プロローグ2
今回は地の文がほとんどです。
俺の住む高天原市は、核戦争によって人類の居住可能地域が激減してしまった現状で、僅かな土地でも人類が生活するための実験として造られた完全自立型実験都市だ。そのもくてき故、外部とライフラインを隔離するために周囲を深い森で囲まれている。俺は今、夜中に家を抜け出してその森にいる。
鬱蒼と繁った木々のなかを空中«・・»を蹴って奥へと翔ていく。俺は魔法が使えない。使わないとかそう言うのではなく、脳内に魔方陣を展開しようとしても何故か無意識下の本能がそれを中断してしまう。だからこれは魔法ではない、異能だ。
これを俺は小学生の時に遭った交通事故で、突っ込んできたトラックを避けようとして使えるようになった。その時は結局飛距離が足らずに軽くぶつかって軽症を負ってしまったが、それが功を奏したのか能力のことは露見していない。それ以降、俺が何らかの危機に陥った時に、その事柄による俺への被害が最大限にならない程度のその場に応じた能力が使える様になっていった。だから俺はこの能力、駆空(と俺は便宜上呼んでいる)以外にも幾つか能力がある。だがそれらのどれもが[人間のある動作を超能力の領域にまで拡大したもの]を越えたことはない。現に駆空も[自分の体を加えた力そのままの速度が出せるほどの大量の粒子を一度に蹴る]という能力だ。ちなみにこれは色々と実験した結果判明したことだ。
俺が異能をなぜ使えるのか、それは分からない、考えた所で無駄であることは明らかだ。一度両親に相談しようともしたが家庭が崩壊してしまうかと思うとできなかった。
この森は俺が中学の所謂反抗期と呼ばれている時期の真っ只中だった時に一度来て以来たまに来ているが、それでも尚ほんの一部しか把握できていない程深い。プロの陸上の短距離走の選手が走るのと遜色ない速さ(直線換算)で30分も進んでいるのに、まだまだ木々の密度が低くなる気配はなく、むしろ密度が増していっている位だ。
この森には未発見の新種の生物が結構な数存在している。一般には見つかっていないようだが、そのどれもが既存の生物を恐ろしく、獰猛にしたような見た目を持っているため、俺は[魔獣]と呼んでいる。
俺はこの森に来てはそれらを狩っている。魔獣達は死ぬと粒子状になって消える。だから俺がいくら狩った所で他人にばれることはない。
今日は明日の事が楽しみ過ぎて眠れず、体を動かせば寝れるだろうということでここに来ている。
俺が森の中を進んでいると、視界の隅に猪らしきもの、恐らく猪型の魔獣だろう、が入る。俺はそいつの前に姿を出すと、右手首をそこらの枝で切り、血を出すとそれで刃渡り30センチ程の剣を形成する。
魔獣は俺の姿を認めると、すぐさま襲いかかってくる。猪らしいが通常のそれとは一線を画する突進を、俺は瞬間で見切り飛び上がりつつ魔獣に手を着き勢いを利用して上を取る。そしてそのまま魔獣の延髄に剣を突き立て、背中を蹴って離脱する。
魔獣は剣を延髄に突き刺されたまま少し走ると、息絶えたのか砂のようにその体を崩す。
「ふう、狩猟完了っと」
俺はその場に腰を下ろして一息着くと、腰のベルトポーチから缶のスポーツ飲料を取り出して一息に飲み干す。やはり久しぶりだと、一度とはいえ集中力をかなり要するためかかなり疲れる、今日はもう帰ろう。
来たときと同じようにして森を抜け、家に帰ると疲れのせいか俺は直ぐに眠りに落ちた。
column:魔動具
核戦争前迄に存在していた何らかの動力を必要とする道具の動力を魔力に置き換えたもの。過程は魔法的なものになったが、もたらす結果は以前の物と変わらない。例:自動車のエンジンを魔力で動かすようにしたもの、但し機能は元の自動車と変わらない、等。