決着
祝・総合評価2200突破!
ミリオン6th福岡公演最高だった!!
前話の追加改稿を18日に行いました
3番手の選手からバトンを受け取り、俺は全力で走り出す。
力の出し惜しみなんてしない。
体力の温存なんて考えない。
まずはこのリードを全力で広げ、後続選手達のやる気を失くす戦略だ。
……まぁ1位との差が開くごとにやる気を失くすどころか気合が入るとかいうバケモノも世の中にはいるんだけどね。
「よっしゃ行くぞオラァァァアアア!!!」
「—————ッ!!?」
———ついに来たか、洋……!!
後ろを振り返る余裕なんてないが雄叫びと気迫でわかる。
だがしかし、俺はもう最初のコーナーを曲がり終えている。
そこから直線が続くからそこでさらに差を広げるしかない!
友達だからこそ少しも油断しない。
アイツならこんな差なんてすぐに詰めてくるに違いないと信じている……いや、知っているからだ。
それに……実は俺はもうかなり疲れてきている!!
くそう!帰宅部の弊害がこんなところで発揮されるなんて!
筋トレはしてるけど運動はしてないから体力がつきにくいんだよ!
あぁ……1位でよかった。
追われる側でよかった……。
どうやら俺は人を追いかけるよりも追われて逃げる方が力を発揮するタイプらしい。
なんか少し情けない感じがするが、そんな事今は知ったこっちゃない。
持てる力は全て使い果たさないとあのバケモノには勝てないからな。
でももう直線も終わって最後のコーナーに突入する。
そのかわり体力ももうほとんど残ってないが……。
……このまま逃げ切る!!
逃げ切って!
1位になって!!
俺が優勝するんだぁぁぁああ!!!
そして俺は最終コーナーに突入し—————
「させるカァァァァァアアア!!!」
「な———ッ!?」
———真後ろから洋の声を聞いた。
バカな!?本当にあの順位からここまで追いついて来たのか!?
信じてるとは言ったが信じたくはなかった!!
「ウ…ォオオオオォァァアア!!!」
「クハハッ!!逃がさん!!!」
全力で逃げる。
全速で走る。
全神経を集中して足を動かす。
抜かされる?
2位になる?
……それでもいいかな。
いやダメだ。
俺に妥協なんて許されない。
そもそも俺が許さない。
蓮名を見習え。
想愛を見習え。
あの双子は俺の1番になるために自分自身という最大の敵と常日頃競い合ってるんだぞ。
で、あるならばその双子の兄であり恋人でもある俺がリレーとはいえ洋に1番を譲ってなるものか!
格上の相手ぐらい競り勝ってやるよ!
背後から猛スピードで追いつかれかけてるものの、もう最終コーナーは曲がりきった!!
あとはこのゴールまでの直線を全力で逃げ切ってみせる!!!
「ア……ァアアアアアァアアア!!!」
「逃がすかァァァァァ!!!」
頑張って
全力で頑張って
死ぬ気で頑張って
でも
それでも
気合いだけじゃどうにもならないのも人生っていうものだ。
限界を超えて足を動かし続けたせいだろうか。
疲労が溜まり過ぎてたからだろうか。
それともプレッシャーに耐えられなかったのか。
ゴールの直前で俺は躓いてしまった。
「—————ぁ」
「———ッ!?勝った!!」
身体が前に倒れていく。
体勢を立て直そうとするが間に合わない。
足がもう……動かない。
———あぁ、これは転けるな。
突然の事に驚きすぎて逆に冷静になった頭がそう結論付ける。
倒れていく瞬間、なにもかもがスローモーションに見えた。
あ、俺の横を洋が通り抜けていく……。
……追い抜かれた……。
2位になってしまった……。
もう……無理だ……。
これはもう……絶対に勝てない……。
倒れていく……。
身体が……そして信念やプライドといった大切なものも倒れていく……。
遠くから驚いた声が聞こえる。
たぶん観客達が俺のが倒れそうな事に気付いたんだろう。
でももういいんだ。
もう……どうでもいい。
俺はここで無様に転ける。
噛ませ役のように。
引き立て役のように。
情けなく、ゴールの直前で、まるで洋に1位を譲るかのように転けるんだ。
もう、何も聞きたくない。
もう、何も見たくない。
お れ は 、 め の ま え が ま っ く ら に な っ た 。
…………………
……………
………
————————————————————
『頑張れーー!!』
「—————ッ!!!」
き こ え た 。
声が、聞こえた。
蓮名と、想愛の、声が、聞こえた!!!
