表彰式
お願いマッスル、めっちゃモテたい
前話の追加改稿を21日に行いました
『それでは発表します。2年生の総合優勝は……D組です!おめでとうございます!!』
全ての競技が終わった閉会式にて、D組を中心に歓声と拍手が巻き起こる。
そして俺は……拍手をしながらそれを眺めていた。
優勝したのは洋の居るD組。俺とキクゴローの居るB組は2位だった。
点差は僅差。
それは、もし1つでもB組がD組に勝っている競技があれば覆せる点差だった。
「……今回は運が悪かったな。だから銀河、そう落ち込むなって」
「……あぁ、わかってるよキクゴロー」
最後の競技、クラス対抗リレーにてB組は………俺は、洋に負けた。
しかもその負け方が……なんというか……その………勝ったのに負けたのだ。
ちょっと何言ってるかわからないと思うが、実際に勝ったのに負けたのだ。それしか言いようがない。
クラス対抗リレー終盤のあの時、ちょっとした縮地法(ただし外から見たらただのヘッドスライディングだったらしい)を使って急激に加速し、俺はゴール直前で洋を抜いて1位になり、そしてそのままゴールした。
……はずだった。
いや、はずも何も本当に俺が1位でゴールした。
しかし、縮地法を強制的に発動する為に前傾姿勢になりすぎたせいで俺はゴールテープの下を通ってしまった。
そしてその直後に洋がゴールテープをぶち破ってダイナミックにゴール。
俺と洋の差がほぼなかった事もあり、審判の判断によりD組の、洋の勝利となった。
ただの高校生の体育祭にビデオ判定なんてない。
だから審判に抗議する事なんてできないし、そもそも俺もゴールした瞬間は転倒直前で地面しか見えてなかったため抗議の仕様がない。
俺自身も勝ったのか負けたのかよくわからないのだ。
ただ、洋いわく銀河の方が先にゴールしていたとのこと。
勝負事に誠実な洋は審判に抗議したが、証明できるものがない。
その結果洋の、D組の勝利となった。
そして今に至る。
俺自身勝敗の真実がわからないのだから理不尽だとは思わない。
そのかわりとてつもなく悔しいが……俺は全身全霊で頑張った。
そして負けた。
全力を出し切って負けたのだ。だから悔しいがこの敗北は理解できる。納得できる。
納得……せざるを得ない。
たとえそれが無理でも、無理に感情を押し殺して。
「銀河……」
だからそんな顔すんなよキクゴロー、俺は洋の勝利を祝福できない程残念ではない。
ただ……今日は少しゆっくりさせてくれ。
ただの幼馴染であるお前に察せられるくらい酷い顔してるなら、幼馴染兼妹兼恋人の双子の姉妹の前には出られないからさ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕方、体育祭の閉会式が終わってから少し経ってから俺は帰路についた。
その頃には保護者等応援客は誰も残ってなかった。もちろん、蓮名も想愛も。
その事を確認して少し安堵し……ほんの少しだけ残念に思いながらバスに乗る。
こんな時、学園から家が遠くて助かる。
だって落ち着く時間があるから。
バスに乗って一息ついた時、メールが来た。
差出人は……蓮名か。
なになに……?
ふむ……。
うむ……。
なるほど。
つまり、だ。
要約すると
『今日のお兄ちゃんとっっっっっても!カッコよかったよ!!素敵!抱いて!!』
だった。
それが他の人からすればビックリするぐらいの長文で書かれてた。
しかし俺にはわかる。
俺だけにはわかる。
今回の蓮名からのメールが……かなり短い事に!!
なぜに?
なにゆえ?
何故?
……って思ったけどよく見たら最後に『続きは部屋でね♡』って書いてあった。
そしてこの後蓮名と想愛の部屋に来てほしいとも。
これは蓮名からのメールだが、きっと想愛も同じ気持ちなのだろう。
ただ、俺に一気に長文メールを送るのは迷惑だと考えたから蓮名が代表して送ったんだろうか。
別に長文メールなんて慣れてるのにな。
ということは……俺を気遣ったから、かな。
親愛なる妹達になんて事をさせてるんだか、俺は。
「あ〜〜〜〜〜…!!ちくしょう……!!」
悔しいけど……超嬉しいなぁ……!!
