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開戦

3月の最終日ですが一応2月分です


幽州を出た後、玄徳くんと雲長ちゃんと翼徳ちゃんの3人は最近世間を騒がしているという黄巾党を討伐するために動き出しました。

幽州在住中に得た名声と富で兵を集め、黄巾党討伐の為の義勇軍を結成。

玄徳くんの指揮能力、雲長ちゃんと翼徳ちゃんの武勇のおかげで3人の部隊は100戦100勝………



———という事にはなりませんでした。



確かに玄徳くんと雲長ちゃん、翼徳ちゃん義兄妹の才覚は凄く、連戦連勝したのですが……それは7回戦って7回勝っただけでした。

しかも相手はどれも30人ぐらいの小規模だったため、国からの報奨金は少なく、兵を養うだけで精一杯の金欠状態でした。


どうしてこうなったのか—————




「———本当に、どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ…」

「どうしたんですか?お義兄様。お疲れならそこらの村から食料品を奪……提供してもらいに行きましょうか?」

「お義兄ちゃんどうしたの?誰かムカつくなら、私そいつ色々な意味で抹殺してこようか?」

「そういう静かに狂気を滲ませる感じどうにかなんない?」

「狂気?愛情の間違いじゃないですか?」

「狂気?愛情の間違いなんじゃないの?」

「……………そうだな」



前々から思っていた事だが……ここ最近になってようやく確信した。

俺の義妹達は他の人より愛情がちょっと、いやかなり重くて特徴的だということに。


向けられる感情は素直に嬉しい。凄く嬉しい。もの凄くだ。

だけどそのいき過ぎた愛情によって弊害も生まれている。

それがこの戦歴だ。

7戦7勝。

負けてはない、常勝だと言える。


だが……圧倒的に勝ちが少ない。

勝率だけならNo.1だろう。だって全勝だぞ?100%じゃないか!

