向こうの格好になるので部屋着のままである。
ドアを開けるとそこはギルド。
異世界冒険者用の掲示板をチェックするとたくさんの依頼が貼ってある。
・薬草採取500g
・スライム討伐10匹
・魔獣ウサギ5匹捕獲
・ゴブリン1匹退治
・川の魔石100g
・キノコ250g採取
…初心者用の依頼はこんな感じで後は似たような依頼で単純にスライムが100匹に
増えたりする感じだ。
基本的にこの世界の人がショボすぎてやらない依頼しか受けられない。
私はその中でもさらに簡単な入門クエストから選ぶことにした。
・インストラクター付キノコ採取クエスト
(11時から受付。4人以上で開催)
別にキノコくらい元の世界でも取れるけれど、たとえスライムでも殺すのにまだ抵抗がある。
まずは平和に何か採取するクエストから攻めていきたい。
「本日は6人の方が参加されます。時間通りに出発しますので10分前にはゲートに集合して下さい」
整理券を貰って私はそのままギルド内で時間を潰すことにした。
前回スライムを倒した分でドリンク回数券を交換しているので今飲むジュースと途中で飲む用のお茶に交換する。
時間になってゲートに到着すると私の他にはもう1人しかいなかった。
「後の方はリピーターの方なので講習が終った頃に参加されます」
キノコの選別に自信がない場合はインストラクター付きのツアーに参加するけれど、最初の説明が終った頃に合流でも問題ないそうだ。
一緒に転移したのは同じ年頃の主婦様だった。
旦那さんが転勤が多いシフト制の仕事なので暇をもて余してるらしい。
正直すごく羨ましい身分だ。
いや世間的には私も恵まれてる方だけど恋愛面が本当にさっぱりだし、無駄遣いが多くて貯金が少なめなのでこれから先生き抜く自信がない。
そんなワケで主婦って普通に羨ましいのだ。
「それではキノコについて説明します。今日採取してもらいたいのはこのチャイロカイフクタケです。似たような毒キノコも無いので時間内にもくもくと採取して下さい」
見本となるキノコの写真が貼ってあるボードをインストラクターが掲げる。
細かいキノコの特徴などの説明やその他の注意事項などの説明が続く。
「オマケ情報ですが、この場所にはレアキノコのゴールデンカイフクタケも生えています。ただしこちらは似たような毒キノコもあるので1本でも見つけたら取らずに私を呼んで下さい」
インストラクターを呼ぶための笛とキノコ用のカゴ。
見本の写真を貰ってクエスト開始だ。
遅れてきたリピーターの人も合流する。
おそらくレアキノコが目当てなのだろう。
チャイロカイフクタケは一番下位のカイフクタケで、ゴールデンカイフクタケは本当にレアアイテムだがめったに生えない。
この世界の下級冒険者がよく行く場所にキイロカイフクタケが生えているのでチャイロカイフクタケをわざわざ採取する人がいないけれど、ゴールデンカイフクタケはここにしか生えない。
しかもゴールデンカイフクタケの出現率を考えるとこの世界の人がわざわざ探すアイテムではないそうだ。
ただしたまに錬成で必要になり、その場合は物探しのアイテムや魔法を使っても1日がかりになる。
…っと後日知るのだが、とりあえず今日はチャイロカイフクタケを取りまくった。
ゴールデンカイフクタケをリピーターさんが見つけたので見せてもらえたのはちょっとラッキーだった。
私はせっせと普通のキノコを集めて予定通りの時間でギルドに戻る。
インストラクター付きのクエストは通常より報酬は安いけど、安全は保証されている。
他のクエストも一応見張りの人はいるらしいけど、安心代と思えば報酬は二の次でもいいかもしれない。
たかがキノコ探しでも疲れたので水筒に残ったお茶とオマケで貰ったお菓子(キノコ型のチョコ菓子)をギルドで食べる。
流れでなんとなく主婦様も一緒だ。
何となくフレンド登録もしてしまったので異世界友達1号である。
フレンドはこの世界にあるギルド手帳に名前が残る。
手帳という名前だけど魔法の力で相手の最終転移日がわかったり、メールを送ったり出来る実質スマホのようなアイテムだ。
初クエスト達成後に貰えたけど、こんな便利そうな物があるならスタンプなどもこれで管理すればいいのにと思う。
「それでさーこないだも1年以内に転勤になっちゃってーいっそ単身赴任でもしてもらいたいけど友達がそれで不倫からの離婚コースでー…」
主婦様の愚痴を延々と聞きながらお茶とお菓子を食べる。
クエストよりそっちの方が疲れた。
「それで、ここでも不定期ログインだから友達が出来なくてーそっかー会社員かー同じ年頃だから主婦かもって思ったのにー」
別に会社員でも結婚してる人はいるだろうとツッコミたいけど、これ以上関わりたくないので曖昧な相槌をうって時間が流れるのを待つ。
お菓子がなくなったタイミングで私は元の世界に帰った。