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パターン1(幼馴染ルート)

無印短編と同じものです。短編をお読みになった方は飛ばしてください。

__まずい、やられた。私、ソフィー=スカーレットは猛烈な眠気と戦っていた。

これは確実に何か盛られた。そういえば、さっき拾ったハンカチ、なんか薬っぽい匂いがした気がする。あわてて放り投げて廊下から教室に向かう。

「アル!アルバート!」

「何、ソフィー?」

もうダメだ。限界だ。倒れるように自分の席に座ると、机に突っ伏す。

「昼休み終わるときに起こして。変なの来たら追い払っといて」

そして私は夢の世界へ旅立った。


  私は物心つく頃から前世の記憶というものを持っていた。地球、日本、女子高生。知らない単語なのに知っている。前世の私は、友人に熱心に勧められ、乙女ゲームと呼ばれるものを初めてプレイしようとした矢先に前方不注意で死亡している。その時プレイしようとしていたのが『キミキス〜計略と打算と恋の輪舞ロンド〜』だ。


 正直言って、私はあまり乙女ゲームに興味がなかった。だがあまりに友人が何度も話したのであらすじだけは頭に入っている。それはこうだ。


 剣と魔法で成り立つ世界に生まれた主人公、夕焼け色の髪と瞳を持つソフィー=スカーレットは莫大ばくだいな魔力を持っていた。それは、自分が強力な魔法を使えるとかではなく、他者を強化する力。彼女を手に入れれば、自分は強くなれる。そう思った攻略対象たちは、ときに計略を張り巡らし、時に打算でもって彼女に近づき、その中で本当の恋に落ちる。


 そう、ソフィー=スカーレット、誠に遺憾いかんにも私と同じ名前だ。そして、現在、魔法学院において、私は常に誰かに狙われている。攻略対象が誰なのかは知らないが、そういうものだけではなく不特定多数にだ。普通は他者の強化をする場合、しかるべき手順を踏んで呪文を唱える。しかし、私の場合、身体の一部が触れ合うと、それだけで一時的に身体能力が高くなったり、魔力が高くなったりするらしい。


 この設定を考えた奴は馬鹿だと思う。私はヒロインなのにただの魔力のエサなのだ。そしてもっと最低なことに、相手の強化はキスが最も効率が良いとされているのだ。学院の先生からこの話を聞いた時は、驚いて目玉が飛び出るかと思った。


 つまり、私が毎日のようにされている告白は、すべて打算で、本当の意味で私を好きになってくれる人なんていない。下手したら一生。



ゆさゆさ。

「ソフィー、起きて。始まるよ」

ハッと覚醒する。あのハンカチ捨ててよかった。頭はちょっと重いものの、この程度なら問題ない。

「大丈夫?また何かあったの?」

「大丈夫、いつものことよ」

返すとアルバートは眉間にしわを寄せた。

「いつものこと?だから心配してるんじゃないか」

 アルバートは水魔法が得意な魔法剣士で、私の幼馴染である。サラサラの青い髪、蜜色の瞳をした彼はまさに水を体現している。


「ほら、始まるわ」

チャイムがなって着席を促すと、彼はしぶしぶそれにならった。



 私がこのおかしな体質に気づいたのは、アルバートが原因だった。彼と私がまだ幼い頃、近所の森で遊んでいて奥まで入りこみ、うっかり日が暮れてしまったことがあった。出口には向かっていたものの、水は少なくなり、食べ物はなく、歩き疲れた私は転んでしまった。その時、アルが言ったのだ。


「ソフィー、おいしそう」


彼は間違いなくそう言ってふらふらと取り憑かれたように私にキスをした。突然ファーストキスを奪われた私は呆然として、それから泣いてしまった。

 だが、結果的にこれで助かったのだ。私とキスをしたアルは夜目が効くようになり、私を背負って森を抜けた。7、8歳の子供には出来ないはずの芸当だった。


 あの後、キスのショックでしばらくアルの顔が見れなかった。アルは何度も謝って来た。そして、それから不埒な輩に狙われるようになった私の護衛を買って出た。

「ごめんね。ソフィー」

何度も繰り返すアルにさすがに心が痛くなって、私たちは和解した。その時に約束したことがある。

一つ__みだりにソフィーに触れないこと。

一つ__緊急時に身体に触れる時は手をにぎること。

一つ__ソフィーをできる限り守ること。


 最後の一つは私にとって、とってもありがたかったが、最近アルバートの心配がひどくなって、逆に心を痛めている。

 学園に入ってから、彼をずっと利用してしまっている。不特定多数の人間から身を守るためだと言っても、私が彼を利用している事実は消えない。


私が常に傍にいるせいで、彼は恋人を作ることも難しい。優しい彼は、たった一度の過ちの罪悪感と責任感で放り出すことなく面倒をみてくれている。


 再びチャイムが鳴って席を立つ。伸びをしているとアルバートが声をかけて来た。

「悪いんだけど、ちょっと待っててくれないかな。放課後ちょっと用事があって」

「うん。いいよ。いつもの場所にいるね」

彼がこういうのは珍しい話ではない。こうゆう時、私は詮索せず、図書室で待つことにしている。彼には彼のプライベートがあってしかるべきだ。


「すぐ済ませるから」

言って彼は教室を出て行った。


私も図書室に向かうことにした。



図書室に入ろうとして、背筋に悪寒が走る。扉を開けて少し先、通路の真ん中にハンカチが落ちている。私はそのハンカチに見覚えがあった。ここに、昼投げ捨てたハンカチの持ち主がいる。


