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真紅の旗印

高校の終わり頃にこの小説を書き始め、気づけば社会人になってました

大学4年間はこの小説と共にありました


汜水関にて玄徳が華雄を討ち破り、反仲穎連合軍は虎牢関へと軍を進めた。

虎牢関さえ()とせば仲穎の()る洛陽まで目と鼻の先……という事で、反仲穎連合軍の士気は大いに高まっていた。

そんな士気の高い……機嫌の良い反仲穎連合軍の盟主、本初によって玄徳は大いに賞賛され、またもや先陣を任された。

それも前回みたいな何か有った際の捨て駒としてではなく、名誉の先陣だ。


そんな名誉を賜った玄徳達はというと—————




「ねぇお義兄様、どうして私だけを見てくれないの?」

「どうしてって言われても……俺一応指揮官だし」

「それでもなの!どうして私達………って、あれ?ねぇお姉ちゃん。さっき『私達だけ』じゃなくて『私だけ』って言った?」




———いつも通りイチャイチャ(?)していた。



「おい玄徳ゥ!!………は……何やらかしたんだ…!?」

「あ、子龍。………たすけて?」

「何故疑問形!?」

「いやだって子龍に何とかしろって言っても無理じゃん」

「よし喧嘩売ってんだな表出ろ!実戦形式の試合しようぜ!!」

「その試合でもしお兄様にケガを負わせたら……わかってますよね?」

「虎牢関からの暗殺者に()られたって太守様には伝えておくね」

「ヒィ……ッ!?」



元幽州最強の情けない本気の悲鳴が聴こえる。


だが、こんな光景もまた玄徳達にとっての『いつも通り』の日常であった。



「何をいつも通りに遊んでいるのだお主らは……」

「あ、太守様」

(あるじ)!助け———なクてモ大丈夫デス、これぐらい何とかできらァ!!」


「雲長、翼徳、やっておしまいなさい」


「「あらほらさっさー!」」


「嘘です冗談ですやっぱ助けてください主!!」

「この関係、何年経っても変わらんのぉ……」



命よりもプライドを取ったからこうなるんだ。と、笑う玄徳。


その顔にはこれから始まる過酷で過激な戦いへの恐怖心やプレッシャー等は少しも無かった。



「玄徳、雲長、翼徳、ついでに子龍も随分といつも通りで何やら余裕そうじゃが」

「いえ、主、俺は余裕など無く本気で焦っておりますが!?」

「太守様……いくらなんでも子龍ほど能天気じゃないですよ?俺達」

「そうですよ、いくら太守様といっても言って良い事と悪い事がありますからね?」

「太守様ー、酷いですー」

「……やはり余裕そうに見えるのじゃが?」


「心外ですよ、太守様。俺だってこれから始まる戦の事を考えると怖いですよ、緊張しますよ」

「そうは見えんがのぅ」

「そりゃ今は雲長と翼徳が……家族(義妹)が居ますからね。たまに死ぬ程ドキドキしたり冷や汗が出る時もあるけど自然とリラックスしますよ」

「いやどっちだよ!!」

「それに不敬かもしれませんが、お義兄様も私も翼徳も太守様の事を家族のように信頼できる人だと思っていますので」

「これでここにいるのが子龍さんじゃなく伯珪ちゃんだったらもっとリラックスできたのになー」

「いやもう絶好調だと思うのじゃが……まぁよい、嬉しい事を言ってくれるのぉ。どうじゃ?もし玄徳が伯珪の婿になってくれるなら本当の家族になれるぞ?」


「……………は?」


「……………はぁ?」


「…さて玄徳、次の戦についてじゃが———」



歴戦の将軍は退き際を見誤らなかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ドォン! ドォォン!! ドォォォン!!!



陣太鼓の音が響き渡る。


ここは虎牢関。

反仲穎連合軍(われら)にとっても、仲穎軍(てき)にとっても最重要拠点。



ドォン! ドォォン!! ドォォォン!!!



