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Inning3 急がば回れ

購買部で調達したサンドイッチとおにぎりを齧りながら俺たちは校内を歩く。

空は薄暗く風が強い。今日は天気が良くない。


「これからどこへ行くんだ?野球部なら逆方向だが」


「野球部?あそこには用はねえよ。ほとんどサークルみたいなもんだろ、うちのは。俺らの草野球とレベルは似たり寄ったりだ」


ウチの野球部は某大学リーグや某都リーグに参加するような強豪チームではなく、野球経験のないようなズブの素人も楽しく野球を楽しむような仲良しサークルだ。

確かにプロを目指すような機関ではない。


「じゃあ、どこへ向かってるんだ?」


「藤村さんって先輩いただろ?一年上の」


「ああ、覚えてる」


「今からちょっと会ってもらう約束してるんだ。たまたま部室に用があるらしい。運が良かったぜ」

高校時代に藤村さんという一学年上の柔道部の先輩がいた。

高校時代は同じ体育会系ということで会議や応援交換やらでそこそこの繋がりはあった。

現在同じ大学に通っているわけだが、俺たちとは学部が違い、たまに飲み会でご一緒する程度の間柄だ。

そんな細いツテを辿って何をするつもりだこいつは。フットワークも軽いな。


「知ってるか?ウチの柔道部去年から強いんだぜ?今井嘉宏って選手がいるからなんだけど。藤村さんの一個上らしい」


聞いたことがある。最近になって力をつけてきた選手で日本代表の合宿にもちょくちょく呼ばれだしているらしい。


「今井さんてな、実力はあったんだけど高校時代は怪我しててな。こんな無名の大学に来るしかなかったらしい。でも怪我を治しながらこんな何の設備も無い無名の大学でトレーニングしながら、去年くらいからその才能が開花したんだって。なんか聞くこといろいろあると思わねえ?」

俺は驚いた。タツミが恐らくタツミ史上で一番脳みそを働かせている。大学受験の時以上かもしれない。

そして次の一言は更に俺を驚かせた。


「場合によっては柔道部に入ってもいいかもしれん。まずは身体を作らんとな」





「久しぶりだな。道免、三ツ谷。まあ楽にしろ」

柔道部の部室に着くとジャージ姿の藤村さんが待っていた。

待たせたことを詫びると俺たちは挨拶をする。

「今日はわざわざ時間をとってもらいありがとざいます!」


「柔道部の練習を見学したいってことだったな?どうしたんだ?」

柔道部と言えば強面のイメージだが、藤村さんは気のいい先輩だ。

高校時代はキャプテンを務め、なかなかの名君で知られていた。

だからこそタツミも頼ったのだろう。


「実はですね、俺たちは徹底的に自分の身体を鍛えなおしたいと思いましてね。それにはこの学校の施設では柔道部が最適だと思ったわけです」


「見学ならいくらでもしてくれればいい。昔の誼みもあるしな。しかしなぜだ?お前たちはなぜそんなに身体を鍛えたい?言っちゃなんだが、お前たちは楽しく野球が出来れば良いみたいなタイプだと思ってたが」

藤村さんが訝しんでいる。

やはり、こういう質問が来たか・・・

俺は咄嗟にフォローに入る。

「えーーーと実はですね、笑わないで聞いてやってくれますか」

しかし、そんな俺の努力も虚しくこのアホは質問に対して直球を投げつける。

「俺がプロ野球選手になっていずれはメジャーリーガーになりたいからです!それにはこの柔道部が、いえ今井さんがこの学校で急激にその力をつけた理由を知りたいんです!」

ゴリッゴリッのストレートキタァ!!!

笑われるどころか人によっては怒らせる可能性もある、そんな直球をこいつは平気で投げつけやがった。

俺は藤村さんの顔色を心配しながら伺う。

いくら人格者という評判でも俺たちはこの人のことをよく知っているわけではない。



暫く沈黙が続いた。

藤村さんが首を軽く捻りながらうーんとか唸っている。うんやっぱりそうなりますよね。

でも、やはり藤村さんはいい人だった。

何か整理が付いたのか、ハハハッと大きな声で笑いだした。

「そうか、いやすまんすまん、笑ったのは決してお前の夢じゃないぞ。その真っ直ぐさに対してだ」

そう言って自分の顔をパチンと叩く。

「分かった!今井さんの練習を見ていくといい。俺から話は通しておく。今日は5時からだ」


「ありがとうございます!」

俺たちは声を合わせて頭を下げた。





午後の5時、俺たちは同じ場所に集合する。

練習にも参加する予定なので2人ともジャージ姿だ。

柔道部員が7、8人準備運動を始めている。

俺たちの姿を見ると、その中の1人がこちらに近づいてきた。

「こんにちは。話は聞いてるよ。道免くんと三ツ谷くんだったね。じゃあ今日はよろしく」

そう言って手を差し伸べたのは今井嘉宏その人だった。

予定の4話でまとまりそうにないですね。

ほぼ延長確定です。

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