だけど他の義勇軍と比べると全然勝ってない。というか戦ってない。


自慢ではないが、幽州で名を売ったとはいえ中華全土で考えると全く無名な俺としては兵達をよく統率していると思う。

……まぁそこまで兵がいないからかもしれないが。

そして雲長も翼徳に限っては幽州のみならず周辺諸国にも名を轟かせていた有名武将だ。

武勇だけなら幽州で1、2を争うと言っても過言ではない。

というか実際に幽州の太守様が御覧なされた本格的な試合で当時幽州一と言われていた子龍君をボッコボコにしてた。

さらに雲長も翼徳も義兄としての贔屓目無しに見てもとっても可愛い美少女だ。必然的に兵達の士気も凄く高くなった。


そんな俺達が7回しか戦わず、かつ少数の部隊しか相手にしなかった理由(ワケ)……。

それは、雲長と翼徳が頑なに俺の(そば)から離れようとしなかったからだ。

しかも、士気と忠誠は高けれど練度が低い俺達の軍隊は安心して、そして信用して部隊を預けられる武将が妹達2人しか存在しなかった。


そのため敵軍の包囲や部隊の展開、伏兵等の戦術が使えず、圧倒的な武力を持ちつつも一点に集める事しかできずに正面突破で勝てる相手としか戦ってこなかった。

そしてこの7戦7勝という結果に至る。


どうして彼女達はオレから離れられないのか。

それは俺が心配だから……というのも確かに理由の1つなのだが、もっと重大な理由がある。



それは……雲長も翼徳も俺の目の届く範囲にいないと途端にポンコツになるからだ。



いや、ポンコツは言い過ぎた。ドジっ娘になる。


どうも2人は俺から離れられすぎると姿や気配をほぼ無意識のうちに探してしまうようで、少し注意力が散漫になるらしい。

一瞬の隙で戦況が大きく変わる戦場においてそれはあまりにも致命的な欠点だ。

しかも2人とも幽州時代にその体質(?)のせいで何度か危険な目にあっており、俺から離れると危険だとトラウマになってしまった。


全てはこの依存にも等しい関係によるもの。

だから2人の体質が変わる事はない。

なにせ俺達は求めては求められ、依存しては依存される関係であり続けるのだから。

3人で生きていくとはそういうものだ。


しかし……だからといってこのまま貧乏集団でいるってわけにはいかない。

これでは夢を叶えられない。

どうにかしなきゃいけない。



「………かくかくしかじかなわけでどうしようか?」

「資金調達は難題ですよねぇ…。しかも最近は黄巾党の連中が滅多に現れなくなりましたし。もっと暴れてほしいものです」

「確か黄巾党党首の大賢良師って人が死んだせいで壊滅状態になったんだったっけ?……せっかくの金づるがぁ……」

「まさか本当に『かくしか』で通じるとは思わなかったけどその通り。黄巾党が壊滅したせいで俺達の収入源が無くなってしまった」



平和な世界の傭兵軍団(義勇軍)ほど無意味なものはない。

このまま続けてもメリットは無い……どころか下手すれば役人達の手によって無理矢理解散させられかねない。

しかし手っ取り早く大金を稼ぐにはこの方法が1番なのだ。

(かな)しい哉、戦争は金がかかるけど1番金を稼ぎやすいんだ。



「そこでだ……最後のチャンスで一発逆転を狙おうと思う」

「最後のチャンスで一発逆転…。……あぁ!国の要人達が集まる集会で帝の暗殺ですね!」

「いやいや!そこは帝の誘拐でしょ!暗殺の報酬金より身代金の方が高いって!」

「いや違ぇから。帝には何もしねぇから」

「そうなのですか!?」

「いい標的(ターゲット)だと思ったのに……」



本気で驚くな、本気で悲しむな!

さすがにそんな難易度高いし失敗したら即処刑の事なんてしねぇよ!

俺がやろうとしてるのはもっと安全で……もっと危険な事だ。



「なぁ雲長、翼徳。仲穎って奴知ってるか?」

「仲穎さん?確か……今1番力を持っているといわれている最有力諸侯ですよね?」

「その権勢は帝をも(しの)ぐとかなんとかかんとか……」

「そうだ。なんでもそいつが調子に乗って朝廷にも手を出したみたいでな…。その専横ぶりに嫌気をさした孟徳が河北の本初を盟主に反仲穎連合軍を結成しているらしい」

「孟徳さんって……政府の丞相を務めた人ですよね!?」

「しかも本初さんっていったら三公を輩出した名門中の名門じゃん!………ってまさか!?」



さすがにここまで話せば2人とも話の意味が、俺が何を言おうとしたのかがわかったみたいだ。

あぁ、そうだ。2人の思っている通りだ。俺達は—————




「俺達は—————反仲穎連合軍に参加する!そしてそこで成果を挙げて一気に成り上がる!!」




「「———ッ!!」」



「その為にもまずは兵を集める!残っている資金を全てつぎ込んででも兵を集めろ!今の兵数じゃ参陣する事さえ出来ない。見掛け倒しでもいいからまずは兵数を集めて前線に出れるぐらいの勢力を作り上げる!!」


「はい!お義兄様!!」


「それと雲長と翼徳を中心に数十人程度の精鋭部隊を作る!この精鋭部隊に俺達の命運を懸けるから鍛錬を怠るな!!」


「わかったよ!お義兄ちゃん!!」



「さぁ———戦争(成り上がり)を始めよう!!」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「………なんか、場違い感ハンパないな……」

