第四話「経験乏しき・知識は偏り」
今日はここまでかな。
第四話「経験乏しき・知識は偏り」
職業。
『この世界』では、戦闘をこなしていく為に、そして生きていく為に必要不可欠と言っても過言では無いもの。
『この世界』での職業は、大きく分けてジョブとクラスに分かれる。
ジョブは、商人や鍛冶屋、
生産系の職業のことを指す。
対してクラスは、騎士や盗賊、狩人など、戦闘向きの職業の事を言うのだ。
どちらも職種は様々だが、その中でもキイはクラス・槍術士になることにした。
理由は名前がカッコいいから。
……と思わなくもないが、実際のところ、あまり敵に近付きたくなかったからだ。
狩人になり弓を扱えばいいじゃないかという者もいるだろう。
素人が簡単に弓を扱えるとは思えなかった。
今必要なのは、『出来るだけ早く2人分の稼ぎを得ること』。
「……。」
そんなこんなで、キイはクラス・槍術士に就いた。
「名前だけじゃないことを祈ろう……。」
訓練手配書を槍術士組合に渡し、マスターに教えを請うた。
文字に起こせば簡単だが、実はかなり苦労した。
間合い、持ち方、立ち回りかた、戦闘に関することから槍の手入れの仕方まで。
これを3日で覚えさせられた。
本当は1ヶ月かけるものだとマスターに言われたが、どうやらあの手配書は3日分の効力しか無いらしい。
秘書様のやつ……。
「アカネ!ウリリンの手斧と俺の槍じゃ、槍の方が間合いが大きい!俺がメインでいく!!」
「分かった!なら私は木の実探しておく!」
「いやそこは援護だろ!?」
「でも私、『武器持ってない』から役に立たないよ?」
「……分かった、隠れていてくれ!」
「木の実探す!」
「もうそれでいいよ!!」
ワガママというか身勝手というか……。
協調性は無い。
「ブゴフ!」
ウリリンが突進してくる。
森の中での戦闘は、木が死角になったり邪魔になることが多い。
それは相手も同じだが、こちらも不利なのには変わらない。しかも。
「うっ……わっ……!」
戦闘なんてやったことない俺にとっては強敵だ。
経験がものを言う。
それを痛く実感した。
右、左、右、左。
単調なものだが重い。
防ぐので手一杯だ。反撃しなければいけないのに、隙が無い。
隙?
そもそも隙なんて見つけられるものなのか?
「ブゴフゥ!!」
突如、踵を返して走り出すウリリン。
「待っ……!」
……てくれと……言うつもりが……遅かった。
ウリリンの姿はすぐに見えなくなる。
「くそっ……逃がしたのか……!」
「キイ。今日も野草?」
「……みたいだな……。」
・・・・・・・・・
辺境グランガーデンにて森林の民となったキイとアカネ。
異世界に飛ばされた12人の内の2人は、チームを組んで行動していた。
元いた世界の記憶はある。
が、役に立ちそうな記憶はほとんど無い。
あまりにも環境が違いすぎるのだ。ゲームと思いたいくらいオーソドックスなファンタジー世界。
現実世界じゃ、魔物と戦ったりしない。
「今日はどこで野宿しようか……。」
町へと帰りながら、アカネに問う。
「今日はねー……どこがいいかな?」
「いや、それを聞いてるんだよ……。」
金も無いから宿には泊まれない。
稼げばよいのだが、獲物のウリリンは逃がしてしまった。
あれが初戦闘。初実戦。
……身体が動いてくれたのは、意外だった。
グランガーデンに来て5日。
さすがに身体の節々が痛い。
まともな食事も、まともな睡眠も出来ない。
いつか死ぬだろう、実感は無いけど。
「……にしてもこの森、本当に初心者向けなのか……?」
「秘書さんはそう言ってたね。」
「……あの秘書様が言うことだからなぁ……。いまいち信用ならないっていうか。」
秘書様は森林の民をまとめる存在だ。
この世界に来て、まともに話した『こちらの世界の人』は秘書様が最初だ。
彼女は俺たちの事情を知っているみたいで、何か秘密があるのは間違いなさそうなんだが……。
「……あ。」
不意にお腹が鳴った。
今は昼時。
かなり早い帰還に肩を落とすが、今日は気分が削がれてしまった。
また明日出直そう。
明日があるかは分からないけど。
・・・・・・・・・
「いただきまーす!」
「いただきます。」
両手を合わせて拝む。
目の前には焚き火と、それに炙られた数種類の木の実。
森の野草や木の実で食を繋いでいるが、いつまで持つやら……。
「うーん……今日の木の実、ちょっと辛いねー……。」
「豪快に食べながら言われても……。」
毒があったのだろうか。
だとしたら食べたくない。
……野草や木の実の知識は、アカネが図鑑の立ち読みをして覚えてきたらしい。
脳のキャパがそれほどあるとは思えないが、食べ物だから覚えられたとか。
「……これ、本当に食べられるのか?」
「うん。」
……。
ああ、うん。それで終わりか。
……食べられるのか……。
紫色のはブルーベリーみたいで美味しそうだ。
青いのは…………なんだ……これ……。
こっちの黄色のは……黒く変色してないか……?
「よく食べられるな、アカネ……。」
「食べなきゃ生きていけないもん。」
「それはそうだけどさ……。」
そうだ、食べなければ生きていけない。
生きるんだ。この慣れない生活に戸惑いながらも。
生きなきゃ、帰れないんだ。
虹色を読んでいただき感謝です。
いかがでしたか?
次は29日。
それでは、またお会いしましょう。
Thank You。