第六話「野草が美味しき・狙うは荒稼ぎ」
ひゃっはー!
荒稼ぎしたいぜぇ!
第六話「野草が美味しき・狙うは荒稼ぎ」
「今日も野草は美味しいな。」
「お肉……。」
「し、仕方ないだろ。お金が足りなかったんだから。」
肩を落とすアカネを励ます。
魔物相手に初勝利を収めたキイとアカネ。
ハリモグラの牙を売ると、3ニコというお金になった。
物価の基準は分からないが、ケバブのような焼かれた肉が1食分で10ニコだった。
つまりハリモグラの牙4つでやっと1食分が得られるのだ。
この辺りの魔物の中では、ハリモグラは弱く、牙も稀少価値も無いみたいなので仕方無いのかもしれないが……。
「それでも、やっぱりショックだよなぁ……。」
口に出てしまう。
槍術士歴、数日のキイ。
無職のアカネ。
2人にとって、魔物1匹を倒すのはとてもではないが困難なことだ。
「ん。青い木の実、いい感じに焼けたぞ。」
「……うん……。」
肉が食べられなかったことがそんなにショックなのか……。
いつも元気なアカネがほとんど喋らないなんて……よほどの事だったのだろう。
「……あっ、ここから広場の時計台が見える。」
辺境グランガーデンには、中央広場に大きな時計台がある。
グランガーデンの南、居住区その2で野宿するキイたちにはあまり関係無いが。
「……まあ、すぐに時間を確認出来るのは嬉しいことか。」
「お肉……。」
「わ、分かったから……あまり言わないでくれ……。俺もショックだったからさ。」
「うん……。」
本っ当にどうしよう……。
空は青いなぁ……はは。
あっ、鐘が鳴った。
なら今は13時か。
ははは、いや~……空は青いなぁ。
「って、途方に暮れてる場合じゃねえわ!!アカネ!それ食べたら秘書様のところに行くぞ!」
「え?」
「俺に考えがある。」
・・・・・・・・・
グランガーデンの中央広場から南に少し外れた場所に、それはある。
キイたちの所属する森林の民御用達の平屋だ。
酒場のようになっている中には十数人の森林の民。
そして……カウンターには秘書様がいた。
「貴方がたは……キイさんとアカネさん。ですね。お久しぶりです。」
「久しぶりです、秘書様。」
キイとアカネが、現実世界からこちらの世界へ来た際に森林の民を勧めてくれたのが秘書様だ。
森林の民のまとめ役で、こちらの世界で頼れる数少ない人物だ。
「姿を見ないので、どこかで死んだのかと思っていましたよ。今日は何か?」
「失礼な……。…………えっと……実は相談があって。」
「……時間もありますし、いいでしょう。水を持ってくるので、掛けていてください。」
「どうも。」
キイとアカネはカウンター前の椅子へ座った。
ここに来るのは1週間振りくらいか。
それなのに、ずいぶん前の事のように感じる。
「お待たせしました。」
秘書様がカップを2つカウンターへ置き、水を注ぐ。
水は公園で飲んでいたので困ることはなかったが、何故だかこの水のほうが美味しそうだ。
「いただきます。」
「おかわり。」
「早っ。」
アカネ……お前いつの間に飲んでたんだよ……。
秘書様は嫌な顔をせず、アカネのカップに水を注いだ。
「それで、ご相談というのは?」
「あっ……と、はい。お金の事なんですけど……。」
「ここは銀行ではないので、貸し借りはやっていませんよ。」
「いや、そうではなく……。って、こっちの世界に銀行なんてあるんですか?」
「はい。金銭の預け入れも出来ますしご利用になられては?」
「はは……まあ……そのうち………。」
声が段々と小さくなっていく。
3ニコしかないキイたちにとっては程遠い未来の話だ。
「貸し借りではないのなら、一体……?」
「……はい。正直に言うと、俺たちはお金に困っています。そこで何か手っ取り早く稼げる手段は無いのかなと思って。」
「……手っ取り早いかはさておき、手段はありますよ。」
「おお!」
瞳を輝かせるキイ。
秘書様は左手で、自身の左側を指し示した。
その先には………何だ、掲示板?
「クエストボードみたいな?」
採集をして納品、対象の魔物を討伐するなどのクエストを受注して、依頼に成功すると報酬を貰える。
……というシステムがゲームでもよくあったりする。
現実世界でRPGをやっていたおかげで、こういう時は飲み込みが早かったりする。
「あちらは賞金首リストですね。討伐対象の人や魔物が、手配書として記されています。」
「それらを討伐することで、懸賞金を獲得できる。……というわけですね。」
「細かいルールがありますが、そう捉えていただいて構いません。……と言いますか、知っているかのような口振りですが……。」
「あはは……似たような仕組みを知っているだけですよ。」
聞かれても面倒だし、半分くらい誤魔化しておこう。
「……まあ、良いでしょう。キイさんのような方は初めてではありませんし。早速受注されていきますか?」
「いや、今日はいいです。アカネの防具すら無いし、俺も怪我してるんで。」
「……治されないのですか?」
「え?まあ、療養中ってやつです。そんな簡単には治りませんって。」
「治癒魔法であっという間だと思うのですが。」
「治癒魔法なんてあるの!?」
秘書様がビクッと肩を震わせた。
ちょっと新鮮で可愛かった。
…………いやいやいや!そうじゃなくて!!
「あっ……と……すみません。治癒魔法?なんてあるんですか?」
「ええ。戦闘系職業・僧侶の覚えるスキルです。…………まさか知らないとは言いませんよね?」
「知りませんでした……。」
マジかこいつ……みたいな目で見られる。
蔑まされる視線に快感は覚えなかったので、ただ悲しかった。
ただまあ、自業自得とも言える。
とにかく攻撃系の職業だ!!と、周りが見えていなかったのは事実。
アカネには僧侶になってもらおうか。
女僧侶なら勇者一行に引き抜かれるくらい需要はあるだろ。
……ああでも。
確か、新たに職業に就くには多額の金が必要だった。
金を稼ぐには僧侶が要る。
僧侶を得るなら金が要る。
どうしたものか……。
すると秘書様が、こう言った。
「彼女に治してもらうのはいかがでしょう?」
「彼女?」
虹色を読んでいただき感謝です。
いかがでしたか?
2日に1回は更新するつもりなのさ。
それでは、またお会いしましょう。
Thank You。