陣太鼓の音は盟主(本初)による攻撃開始、つまり戦闘開始の合図。

前回の戦の戦功によって名誉の前線配置となった玄徳軍(俺達)は虎牢関を攻略する為に進軍しようとしていた。


今回の作戦は—————正直言って特に難しいのは考えてない。


と、いうのも、俺達の目的は前回の戦でほぼ達成したからだ。

名前を売り、名声と富、兵力を得る。

それが俺達の目的だったが、連合軍は思ったより太っ腹だった。予想以上の物を貰えた。

というのも、連合軍としてはこうして活躍した者には過分な程褒賞を与える事で軍全体の士気を上げようとしているのだろう。


そしてそれは見事に成功し、実際に連合軍の士気は大いに上がっている。

軍全体の士気が上がればそれだけ前線の部隊が奮起するという事になり、前線が頑張れば頑張るほど後方に居る本隊の被害が減る。

本隊は被害を最小限に勝利を、前線部隊は働きに応じたどころかそれ以上の報酬を貰える。まさにwin-winの関係だな!



「というわけで突撃は他の部隊(やつら)に任せて俺達はのんびり行こー!」


「「イエーー!!」」


「『yeah!』じゃねぇよ!お前らも一緒に突撃しろよ!!」



開幕早々ツッコまれた。相変わらず無駄に声がデカイ。ってか無駄に発音良いなお前。



「いやだって当初の目的は充分過ぎるほど達成したし……」

「使えない無駄飯食らいの代わりに使える傭兵達を雇う事が出来ました」

「兵や装備が増えても当分苦労しないだけの資金も貰えたしねー」

「お前らに向上心ってのはないのか!?このままの勢いで敵将を討ち取っていこうぜ!!」

「討ち取るっつってもねぇ……」



そう言って俺は虎牢関を見る。

門は固く閉ざされ、開く様子はない。

そしてその門の前に敵兵の姿は……というか敵陣そのものが無い。



相手さん(敵部隊)は完全に籠城の構えですやん」

「これじゃ前回みたいに雑兵は無視して総大将だけを狙って攻撃、なんて出来そうにないですね」

「それに攻城戦って相手の3倍の兵力がいるってぐらい厳しいんでしょ?こっち(玄徳軍)は兵数少ないんだから突撃はヤだよー」

「ぐっ……それは確かにそうだが……」



それに虎牢関を守っているのは奉先だと聞いている。

中華最強、中華一の武将と名高いあの奉先だ。ぶっちゃけ戦いたくない。



「というわけで俺ら(玄徳軍)はのんびりと虎牢関を包囲しておくぜ」

「そうか……まぁ確かに妥当な判断だな」

「せやろせやろ」



「……………」



「……………」




…………………………




「……あれ?子龍帰んないの?ってかなんでここに居んの?」


「「………確かに!!」」


「今更か!?」



うわビックリしたー、なんで戦が始まったのに子龍がここ(玄徳軍)に居るのさ。お前太守様(幽州軍)のとこの所属だろうが。



「子龍、お前太守様のとこ戻んなくていいのか?」

「よくはない……んだけど太守様に玄徳達と一緒に居ろと言われてな」

「戦力外通告ですか?」

「ちゃうわ!」

「まさか……解雇……!?」

「ちゃうわ!!」



雲長と翼徳の言う事とも違うとしたら……まさか……!



「なぁ子龍……それは太守様の命令か?」

「そうだと言ったら?」

「……やられた…!!」



歯噛みする。

やはり予想した通りだったか…!


どういう事かというと、これで俺は前回に引き続き太守様から子龍の軍を借りている状態になってしまった。

もちろん今回は太守様に援軍も支援も頼んでない。が、現に子龍とその部隊がここにいる。


俺は無理矢理太守様に恩を押し付けられたのだ。借りを作らされたとも言える。

思い返せば俺は汜水関での戦いの時に太守様に『この戦いで子龍の軍を貸して(援軍を出して)欲しい』と頼んでいた。

が、広い解釈をすれば汜水関での戦いを示していた『この戦い』という言葉は、『反仲穎連合軍と仲穎軍の戦い全て』とも言えなくもない。


まさか太守様がこんな事をするとは…。

いや、これは俺が策を弄する相手になったと認められたからか?

悲しいけど嬉しいなおい。


何はともあれ太守様も虎牢関の戦いは籠城戦になると思ってたんだろうな。じゃないと貴重な戦力である子龍をこっちに寄越したりはしない。


……せっかく強い部隊を借りた……というか借りさせられたんだから有効活用してやろうか。俺も攻城戦に参加してやろうか。

一応事前に放った斥候によって守りが薄い所は知ってるし。

それに雲長と翼徳がいれば負ける事なんてないし。

ここでまた活躍すればもっと太守様に対等な、幽州軍にとって有益な同盟相手になるな。

まさかここまで見越して……あり得る……。



「なぁ雲長、翼徳。せっかく子龍が居るんだから有効活用—————」





———ドガアァァァァアンン!!!