我ながらなんてチョロいんだろうなぁ俺は。たった1通のメールでさっきまでの鬱な空気が消え去ってしまった。
そして代わりに訪れたのは幸福感と清涼感、そして清涼なる青春に加えられている甘い恋の香り。
「あ〜〜〜も〜〜〜!!このまま蓮名と想愛の部屋に突入してやろうか……!!」
今日は新斎義父さんも紅葉義母さんも仕事で出かけてるからそれもいいかもしれない。
けどこの汗まみれ砂まみれの状態で乙女の部屋に入る事は許されない。というか俺が許さない。
結局クラス対抗リレーの最後で盛大に転倒したから結構汚れてんだよなぁ。
ま、奇跡的にケガしなかっただけ良しとしようじゃないか。
だから……いったん風呂入ってから行こうかな。
蓮名と想愛に行くのが遅れる事をメールで伝え、バスを降りると家まで全力でダッシュする。
どうせこの後すぐに風呂入るんだ。だから汗をいくらかこうが無問題。
待ってろ妹達、今行くよ桃源郷。
俺の体育祭最後の競技はバス停から家までの全力疾走タイムアタックとなったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「おかえりなさいませ♪ご主人様♡」」
「………ただいま?」
気がつけば俺は超ミニスカ胸元極開きエロメイド服を着た美少女双子に『おかえりなさい』されていた。
しかも汗まみれ砂まみれの体操服のままで。
盛大に転倒した時の汚れを隠す為にジャージを羽織ってたけど剥ぎ取られた。
勢い余って下まで剥ぎ取られかけたけどそれはなんとか死守。
……どうしてこうなった……。
俺は確か家まで全力ダッシュしていたはずだ。
そして天陵家の隣にある篠宮家の前をを通り抜けしようとしたところで—————2人に家に連れ込まれた。
それもめちゃくちゃスマートに。
門の裏に隠れていたのだろうか、篠宮家の前を走り抜けようとして門の前を通った瞬間に蓮名が俺の腕を絡め取り、俺の腕を掴んだまま蓮名は自身を軸にして回った。
それにより走っていた勢いはそのまま遠心力へと変わり、蓮名が家に向けて手を離すと俺は篠宮家へ向かって投げ飛ばされた。
そして投げ飛ばされた俺をタイミングよく抱きとめる想愛。
しかも結構な勢いで来た俺に対し、想愛は抱きとめた瞬間に自身を軸にして軽く回る事により衝撃を吸収していた。
よく映画とかで観るこちらに駆け寄って来た彼女を受け止めつつもクルクル回るアレだ。アレを現実で片方の意思に関係なしにぶっつけ本番でやってのけた。スゲェ。
ちなみに蓮名のは完璧に合気道だった。スゲェ。
もし少しでも蓮名が俺を離すタイミングが、そして想愛が抱きとめるタイミングがずれていたら俺はまたもや転倒していたかドアに激突していたか想愛に強烈なタックルをくらわせていただろう。
2人は俺の嫌がる事は絶対にしない。
だから2人が俺を傷つける事はありえない。つまり失敗は許されない。
それをリハーサルなしのぶっつけ本番でやってのけるとは……さすが双子、息ぴったりだ。
そして俺は想愛に抱き抱えられたまま強制的に連行されて………今に至る。
ちなみに2人は途中で着替えたわけじゃなくて最初からこの極エロメイド服だった。
つまり蓮名に投げ飛ばされて想愛に勢いよく抱き抱えられた時、俺は大きく開いて地肌が見える想愛の山脈に思いきり顔を埋めさせていた。……極上の感触だった。二頭とも良いね!チョモランマ!!
なんて思っているうちにいつの間にか俺は蓮名と想愛の部屋に連れてかれてた。
そして美少女双子メイドによる突然の『おかえりなさいませ』が行われた。なんでやねん。
……いや、ここで『なんで』なんて言うのは無粋だな。
蓮名と想愛がなぜこのような行動をしたのかはとっくにわかっている。
そんなもの、俺を慰めるために決まってる。
自意識過剰?いや違う。
だってこれは聞かずともわかる事実なのだから。
むしろここで疑うのは俺をヤむ程までに愛してくれてる2人への侮辱だ。
そして蓮名と想愛と出会ってからの15年間、ずっと2人を見続けてきた俺への侮辱だ。
話を戻すが、俺は今日の体育祭で無様を晒してしまった。
長縄跳びでは1位を取れたものの、次の騎馬戦では2位。
最後のあの絶体絶命の場面からよく奮戦したものだと自負しているが、それでも結果は2位だ。負けだ。
そして最後の競技であるクラス対抗リレーでも2位。
これもかなり頑張ったと思うが、客席から見れば俺は多くのリードをとってたにもかかわらず洋に劇的な勝利を与え、ゴール直前で盛大に転倒したB組の戦犯だろう。
もちろん蓮名と想愛がそんな事を思っているわけがない事はわかっているが、自分で自分を許せない。
蓮名と想愛の為だけではなく、純粋に1位を取りたかった。
だから……こんなにも悔しいのだ。
そんな俺の心境に気付いているからこそ、2人は今こうして慰めてくれている。
それは嬉しい。普通に嬉しい。
頭を撫でられながら『よく頑張ったね』なんて言われたら大人気なく2人の目の前で咽び泣く自信がある。
でも………
「なぁ蓮名、想愛。俺今超汗臭いだろうし汚れてるから着替えて良い?」
「「ダメ(です)♪」」
なぜだ。
「「えいっ♪」」
ガチャン
………なぜだ。
なぜか俺は双子によって両手を手鎖で繋がれていた。なぜだ。
「……何故に!?」
「身動き取れないようにする為ですよ?」
「さも当然のように!?」
「というわけで目隠しするよー」
「なにがどういうわけで!?」
まぁ確かに手鎖された上に目隠しされたら危なくて動けないけどさ!
