第三話「飛び散るは火花・奏でるファンタジア」
連続で、どーん。
第三話「飛び散るは火花・奏でるファンタジア」
「冗談はよしこさんですよ。森林の民をご存知ないと?」
「ご存知ないから聞いてるんだ。森林の民ってのはなんだ?ついでに、ここはどこだ?」
本題とついでが逆の気がするが、おっかない女はおっかないので、キイは黙っておいた。
見知らぬ世界へと飛ばされた12人の男女は、とある建物内へとやって来ていた。
周りを見渡す。
「騒がしい……。」
眠そうな男がそう言った。
「酒……。」
おっさんがそう言った。
おっさん……あんたって人は……。
広いわけではないが、長方形のテーブルが8つ。
その周りを椅子が囲んで、椅子には何人もの人が座っている。
ただ座っているわけではない。
あれをこうした、それをどうしたと、ドンチャン騒ぎ。
内容はよく聞こえないが、ただ一つ、妙に思うところがあった。
格好だ。
キイたちのそれとは違う。
大半は鎧らしきものを着ているのだ。
「…………RPGみたいだな……。」
異様な空間に圧されながらも、キイは前を向いた。
向かい合うのは、銀髪のおっかない女と眼鏡をかけた秘書みたいな女性。
秘書さんと呼ぼう。勝手に。心の中で。
細長い机を隔てて視線交わす。
正直怖い。
何故か恐怖心が芽生える。
「…………ああ、そうなんですね。」
「あ?」
「こちらの話です。……そうですね……言えることは少ないですけど間違いないのは、あなた方はこの世界の住人ではないというわけです。」
「んなの分かってんだ!!!!」
バン!!と机を叩くおっかない女。
……おっかない。
だが周りの鎧たちはさほど気にしていない様子だ。
「事情知ってるっぽいな、お前。」
「いいえ。私の仕事の一つに、あなた方の案内がありますが、事情は知りません。あくまでも仕事を全うしているだけですので。」
「…………。」
「…………。」
「ちっ。」
おっかない女が負けた……!?
真に強いのは、あの秘書さんなのかもしれない。
今から……まあ、さっき決めたことだが、今から秘書さんは秘書様だ。
「じゃあその仕事とやらを全うしたらどうだ?」
「言われずとも。」
「アンタは嫌いだ。」
「私もです。」
火花が散る。
怯えているのはキイだけじゃないはずだ。
まあ少なくとも、赤髪の小柄な女の子アカネは、何がなんだか分かっていない様子だが。きょとんとしている。
あいつも結構すごいやつなのかも。
「では、説明しましょうか。」
秘書様がそう言った。
無意識に気を引き締める。
「ここは辺境グランガーデン。辺境と言っても、人がいないわけではありませんし。だからといって、人同士の戦争なんてそう起きません。」
やめてほしい。戦争なんて怖いし。
…………人同士のとわざわざ付けた辺り、違和感を感じるが。
「ここ一辺には、魔物と呼ばれる人間以外の存在がうじゃうじゃといます。」
「魔物……!?」
誰かがそう言った。
皆騒然としているので、誰が言ったかはよく分からなかった。
「しかし王都の近衛兵たちは、こちらまであまり手を回せません。そこで、森林の民の出番なのです。」
「へえ~!じゃあさ、じゃあさ、その魔物と戦ったりするわけ?」
チャラそうな男が口を開いた。
実際にチャラかった。
「はい。ですが森林の民の目的は、この都市の守護ではありません。」
「じゃあ、森林の民は何のためにあるんだ?」
「何の……ですか。有り体な言葉で言えば、目的はありません。」
「え?」
キイは思わず口に出していた。
…………皆の視線が集まる。
いや、だから怖いって。
「森林の民は、自然と生きる自由の民。一応、身分として活用出来ますが、何をしなければならないといった目的は無いのです。」
「目的が無いなら、何をやっている。」
おっかない女だ。
「目的は作るものです。日々、戦闘や鍛練に勤しんでおりますよ。……では。」
秘書様は、何かを机の中から取り出した。
「これが、森林の民の証明。」
木製?に見えるペンダントだった。
「森林の民になられる方には、この証と……。職業訓練手配書が貰えます。」
「職業訓練手配書?」