———ッ!?



「雲長!」

「はいっ!」

「状況の確認!報告!」

「わかりました!」


「翼徳!」

「うん!」

「部隊に異常がないか確認!」

「わかった!」


「子龍!」

「お、おぅ!?」

「太守様や本隊への連絡!」

「りょ、了解…!」



雲長と翼徳、少し遅れて子龍も走り出す。


なんだ?何が起こった!?

音が……というか爆発音がしたのは前方、虎牢関の城門。

その堅牢に閉ざされていた門が———開いている。

内側(・・)から、開いている。


では今の爆音は連合軍(おれたち)が城門を破壊した音ではなく敵が勢いよく門を開けた音ってことか?

つまり敵による盛大な反撃。

くそっ!敵は城に閉じ籠るだけだとみんな思っていた!不意を突かれた!!




………なんで門を勢いよく開けたら爆発音がするんだ?




それに城門前には多くの兵達が門を押し開けようと殺到していたはず。

破城槌とかいう馬鹿でかい攻城兵器だってあった。

それらを全部押し退けて門を開け放つとなると……そりゃまぁ爆発音がしてもおかしくはない……かな。


でもどうやって……ってそんなのは後回しだ!

何はともあれ敵の方から現れてくれたんだ。籠城戦より野戦の方がずっとやりやすい。この機を逃してなるものか!



「お義兄様!」

「お義兄ちゃん!」


「帰ったか!報告を頼………帰ってくるの早いな!?」



でも手抜きはしてない事はわかってる。

信じるまでもなく理解してる。



「爆発音は敵が城門を内側からこじ開けて出た音……だそうです。非現実的ではありますが。そして出てきたのは敵の総大将、奉先です!」

「敵総大将(みずか)ら!?マジか!!」



華雄の時も思ったけど敵の総大将突撃大好き過ぎじゃないか?

そもそも総大将って後方の本陣でどっしりと構えているもんだろ。なんで前線に居んの?連合軍(おれら)の総大将の本初さんなんか全っ然動かないぞ。

確かに総大将が前線にいると士気が上がるけど、特に必要なく危険な前線に来たら華雄のようにあっさり()られて全軍総崩れ、って事になりかねないから安全な後方に居座ってるのが基本なんだぞ。


でもまぁ何はともあれ敵が、それも総大将である奉先がわざわざ堅牢な城を出て来てくれたのは非常にありがたい。

向こうから出て来てくれたのなら前回の華雄戦のように討ち倒すまでよ!



「お兄ちゃん!部隊は動揺してたけど特に変化はなかったよ!そして一応出陣準備をするようにって伝えてきたよ!」

「よし良くやった!!」



話すタイミング、内容、さらに先を読んでの行動、全て完璧。

雲長ともそうだけどこれが義兄妹の絆ってもんよ。



「では子龍が戻ってきたら俺達も攻撃を開始する!総員、戦闘準備!!」


『オーッ!!』



俺が号令をかけると出陣に向けて皆んな即座に動き出す。

さすがは長年一緒に各地を放浪した我等が部隊、そして先の戦の功績によって手に入れた傭兵軍団。この前の捨て石牢人集団とは練度が違うな。




———が、今回はその高い練度のせいで悲劇を招いてしまう。




事の発端は号令のすぐ後、出陣する為に旗印を高く掲げた時だった。


旗印を掲げて直後、門から直進し、俺達から見たら斜めに進んでいた奉先の部隊が急に方向転換してこっちに凄い勢いで突撃してきたのだ。

道中の味方部隊が攻撃を加えたが、奉先の部隊はまさに鎧袖一触といった感じで軽々とそれらを撃破。

俺達が攻撃準備どころか迎撃準備…….いや、防御の陣形が整った時にはもう目と鼻の先だった。


そして俺達は見た。

赤い馬に乗り、軍の先頭を走り、立ち塞がる兵達を薙ぎ倒し、顔を狂気に染めてこちらに突撃してくる鬼神(バケモノ)の姿を。


掲げている旗の色は真紅。

真紅の旗印。

仲穎軍で真紅の旗印を使うのはただ1人。



その鬼神(バケモノ)は、奉先だった。


何度か言ってますが、絶対にエタらせません

が、最近忙しいので更新速度は遅くなります

失って初めてわかる、学生という身分の尊さ

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