てか今日の俺『!』使いすぎじゃない!?どうでもいいけど!!
そして俺の目の前で蓮名は自分の服に手を入れてゴソゴソし始め—————
「……よいしょっと♡」
———服を着たままの状態で器用にブラジャーだけを脱いだ。
つまり今現在蓮名はノーブラで……あのめちゃくちゃ薄い生地の胸元極開きエロメイド服をほんの少し引っ張れば蓮名の生ポロリが拝めちゃえるってこと?
……あっ、服の生地が薄いからなのか、それとも蓮名が興奮しているからなのか……蓮名の胸の突起が……なんていうか……その……下品なんですが……フフ……。
………って何冷静にガン見してんだ俺は!
むしろ俺がチカパシしちゃってましてるよ!!
何言ってんだ俺やっぱ少し冷静になれ!
落ち着いて、まずは状況判断。
想愛は羨ましそうに悔しそうにこの光景を見ている。
そして目の前には蓮名の脱ぎたてホヤホヤのブラジャーの裏地がどんどん迫ってきて……………ついに衝突。
そのままホックを頭の後ろで留められ、この世で最も幸せな目隠しをされた。
少し温かい……そして至近距離で蓮名の超良い香りが……!!
目を開ければ視界全てが眼福。ここが理想郷って奴ですか?
ただし一つだけ残念なのは目から至近距離すぎて暗くてよく見えない事よ。
俺の目には早急に暗闇に慣れる事を要求します。
「……じゃなくてェ!!何してんの!?何しちゃってくれてんの!?」
「それじゃあお兄ちゃん、私達は少しの間だけ席を外すから———」
「それまで大人しく部屋で待っていてくださいね、お兄様♪」
「あ、ハイ」
そう言って部屋を出る蓮名と想愛。
見えてないけど遠ざかっていくのは気配でわかる。
追いかけたいけど手鎖と目隠しのせいで2人を追いかけられない………
………こともないな。
だって蓮名と想愛の部屋のどんな所にどんな物が置かれてるのかは完全に把握してるし。
何回も来てるし何回も監禁されかけたから自分の部屋のように、というか自分の部屋以上に把握してる。
タンスの何段目に下着が収納されているのかなんて忘れられそうにない。
まぁそれでも万が一の事もあるし、もしそのせいで俺がケガしたら蓮名と想愛が悲しむからやっぱり動けない………
………こともないな。
だって全力で頭を振ればこのアダルト目隠しずり落ちるし。
胸に着けるのを頭に付けてるんだからサイズが違いすぎるのは当然だけど……蓮名ってやっぱり胸大きいよなぁ……。
巨乳かどうかはわからないけど、蓮名も想愛も中学生にしては随分大きい方だと思う。
蓮名よりほんの僅かに小さい想愛でも少なくとも鈴子ちゃんよりは確実に大きいし。
でもその鈴子ちゃんだって貧乳ってわけじゃない。
篠宮の一族スゴイ。美乳しか生まれない。
というか話は戻るけどこの目隠し(R18)、頭を振る以前に普通に手で取れるわ。
手鎖されてるけど別に足元で固定されてるわけでもないから手が動かしにくいってだけで普通に外せる。
……と、なればどうしようか。
もちろん即座に外すのが一般的な正解だ。
しかしなぁ……大人しく部屋で待ってろって言われたしなぁ……。
わざわざ目隠し(SSR)をしたのにも何か理由があるに違いない。
だから外さずにこのままで待っていよう。
俺は一般人じゃなくて変人だった。
そして変態だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「おまたせしましたー♪」」
「……ぅお!?………おぅ」
想愛がなぜ悔しそうに目隠し(殿堂入り)をする蓮名を見てたのか、それは目隠し(Lv.MAX)の提供を蓮名に譲ったからだ。ではなぜ譲ったのか?それは俺を篠宮家に連れ込む時に想愛が俺を抱きとめ、抱きしめたいから。だから姉妹間で公平を期す為に蓮名に譲ったのだろうな。たぶん。
……なんて現実逃避をしていると蓮名と想愛が帰ってきた。
見えてないけど声と気配でわかる。
……あぁそうだよ。取ってないよ。外してないよ。それが何か?