堪らず俯いていた顔を上げる。
すると一目で遠くにいるはずの蓮名と想愛の姿がハッキリと見えた。
というか蓮名と想愛しか見えなかった。
2人の周りにいる人達は俺の視界に入ってこなかった。
人混みが大嫌いなあの蓮名と想愛が………人が多く集まる応援席の最前列で俺を応援してくれている!
………蓮名と想愛が、俺の妹達が自ら苦手な場所に行ってまで俺を応援してくれているんだ。
それなのに………2人の兄であるこの俺が挫けてめげて諦めるわけにはいかねぇよなぁ……!!
「……ァ……ァァアアアアァアァァアアァァ!!!」
突然の雄叫びに洋がギョッとした顔で俺を見た………気がした。
本当かどうかはわからない。
だって、洋なんかの行動を確認している暇なんてなんからな。
集中しろ。
集中しろ……!
集中しろ!!
勝つ為にはどうすればいい?
1位になる為にはどうすればいい?
優勝する為にはどうすればいい?
蓮名と想愛に、2人にカッコイイ姿を見せる為にはどうすればいい!?
考えろ。
落ち着け。
考えろ……!
落ち着け。
考えろ!!
落ち着け。
体勢を立て直す事はもうできない。
転倒する事はもう避けられない。
しかし転倒してしまえば1位を取れないうえに2人の前で無様を晒す事になる。
それだけは絶対にダメだ。
………ならばどうする?
どうすればいい?
ならば、なれば、どうすれば—————
「—————あ」
思いついた。
そうか、
そうだ、
簡単なことだ。
そして俺は前へ進んだ。
足を、ではなく
身 体 の 重 心 を、前へ。
それでは余計に転けやすくなる?
そんな事はわかってる。
どうせ転倒する事は確定してるんだ。
それがほんの数秒早まっただけよ。
だから………残りの数秒で勝負をつける。
重心を前にし、極限まで身体を前に倒す。
重力に逆らわず、重力に従う事によって、俺の身体は下に、厳密には斜め前に勝手に進んで行く。
完全に倒れ切る前に脚を出し、俺の脚力と地球の力を借りて加速する。
地面を這うかのように加速し、走る。
側から見れば相当気持ち悪い走り方してるんだろうな。
正直言ってかなり無茶がある。
普段の俺なら転ける寸前まで倒した身体を維持するための強靭な体幹なんてない。
ただ火事場の馬鹿力で足の指が強化され、奇跡的に踏ん張れてるだけだ。
運が、奇跡が、実力が、そして何より双子が味方した。
だから………俺は……………勝つ!!!
「———ァ———ァア—————ァァア——アア!!!」
声が出ない。
声が出せない。
息ができない。
息をする余裕がない。
全力を、全神経を使って前に転けながら走る。
ゴールまであとほんのもう少し。
だけどそのほんのもう少しがとてつもなく遠く感じる。
………重力が重い。
無茶な体勢だからこそ今更ながらわかる。
地球の力とは………偉大で膨大で強大だ。
ちっぽけな1人の人間ごときがこの力を利用するなんて………なんておこがましすぎる事なのだろうか。
でもあと数秒だけこの身に余る力を借りさせてもらう。
地球の力を利用して、加速させてもらう。
自滅覚悟でないと使えないほどの強大な力だからこそ………利用できれば逆転できる!!
「—————ァ———ァア———ァ!!!」
「うぉおおぉぁぁあああああああァ!!!」
俺の声なき叫びと洋の雄叫びが運動場に響く。
あと少し
……あと少しで
………あともう少しでゴールできる!!!
そして—————
『ゴォォォォォオオオオオオォルゥゥ!!!優勝は———ッ!!』
—————決着が、着いた。
体育祭編は次で最後……にする予定!
ちなみに私はクラス対抗リレーにも出場したことあります
結果は4位から最下位になって次の走者へバトンパス
俺を追い抜いていった人達が全員陸上部だったから『まぁ仕方ないよな』的な感じでクラスメイト達から慰められたのが一番心にグサッときました
優しさって時には残酷




