氷山の流氷
祝・総合評価400突破!やったぜ!
やったぜ!!!
「徳永、お前は金輪際蓮名と想愛に近づくな。お前が居ると2人にストレスがたまる。2人が不幸になる。そんな事は俺が許さない。わかったな?じゃあな」
そう一気に言って部屋を出ようとした。
「ちょっと待て!!………待って、ください。納得、できません」
振り向かずに俺は答える。
「徳永、お前氷山の一角って言葉知ってるよな?」
「?…えぇ、はい」
「お前が昨日見知ったのはそれだ。…いや、一角なんかじゃあない。お前は氷山から流れ出た流氷を見てそれが氷山だと、重要な情報だと勘違いしているだけだ。実際には頑張れば誰でも見ることができる流氷にもかかわらずに」
「———なっ!?」
そう、頑張れば誰でもこの程度の情報を得る事ができる。
俺たちの登校風景、もしくは下校風景を見る。
または蓮名と想愛が友達と話している内容を盗み聞きする、などでな。
最近蓮名と想愛に俺たちの事を話せる友達ができたらしい。それは良い事なのだがこの双子は俺の事を少し…いやかなり過大評価して話しているらしく、少し気恥ずかしい。
「お前は今までは女の方から秘密を打ち明けられてきたんだろうな。でも蓮名と想愛は違う。そんな安くて薄い女じゃない」
徳永はムカつくことに顔が良い。そして多分性格も良いだろうから今までさぞモテたのだろう。惚れた女子は徳永と仲良くしたいが為に自分の情報を売った。自分の事を徳永に深く知ってもらおうとした…のだろう、知らんけど。
そのため、徳永は何もしなくても相手の深い情報を得る事ができた。だから今回も深い情報だと思ってしまった…のであれ。
これが俺のできる精一杯のフォローなのだから。
そうして俺は生徒会室を出た。
それにしても『おれが蓮名と想愛の事を詳しく知らない』か…そんなことあるはずがないのに。
この双子と一緒に過ごした時間だけでいえば俺はもう新斎義父さんや紅葉義母さんよりも長いのだ。
身長、体重、スリーサイズ、2人の違い、さらには銀行のパスワードや感度が高い部分まで完璧に把握している。
それに蓮名と想愛は俺に対して嘘をつけない。ついてもすぐにわかってしまう。家族だから。
だが言い換えれば俺も蓮名と想愛に対して嘘をつけない。つまり俺たちはいつも本音で語り合っているというわけだ。
俺は蓮名の事は想愛より、想愛の事は蓮名よりわかっているつもりだ。
つまり、俺は世界で一番篠宮蓮名、篠宮想愛の2人をわかっている。
「………」
いややっぱり双子同士の方が分かり合えてるかなぁ…。
・・・・・・・・・・・・・・・
(蓮名side)
「それじゃ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい、お兄ちゃん(お兄様)!」」
……………
あぁ…行っちゃった…。私の、私たちだけのお兄ちゃんなのに…。
私たちの至福の時間を減らし、私たちを引き裂いた輩…確か徳永って言ったっけ…は許さない…絶対に許さない…いつか地獄を見せてやる…。
私も想愛も本当は『行ってらっしゃい』なんて言いたくなかった。行ってほしくなかった。ずっと私たちの側に居て、今すぐ3人で家に帰りたかった。
お兄ちゃんは私のすべてをわかってくれている。
だから私と想愛の本音もわかっている。だからすぐに帰ってきてくれる。
だけど私も、想愛も、少しでもお兄ちゃんと離れたくなかった。お兄ちゃんのことが好きだから、お兄ちゃんのことを愛しているから側に居たい。離れたくない。ずっと、一生、永遠に、一瞬たりとも離れない。
「くっ…!」
それなのにあの男のせいで…!