俺は2人の指示に素直に従っただけだしぃ〜?俺は悪くないしぃ〜?
「……外しますよ」
「あっ……」
少し怒り気味の声の想愛に強引に目隠し(神具)が外される。
……別に残念がってないし。
そうして突如広がる視界と目を突き刺す光に困惑しながら目を開けるとそこには—————
「体操服………にブルマ!?」
「似合ってるかな?」
「似合ってますよね?」
———そこには先程の極エロメイド服とは違い、上に学校指定の半袖体操服。そして下には紺色ブルマを穿いた蓮名と想愛がいた。
なにこれエッッッッッrrrロ!!!
ちなみに当たり前だが2人が穿いてるブルマは学校指定ではない。あるわけない。どころか街の服屋にも売ってない。
そっち系の専門店か年齢認証が必要なネット通販でしか売ってない。
ではなぜ未成年の中学生である蓮名と想愛がこんなもの持っているのか?
それは……18歳未満の男子がネット上で一番つく嘘をこの双子もついてるから……かな。
……まぁそんな事はどうでもいいんだよ。
問題なのはなぜ2人がそんなエr……もといフェティシズム溢れる大変素晴らしい格好しているかについて、だ。
まぁ好きか嫌いかで言えば答えはmarvelousなんだけどさ。
といっても理由なんてわかってる。
今日が体育祭だったからだ。
忘れかけてたけど俺も今体操服だった。あ、もちろん学校指定の普通のやつね。
俺は今日の体育祭でD組に、洋に完敗した。
だから蓮名と想愛は俺を慰める為に、体育祭に良い思い出を作ってもらう為にこんな格好になったのだろう。
正直2人のメイド服とブルマが見れて、想愛の温もり(物理)と蓮名の温もり(間接)を感じられた今この時点で既に十分すぎるほど最高の思い出を作らせてもらっているのだが。
もはやこれ以上は幸せ指数のオーバーランだ。オキシトシンが溢れすぎて爆発しそう。
そして3人だけの世界になっちまえ。それでも私は一向にかまわんッッ!!
「それじゃあお兄ちゃん」
「それではお兄様」
「うん」
「「これより真☆閉会式を行います!!」」
「………うん?」
真……閉会式……?
「……ぇ……は……んん?閉会式?なんで?いま?ここで…?」
「お兄ちゃん、今日は何があったっけ?」
「体育祭……だけど」
「そして私達が今来ているのは?」
「ブルm……体操服」
「「よって今から真☆閉会式を行います!!」」
「なして!?」
まったくもって意味不明………いやでも一応スジは通って………いや、強引すぎじゃね?
そもそもなんなんだ『真☆』って。
真も何も体育祭の閉会式はとっくに終わったしその☆マークは必要か?
「お、おい……」
「お兄ちゃん、閉会式の時は休めの姿勢か体育座りだよ?」
「先生の言うことはちゃんと聞いてください」
先生なのか……。
妹先生か………。
悪くないな!!
「「と、いうわけで改めまして真☆閉会式を行います!!」」
あぁ、強引に始められてしまった。
……ま、別にいいけどさ。
俺は今の一瞬最高の笑顔をしてたと思うし、了承したと勘違いされても仕方ない。
というかこの2人なら勘違いしてなくても強引に始めるだろうし。
「えー、それでは真☆閉会式の司会を蓮名です」
「同じく司会を務めさせていただきます想愛です」
……司会?閉会式だよね?コレ。
「「それでは優勝を発表します!!」」
いきなり!?
「優勝は……」
「優勝は……」
『天陵銀河さんです!!!』
「うん知ってた!!」
真☆閉会式を開いてまであの蓮名と想愛が俺を1位にしないわけがないからね!!