 私は踵を返し走る。睡眠薬を盛るような奴なんてろくな奴じゃない。監禁でもされて、力を搾取されたらと思うとゾッとする。


 私は中庭に走り出た。中庭は周りを教室の窓に囲まれているから、どこかに必ず人の目がある。放課後、人がまばらになった中、どれほど抑止効果があるかわからないが、ここのほうが襲われにくいはずだ。


だが、私は後悔した。中庭には木が植えられていて死角があり、そして何よりその死角にアルバートと燃えるような赤い髪の女生徒が向かい合っているのを見つけてしまったからだ。


これは、告白というやつだろう。見てはいけないとは思いつつ、目が離せない。

私は足音を潜め、なるべく気配を殺す。伝達魔法の広域化を使う。とたんに私の耳は彼らの声を拾った。


「なぜわからないのです!」

どうやら彼女は怒っているようだった。

「あなたはあの女に利用されているのですよ?私があなたを解放して差し上げますというのに」

アルバートが答える。

「僕は利用されていてもかまわない。僕にだって打算くらいある」

「たとえ付き合うふりでもいいと、譲歩していますのに」

「悪いけど、他を当たってくれないか。僕は現状に満足している」

彼女は顔を歪めた。

「もう知りませんわ!」


 そして私のすぐ脇を通って走り去って行った。通り過ぎる瞬間彼女と目が合い、キッと睨まれた気がする。


「ソフィー、何でこんなとこにいるんだ?」

「あ……ごめんなさい」

「何かあったんじゃない?」

吐け、と視線で脅される。怖い。

「いや、図書室に昼間私が寝ちゃった原因のハンカチが落ちてて、犯人がいるかもって思って逃げて来たの」

彼はピンと眉を刎ねあげる。いやだから怖いって。


「そんなことより、私さっきの話聞いちゃったの。アル、私の護衛やめてもいいよ?」

「なぜそんな必要が?」

間髪入れずにアルは返してくる。


「だって私みたいのが傍にいたらアルには彼女できないよ?」

「ソフィーは僕が邪魔になったのかい?」

アルは目がすわっている。

「そんなことはないわ」

「好きな人ができたとか?」

「そんなこと……」


ない、と続けようとした。だが、ここでふつふつと怒りが湧き上がってくる。アルが打算で自分の傍にいると言ったことが思ったよりずっとショックだったからだ。


「何で私ばっかり責めるの?アル言ってたじゃない。打算で私の傍にいるって。私ショックだったんだから」

「アルだけは私の力が目当てじゃないって信じてたのに」

続けると彼はびっくりしたように固まった。


「ソフィー、違うよ。誤解だ」

「嘘よ。さっき言ってたじゃない。聞いたんだから」

彼は舌打ちした。


「あの人の言う通りだわ。私はアルの罪悪感を利用したし、アルは私の力が目当てだった」

言ってて悲しくなり涙が出てくる。

「違う! ソフィー、聞くんだ。僕を信じてくれないか」


真面目で優しいアルバート。私は彼を信じたかった。信じられる自信はないが。

私が無言でいると彼は言った。


「……信じなくてもいい。聞いてくれ。僕は君に言ってないことがある。僕が君の護衛を引き受けたのは、罪悪感からじゃない。君に僕以外の男を近づけないためだ。これが僕の一つ目の計略と打算」


「もう一つ。君は僕に対して罪悪感を感じてただろう?それに僕が優しいと誤解してた。君が罪悪感にさいなまれて、僕のことばかりしか考えられなくなるように仕向けた。これが二つ目の計略と打算」


「僕は、君が好きなんだよ。ソフィー」


とてもとても信じられそうにない。馬鹿みたいに口を開けて、思わず自分の頬をつねる。

「私夢を見ているのかしら」


「さあ今度はソフィーが質問に答える番だ。僕は全て手の内を明かした。ソフィーだけ答えないなんてずるいだろう?」


確かに、そうかもしれない。

「何が知りたいの?」

「なぜ、僕を君から引き離そうとした?」

それは__

彼女と彼が一緒にいるのを見て辛かった。どうせいつか離れて言ってしまうなら、自分から突き放してしまおうと、した?

それって、つまり__


「えええ?私ってアルのこと好きなの!?」

勝手に自己完結した私を見てアルは目を見張った。

そして、そういえば__と続ける。


「さっきあの子と話をしていた時、僕は一つだけ嘘をついた」

「嘘?」

「僕が現状に満足していると言ったのは、嘘だ」

「僕は君に触れたいし、キスしたいし、恋人になりたい」


「僕たち両思いなんだけど?」

「っ……」


彼の顔がゆっくりと近づいてくる。私は避けなかった。

そして私たちは二度目のキスを交わした。



一度目のキスは偶然に。

二度目のキスは心から。


ハンカチを捨てますか?

○Yes / No

図書室に入りますか?

Yes / ○No

どこに向かいますか?

○中庭 / 教室  / 職員室


彼女は無意識にヤンデレ監禁ルートを回避して、幼馴染ルートに入っています。

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