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Inning2 地獄につきあってもらう

「おい、納豆を練るのをやめろ!それをどうする気だ⁈おい⁈」

大丈夫。タツミの拘束にはガムテを使って更に強化している。これならどれだけ暴れようが拘束は解けないだろう。

世迷言を言い始めたこいつを正気に戻してやるのは幼馴染の義務だ。


「聞けぇ!ヤスゥ!!俺は本気だ!本気でメジャーに挑戦する気だ!」


「はいはい、お薬増やしておきますねー」

俺は更に納豆に切ったネギを入れる。

ネギに納豆。大嫌いなものを掛け合わせたこいつはタツミにとって天敵といっていい。


「だぁーかーらぁー!!ネギを納豆に入れるのをやめろぉー!そいつをどうする気だ⁈」

俺は構わず作業を続ける。

後はこいつをタツミの口に突っ込んで猿轡噛ますだけだ。ね、簡単でしょ?


「おい!きけぇっ!!ヤスゥ!!!俺も今すぐ挑戦してメジャーリーガーになれるとは思ってねえよ!せめて5年くらいのトレは必要と思てる!!」


俺は少し驚いてぱた、と作業の手を止める。ふむ、意外と正気のようだな。


「トレーニングって当てはあるのか?」


「それを一緒に考えてくれよ⁈そしてその地獄の食べ物をよそにやってくれ!」


ジタバタしながらタツミは必死で説得にかかる。よっぽどこいつが怖いようだ。


「なあ、タツミ。今は頭に血が上ってテンション上がってるからなんでもできる気になってるけどプロ用のトレーニングってきっついぜ?ま、数日置いてから考えてみ?頭も冷めるって」

俺は諭すようにこのバカを宥める。


「大体、俺らの高校時代思い返してみ?週に何回練習した?追い込むほどの練習量だったか?それでも楽しかっただろ?俺らにはそういうのが合ってたんだよ。それは何も悪いことじゃないし、非難されることでもない」


簀巻きのタツミは無言でじっとこちらを睨み返してくる。

「でもな、そんな俺らがプロになりたい、とか言い出したら話は別だ。おこがましいんだよ。本気でやってる奴への冒瀆だわ」

親友だからこそ本音で言わなきゃいけないことだってある。

例え恨まれようとも。



長い沈黙の時間が流れ、ゆっくりとタツミが口を開く。

「それでも・・・俺はプロを目指したい。アレだろ?今日だけのテンションじゃないって証明すればいいんだな?」

マジかよこいつ。折れねえな。

「ああ、何をする気だ?馬鹿なことはやめろよな⁈」

俺は不安になって釘を刺す。

そんな俺の不安をよそにこいつは不敵にフフ、と笑いやがる。

「いいや、やらせてもらうぜ。馬鹿なことをなあ」

うーんなんかムカつくなこいつ。

「バカやんなきゃプロになんねえよなあ・・・今からじゃ」

そう言ってタツミは遠い目になる。

俺は遂に根負けした。認めよう。

「・・・どうやらある程度は本気のようだな」

「だから言ってるじゃねえか」

タツミが恨めしそうにまたこちらを睨む。

「そろそろこいつを解いてくれよ」


「しかしお前がプロォ⁈先週の試合でどんだけエラーしたよ?腹抱えて笑いたいわ!!」

落ち着いてくると俺は堪え切れなくなって笑いそうになる。

いやいや、笑っちゃいかん場面だよなここは。


「ふん、お前のエラーの数なら覚えてるぞ。4つだ。この戦犯め」


俺は思いっきりネギ入りの納豆をタツミの口に突っ込んでやる。

良質なタンパク質は筋肉の精製には欠かせない。


「ゲッゲボォォォォォォォォォ⁈ハメロォハフゥーー⁈」


何を言ってるのかわからない。おやすみタツミ。





朝方、気絶したタツミを起こし登校する。

教室を探し席に着く。

淡々と時間は流れ午前の授業は終わり、昼休みになった。

いつもと変わらない。タツミはいつに無くおとなしい。

俺はホッとして思わず机に突っ伏せる。

良かった・・・やはり昨日のことは気の迷いだったんだな。

俺はタツミの様子を見て確信する。

昨日のテンションのままならどんな面倒に巻き込まれるか分かったもんじゃなかった。

しかし、安心すると同時に心のどこかで物足りなさを感じる自分に戸惑う。

アホか、これでいいんだろ?俺までタツミに当てられたか?


頭をふりふり雑念を払っていると、急に後ろから肩を掴まれた。

振り返るとあのアホヅラが。


「ヤスよぉ、ちょっと地獄まで付き合ってもらうぜ?」

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