少し考えれば……というか考えなくてもわかる。
むしろわからなければ兄失格だ。
しかし……わからない事もある。
それは、真☆閉会式を開いてまであの蓮名と想愛が俺を優勝者だと言ったこと。
2人が俺の名を言うのはわかってた。が、なぜ言ったのかがわからない。
なぜなら俺は同情されるのが嫌いだからだ。
いくら蓮名と想愛が俺を優勝だと言っても、実際の結果は2位だ。現実は準優勝だ。
それでもカッコいいと言われれば素直に嬉しい。しかし、2位なのに1位だと、優勝だと言われてもただ虚しいだけだ。
まったくもって……嬉しくない。
むしろ少し不快にすら感じる。
俺の嫌がる事はしない主義の蓮名と想愛がどうしてこんなことを言ったのか、それがわからなかった。
「蓮名、想愛……どうして俺が優勝なんだ?」
俺は……違うのに。
本当は、違うのに。
優勝なんか、できていないのに。
「ぶっちぎりの優勝だよ?」
「圧倒的な優勝ですよ?」
「だってお兄ちゃんは———」
「だってお兄様は———」
『私達が見ていた体育祭で、たった1人の競技者だったもん!!』
「…………………」
「……………は…?」
ど……どういう意味?
「だーかーらー!私達が見てた体育祭では競技者はお兄ちゃんだけだったの!」
「だって私達は……お兄様しか見ていませんでしたから」
「—————ッ!!」
「よってお兄ちゃんが今年も優勝!」
「お兄様はこれまでも、今回も、そしてこれからもずっと私達の1位なんです」
は……はは………。
なるほど、そうか……。
それは確かに……俺が1位だな、優勝だな……!!
蓮名と想愛の眼には俺しか写っていなかった。
だから俺の本当の順位が1位でも2位でも最下位でも……2人にとっては競技者が俺しかいないから、たとえどんな結果であっても俺が1位なんだ。
それなのに俺は優勝がどうだの1位がどうだのと……肩書きだけを、外聞だけを気にしてしまった。
蓮名と想愛は俺の1番になるために日々切磋琢磨している。
が、俺は蓮名と想愛にとって『唯一』でなくてはならない。
蓮名にとって、想愛にとって、たった1人の男でなければならない。
そのせいだろうか。だからだろうか。
俺が異常なまでに1位にこだわってしまったのは。
俺には切磋琢磨する相手なんていらない。
だからライバルである烈とは心から仲良くなることはできなかった。そのせいで大喧嘩もしてしまった。
俺は、常に圧倒的な1番でなくてはならないと……そう思っていたんだ。
最初から蓮名と想愛の眼には烈も優也も洋も写っておらず……俺しか写っていなかったというのに。
まったく、俺はいったいどれだけバカなんだ。
でも……蓮名と想愛に相応しい、覚悟と愛情を持った妹バカでありたいと、そんな妹バカになってやると俺は決意したのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それでは……表彰式です!」
「お兄様、私達の前に来てください」
「おぅ、了解」
変わらぬ永久の妹愛を決意したところで2人に呼ばれた。
表彰式まであるのか……無駄にちゃんとしてるな、優勝メダルとかあるんだろうか。
とりあえず言われた通り蓮名と想愛の前まで行ってみる。
「お兄ちゃん……少しかがんで?」
「あと目をつぶってください」
メダルでもかけてくれるのだろうか。
懐かしいなぁ……。昔も運動会の日にこうやってたくさんの2人の手作りメダルを貰ったなぁ……。
今でも全部ちゃんと保存してある。
家に帰ったら久しぶりに見てみるか、確か引き出しの奥にあったはず……。
「お兄ちゃん……」
「お兄様……」
『♡』
「—————ッッ!?」
両頰にとても柔らかな感触。
小さな、だけど幸せな音と共に俺の両頰は多少の湿り気と多量の熱が与えられた。
これって……つまり………キス———ッ!?
急いで目を開けるともう2人の顔は俺から離れていた。
「———ぇ——ぁ——ッ!?」
「私達からの優勝のご褒美、どうだった?」
「ちゃんと受け取って貰えましたし、それでは———」
『き、着替えてきますッ!!』
少しかがんだ体勢のまま動けずにいる俺を置いて、蓮名と想愛は部屋から飛び出していった。
それを俺は、何も言わずに何も言えずにただただ見送った。
これが………
これが………大人の……表彰式………ッッ!!
蓮名と想愛はもしもの時の自衛の為に合気道の技を修得しています