…いや、もうやめておこう。これ以上男のことを考えたくない。
私たちはお兄ちゃんのことだけを想っていればいい。
(想愛side)
「くっ…!」
蓮名が憎しみのこもった目をしている。
そして私もたぶん同じ目をしているだろう。
あの男は許さない、けど男のことを考えたくない。そんな葛藤に悩まされているのだ。
「なぁ篠宮姉妹」
「「はい?」」
そんな時巣鴨先生に声をかけられた。そして返事をした。そしたら蓮名と声がハモった。けどもう慣れた。
私と蓮名は一心同体。
同じ遺伝子を持ち、同じ人の妹で、同じ人を好きになり、同じ人を主とし、同じ人を愛している。
これらは一生変わることはない。
「天陵はさっき学校デートは『ほとんど』したことないと言ったが…一回はしたのか?」
「「はい!」」
私たちは誇らしく答えた。
「…誇らしげな返事だな。学校デートは嫌いではなかったのか?」
「はい嫌いですよ。有象無象どもに幸せそうな笑顔を撒き散らす女はいろんな男に媚びを売っているのかと疑ってしまいます」
「けど私たちのあの一回はお兄ちゃんが私たちの為を想っての行動だから!」
私たちの笑顔はお兄様だけのものだ。家族以外の人たちには見せない、見せたくない、絶対に。
私と蓮名は笑顔も心も体も純潔も、すべてをお兄様に捧げているのだから。
(巣鴨side)
初めて会った時から思っている事だが篠宮姉妹は狂っている。
今もちょっとした嫌味を込めて「学校デートをしたのか?」と聞いたのに2人は誇らしげな声で「はい!」と言ってきた。どういうこっちゃ。
その後も篠宮姉妹とたわいもない話をした。
と言ってもこの双子が話す内容は全部天陵を褒め称えるものばかり。
篠宮姉妹は天陵に対してもはや心酔を通り越して信仰、宗教の領域まで達している気がする。
ちなみに学校デートをした理由は『天陵が中学校を卒業しても2人が寂しくならないように思い出作り』だった。
…まぁ確かに天陵が卒業してから篠宮姉妹は去年も今年もどこか魂の抜けたような感じがしているしな。
今日みたいな生き生きとした篠宮姉妹は久々に見た気がする。
この双子にとって天陵は魂なんだろうか?ありえそうなのが少し怖い。
・・・・・・・・・・・・・・・
生徒会室から出るとそこには恍惚とした表情の双子と魂をすり減らしたような顔の巣鴨先生がいた。
とりあえず一言。
「蓮名、想愛、待たせてごめんな?………それと巣鴨先生、どうしたんですか?」
「あぁ…天陵か…。こいつら徳永が大声で何かを言った瞬間に凶器を持って部屋に突入しようとしたんだよ….。止めるのが大変だった…」
大声?…あぁ、徳永が俺に蓮名と想愛をちゃんと理解しろって言った時の事か。
3人とも部屋のすぐ外に居たもんな。そりゃあ大きな声は聞こえてくるな。
「篠宮姉は筆箱からハサミを出すし篠宮妹はソーイングセットから針を出すし…」
「それは…お疲れ様でした」
先生の苦労はわかる、けどそれ以上に蓮名と想愛の気持ちもわかるから謝らない。
もしも俺が聞いている方だったら俺はコンバットナイフを持って突入しかねないから。
それと関係ないけど巣鴨先生は蓮名のことを篠宮姉、想愛のことを篠宮妹と呼んでいる。
ぜひその呼び方が学校中に広まって欲しい。
男どもが蓮名と想愛を名前で呼んでいるのを聞くと殺意が湧いてくるからな。
「それでは巣鴨先生さようなら。さぁ蓮名、想愛、帰るぞ」
「「はいっ!」」
元気よく返事する妹達。徳永との会話を聞いていたからであろうか、2人は恍惚とした表情をしている。
しかし、俺にはその表情に若干憂いの色が見えた。
俺と徳永の会話を聞いていたという事は、おれが彼女の名前を口にしたのも聞いていたという事だ。
2人は彼女のことを思い出したのだろう。
「……………」
蓮名と想愛はどんな表情でも可愛いけど…やはり憂いを帯びた表情はあまり似合わない。
この2人には笑顔が一番似合っている。
これから先、ずっと蓮名と想愛が笑顔でいられるようにする。それが俺の役目であり、使命だ。
俺は今日、その事をあらためて深く心に刻んだ。
アイマス10thライブのDVDを観たけど…あれは感動した。泣いた。