「そうですね……武器や防具や兵数が明らかに違いますもん」

「うぅ……みんなの視線が痛い……」



ここは反仲穎連合軍の各代表が集まる天幕。

そこに玄徳、雲長、翼徳の3人はいた———のだが。



「孟徳や本初が中心に居るからなんとなく予測は出来てたが……まさかここまでとはなぁ…」

「凄いですよね…。国の有力諸侯が中華全土から全員集合って感じです……」

「本初さんの隣にいるのは……公路さん!?うわ、江東の文台さんまでいる……」



———明らかな場違い感に困惑していた。


無理もなかろう。幽州で名を売っただけで全国的には無名の玄徳くんと全国的に名を知られている有力諸侯達。

武器、防具、兵数の他に、家柄や役職等が明らかに違っていた。



「……み、見方を変えれば簡単に最前線に行けるかもな!!………捨て駒として」

「き、気を確かに持ってくださいお義兄様!」

「そうだよ!理由はどうあれ最初の目的が叶うんだから!」


「………ん…?そこにいるのは……玄徳!?玄徳ではないかァ!!」


「ん?」

「は?」

「へ?」



俺の名前を呼んでうるさく騒いでいるイケメンがこっちに来る。

……ん?っていうかコイツは……。



「その無駄にデカイ声は……子龍!?」

「無駄とか言うなァ!……ところで、ここにいるという事は玄徳もこの連合に参加するのか?」

「あぁそうだ。……逆に、子龍がここにいるって事はまさか……」



無駄にデカイ声。男のくせに無駄に長い髪。性格は残念なのに無駄にイケメン。

コイツは幽州に居た時に仲良くなった奴で……雲長と翼徳が来るまで幽州一と持て囃されていた優秀な武将だ。

そして……幽州の武将である子龍がいる事はつまり……。



「当然、儂もこの連合に参加している。……上手くやっているようだな、玄徳」

「太守様!!」



予想した通り、そこには幽州の太守様がおられた。

つい今までのように跪いて挨拶してしまう。



「玄徳、お主はもう儂の家臣ではないのだからそう畏まらなくてもよいぞ?」

「ハッ!すいません、つい癖で……」

「お義兄様、どうしたのですか?———って太守様!」

「お義兄ちゃん、どうしたの?———って太守様!」

「おぉ、雲長に翼徳。お主らも息災であったか。………ってだからそんなに畏まらなくともよい。やっぱり血は繋がってなくともお主らは兄妹じゃのぅ」



俺と同じように太守様を見るなり跪く義妹達。

多大な御恩もあるし長年の習慣はなかなか治らないものなんですよ…。



「あれ?太守様、伯珪ちゃんはいないんですか?」

「伯珪は幽州に置いてきた。あやつには北方の異民族への対処を命じておる。お主らが来るとわかっていれば呼んだのじゃが……」

「いえいえ!あの凶賊が相手じゃ仕方ないですって」



北方の異民族……確か匈奴とかいったか?アイツらとは幽州に居た時は俺達も戦ったなぁ…。

あの蛮族共地味に強いからキライだった。

まぁおかげでたくさん実戦を経験出来たけど。

あの時培った度胸とノウハウ、今こそ発揮する時ぞ!!



「太守様………相談……いえ、提案があります」

「……ほぅ?言うてみよ」



大きく息を吸い、吐く。

深呼吸、深呼吸……。

心を落ち着かせて……言う。



「俺達の部隊と共同戦線を組みませんか?」


「………詳しく聞かせるがよい」



太守様の威厳というかオーラみたいなものが一気に強くなる。

これが北方の異民族と長年戦い続けている幽州を治める太守様の底力か……!伯珪ちゃんといる時の好々爺と同一人物だとはとても思えない……!!


思わず震えそうになる足を必死で堪える。

ここで弱気になっては絶対にダメだ。

俺には義兄(あに)として、指揮官として!義妹達や自分の軍隊を守り通さなければならないのだから。

そして指揮官として部下の命を預かる以上、最善の戦果を挙げられるように準備しなければならない。

だから何がなんでも太守様率いる幽州軍の協力を得る!!



「おい玄徳ゥ……お前自分が何言ってるのかわかってんのか!?下に付くならともかく共同戦線だと!?俺達(幽州軍)お前達(玄徳軍)の軍の規模の差を考えてから言いやがれ!!」

「よせ子龍、よい」

「ですが太守様……!!」

「よいと言うておる。……玄徳、お主らの軍と共同戦線を組むにあたっての儂らのメリットは何じゃ?」



子龍は俺をバカにしたつもりはないだろう。

だって子龍は俺の提案をバカな冗談だと思わなかったのだから。

そして俺の余りにも身の程をわきまえない提案に対して怒った。

それが普通の反応だ。


それなのに、相手が格下だからといって侮る事はせず、そして理由も聞かずに自軍のメリットを最優先に聞いてくる。

さすがですね、太守様。

さすがは俺の師だ。


そんな太守様だからこそこんな突拍子もない提案の話を最後まで聞いてくれると信じてましたよ。




———さぁ、交渉開始だ。




「俺達と組む事で太守様が得られるメリットは————— そうですね、手始めに次の戦の勝利の立役者としての名誉と戦功……でしょうか」


「……ほぅ?大きくでたな、玄徳よ」

「ご不満ですか?」

「不満じゃ。この連合軍は儂を含め多くの有力諸侯で構成されておる。余程のことがない限り負けはないじゃろうよ。そんな確実な勝ち戦での勝利の立役者などそこまで興味もない」

