序
やや表現にキツイものを感じるかもしれません。苦手な方はご遠慮下さい。
この世界は醜い。
色彩はなく、鼻をつくような酸いた匂いがただよい、私の気力を著しく削ぐ。
醜悪さを隠すために化粧をする雌たち。
弱さが露呈することを恐れて力を誇示する男たち。
自らの保身のために子供を飼う親たち。
醜いとしか形容出来ない。
その中でも際立って醜いものがいる。
あいつがいるだけで世界は腐っていく。
あいつをどうにかしなければ私は脳漿から腐敗していく。
だかあいつに近づくことは、できない。
そばによることは困難である。
あいつの臭いを嗅ぐだけで臓腑が爛れ、腹の奥が熱く痛む。
何より頭に鳴り響く雑音が増し立っていられない。
ああ、煩い。
早くなんとかしなければ、私は狂ってしまう。
目元に光が当たり、暗闇の部屋の中で私は目覚めた。
また、くだらない日々が過ぎようとしていた。
一体今何時なんだろうか。
辺りはまだ暗い。
何故光が当たるのか、あぁ隣の部屋から漏れ出ている。仄暗い明かり、オレンジ色の豆電球の光が戸の隙間から漏れている。
なんだ、あの光は。何故明かりがついている。
奇妙に思いながらもその戸の奥の部屋と興味が惹かれる。確かに消して寝たはずだが。
戸に近づくと声が聞こえてきた。
この声は、なんだ?
よく知っている声なのに、まったく知らないような女の嬌声が聞こえる。
動悸がする。
喉が乾く。
見るべきではない、私の中で誰がそう叫んでいる。
見てしまったらもう戻れない。
そんな気がする。
身体中から汗が吹き出る。
見てはいけない。
分かっている。
しかし、目が明かりからそらせない。
きっとこれは夢だった。
布団に入り、寝てしまえばいい。
目が覚めた時には何も変わっていない。
そうだ、なのに。
私の体は戸の向こうへと動いていく。
あぁ見てはいけない。
聞いてはいけない。
わかっている。わかっているんだ。
なのに私の手は耳はあの光の下にあるものを求めてしまう。
何があるのが知らないのに、あの先の答えを求めてしまう。
あぁだめだ。
あの声が、あの妖しい光が、わたしの奥深くに眠る欲望を刺激する。
見たい。
聞きたい。
そして私は見てしまった。
聞いてしまった。
隙間から明かりの下に見える影を。
あぁ、やはりいけなかった。
見てはいけなかった。
聞いてはいけなかった。
私の中で何かが壊れた。
やはり早くなんとかしなくてはいけなかったのだ。
私はとうに腐敗していたのだ。
腹の奥が爛れて熱くなる。
醜い。
醜い。
醜い。
形容しがたい感情が込み上げてくる。
あぁ。
ああ。
頭が痛い。
あの雑音が激しく聞こえる。
煩い。
煩い。
なんて煩いんだ。
あぁ。
ついに私は狂ってしまった。