「はい。森林の民に所属している人は、職業に就いているものです。所謂クラス……でしょうか。」
「サラリーマンとか、清掃業者とか?」
眠そうな男よ。それは違うと思う。
サラリーマンは戦闘を繰り広げない。
「いいえ。」
秘書様はきっぱりと否定した。
「勿論、無所属でも構いません。しかしいずれかの職業に就かなければ……スキルを覚えることが出来ませんし。お金を稼ぐにはその方が良いかと。信頼性も上ですし。」
お金……。
そっか、生きていくには必要だからな。
そういえば、財布が無い。あったところで中身が使えるのかは分からないが。
「スキルか……。」
おっかない女は別の事に考えがいっていたようだ。
スキルというと、技みたいなものだろうか。
自分だけのオリジナル必殺技を、小さい頃はよく考えていたものだ。
…………技名とかはよく覚えてないけど。
「じゃ、なる。森林の民にはどうやってなればいい?」
判断が早い。
あのおっかない女、怖くないのか。
「ここで手続きをすればよいのですよ。」
「じゃあさっさとやらせろ。」
秘書様は机から、さらにいくつもの証や手配書を取り出した。
最後に、紙とペンを取りだし……。
「こちらに署名を。」
手のひらで指し、促した。
ぞろぞろと列を作る者たち。
「……。」
嘘だろ……何で皆、そんなに順応してるんだよ……。
俺が遅いだけか?そうなのか?
でも、アカネや桃色お嬢様、茶髪眼鏡や色っぽいお姉さんも、少し躊躇しているように見えた。
「どうぞ。」
そんな事を考えていると、おっかない女は、森林の民の証と、手配書を貰っていた。
・・・・・・・・・
「……。」
皆は続々と証などを貰っていった。……本当に順応しているのか。それとも流されているだけなのか。
でも流されて、それでやっていけるのだろうか。
腹をくくれ。そうしなければ、生きていけない。
キイが判断を下したときには、すでにアカネと二人しかいなかった。
すでに皆、行動に移しているのだ。
……いくらなんでも早すぎるだろ。
「……あれ?」
そこで、キイはとある違和感に気付いた。
「秘書様。職業訓練手配書ってあと一つなんですか?」
「ええ。」
「…………それで終わり?」
「ええ。」
何の意図があって、そんなことを……?
証は二つ。しかし、手配書とやらは一つしか無かったのだ。
まさかとは思うが、すでにここから振り分けられてるのか?この世界に、順応出来るかどうかの。
「でも、手配書が無かったら職業には就けないんですよね?」
「そんなことはありませんよ。ただ、莫大な金額のお金が必要になるだけです。」
「……手配書があれば無料?」
「はい。正確には私たちが買っているのですがね。」
「…………。」
仕方無いか。
「アカネ。」
キイは手招きをした。
アカネは首を傾げ、とことこ歩み寄る。
「お前、手配書を貰っておけ。」
「え?」
「俺は、まあ、無職でも何とかやっていくから。だから、貰っておけ。」
「……?」
「何で不思議そうな顔してるんだよ……。」
「何の話?」
「…………。」
いや、まさかな。
この女……話を理解していないとか言わないよな?
「アカネ。お前、話は聞いてたよな?」
「うん!」
「理解は?」
「してない!」
「出来るか?」
「出来ない!」
「自信満々に言うなよ!!」
このまま渡したら多分、二人とも死ぬ。
うん。間違いない。
「じゃあアカネ。とりあえず俺が貰っておくから、組もう。二人で。」
「え?」
「……一人じゃ不安だし、二人なら何とかなるかもしれないだろ?だから、チームになろう。」
「……。」
アカネは考えた。
少ない知識で、知恵で。
「……。」
沈黙が流れる。
アカネはキイを見つめていた。
「……まさか、私の事好きなのか!?」
「は!?何でそうなるんだよ!?」
「だって、私と組むんでしょ?」
「あ、ああ。」
「そういうことでしょ?」
「どういうことだよ……。」
そしてこの日、キイとアカネは出会い、森林の民となった。
虹色を読んでいただき感謝です。
いかがでしたか?
間隔を開けないように投稿したいねー。
2日に1回出来たらいいかな。
それでは、またお会いしましょう。
Thank You。