「そうですね、普通の戦なら間違いなく勝つでしょうね。でも、次の戦はそんな生温い戦じゃないですよね?だって………汜水関を攻めるんですから」

「………知っていたのか」

「このぐらい知っておかないと共同戦線を組むには不十分でしょう?」



やっぱりな。太守様みたいな有力諸侯だけであらかじめ攻める場所を決めてたか。

つまりこれから始まる各指揮官を集めた軍議はただの出来レースってか。

まぁ俺みたいな弱小部隊のリーダーの言葉なんざ最初から聞いてもらえないとは思ってたけどまさか発言権すら無いとはな。


そんな俺がどうして有力諸侯だけで行われた事前軍議の結果を知っていたかというと、膨大な諜報活動の結果だ。


確かに俺達の部隊は最低限の兵数を集めた。

しかしそれは本当に最前線に行ける最低限の兵数を急遽集めただけであり、圧倒的な指導者不足もあって部隊の練度はかなり低かった。

今から必死で鍛錬しても部隊の総合力は並以下になるだろう。というかきっとなる。


だから俺は兵達に武術の訓練ではなく諜報活動の訓練をさせた。

それでも余程の才能がない限りこんな短時間では一流の諜報員に誰もなれないだろう。

だから数で押し切った。

精鋭部隊にはキチンとした鍛錬をさせ、数合わせで入隊させた新兵共は最低限の指導だけした。人手不足な部隊で新兵に構える時間はないからな。

そして残りの兵達に諜報活動を教えた。元々確実に勝てる試合だけをする為に情報収集ばかりしてたからな、みんな慣れたものよ。

それに何故か雲長も翼徳も盗み聞きの仕方とか気配を消して対象に近づく方法とか背後に立つ方法とかとても詳しかったおかげで短時間でもそこそこ良い感じになった。いや本当なんであんなに詳しかったんだろうか怖い。



「ふむ……わかった。では作戦はどうする?次の戦場が汜水関だとわかった上で勝てると言ったな、必勝の策があるんだろう?」

「えぇ、もちろんあります。ですがさすがにここで話す事はできませんので天幕に移動してからにしますね」

「うむ、よかろう」



よっし!第一関門クリア!!

あとはなんとかして交渉を続けて……なんとしてでも協力してもらえるようにする!

なにせこの戦いには俺達の命運がかかっていると言っても過言ではない。


さぁ、勝負所だ……気合い入れて行くぞ!!






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「お義兄様」


「……………」


「お義兄ちゃん」


「…………………」


「おい玄徳ゥ!!」


「———うおっ!?子龍!?なんだ!?」


「なんだも何もねぇだろうが。もうすぐ出陣だぞ」



あぁそうか……もう出陣か……。

太守様との交渉に疲れ過ぎてちょっと意識が飛びかけてた。

これから人生をかけた戦だっつうのに……。

必ず勝つ為に部下から送られてくる情報を全力で整理しなきゃいけないってのに…。

一旦落ち着こう、俺。そしたらこれからまず何をすれば良いのかかが判明するはずだ。


出陣前のこの時、俺がするべき事は—————




「お義兄様に……無視された……!?お義兄様が……無視……私達を……無視……」


「しかも子龍さんの声にだけ反応した……。私達が呼びかけてもスルーされたのに……」




———弁明……もしくは謝罪かな。それも座って頭を土につける程下げるタイプの。




「違う!?その……違うんだ。これは2人の声を聞いて安らいでいたのに子龍の声があまりにも耳障りだったから反応してしまっただけなんだ!!」

「そうですか……それなら……」

「しかたない……かな」

「お前ら俺にケンカ売ってんのか!?」



やるならやってやんぞコラ。

試合でも鍛錬でもないただの私闘で雲長と翼徳にケガさせようってんならどんな卑怯な事をしてでもフルボッコにしてやる。

正面から正々堂々と戦うと思うなよ!だっていくら雲長と翼徳より弱いといっても子龍は俺より強いし!

つまり力関係(言葉通り)は雲長≧翼徳>子龍>玄徳。

……あれ?義理とはいえ兄の立場が……。



「そんな事よりなんで子龍がここにいるんだ?太守様の護衛じゃなかったか?」

「そんな事ってお前……まぁいいか。俺はお前らを手伝えって命じられてるんだよ。作戦が成功したらその分早く決着がつくしその方が兵の損耗も抑えられるしな」

「なるほど、なら思う存分こき使うとしよう」

「とりあえず1番危険な場所に放り込みましょうか。そしたら私達の損耗が抑えられます」

「それより囮に使った方が作戦の成功率が上がると思わない?」


「「それだ(です)!!」」


「お前らやっぱ俺にケンカ売ってるよなぁ!?」




………そんなこんなで開戦準備が整い、いよいよ反仲穎連合軍の最初の戦が始まった。


コロナウイルスの影響で卒業式も卒業記念パーティーも消えた……

リア充よりもコロナ爆発しろ!

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