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第4話 ゲロゲロ

第4話 ゲロゲロ


 あたり一面、石の壁である。出口は遥か頭上の青空のみ。井の中の蛙とは、この様な景色の中を悠々と生きていたのだなと、俺感心。


「さてと、どうしたもんかね」


 俺が町で醜態をさらした後、兵隊に城へと連行された。そして、直ぐに井戸の様な形をした牢屋へと放り投げられた。高さは10メートルくらいはあるだろうか? 自力でよじ登るのは不可能であろう。脱出するためには誰かの助けがいる。


「まぁ、そのうち出してもらえるだろう。それまで気長に待とう」


 俺はそのように考え、気長に待つことにした。しかし、俺の認識はたいへん甘かった。





「ヴーーー、ヴーーーー、ヴーーーー」


 投獄されてから、はやくも10日が経過した。さすがに、途中で食物の配給があると期待していたが、甘かった。そんなものはなかった。


 投獄されてから5日を過ぎたころ、俺の腹は極度の空腹で「ヴーーー」という奇怪な音を出すようになった。人体の神秘とは誠に不思議である。まさか人間に、こんな音を出せる機能があったとは。あまりにも裕福過ぎた現代日本では、けして知ることのできなかったことである。異世界に来たからこそ、知ることができた。これは誠に貴重な体験である、と同時にこう思う、「こんな機能、知らずに死にたかった」と。

 

 投獄されてから7日を過ぎたころ、さすがに死を覚悟した。ひどい、ひどすぎる! と神を呪った。俺が何をしたって言うんだ? 彼女に振られ、異世界に飛ばされ、ドラゴンにしゃぶしゃぶされ、衣服を燃やされ、裸で公然の前に晒され、あげく井の中の蛙にされ、干からびたカエルの様に今、死のうとしている。こんな悲惨な死に方がこの世に存在して良いものかぁ! くそ、もとはと言えば彼女が俺を振ったのがいけないんだ。ワロリンヌなんていうネットスラングを使ったくらいで別れるなんて、あたまおかしいんじゃないのか? くそ! くそ! くそ…………。

 そこで、考えるのをやめた。考えれば考えるほど、胸が苦しくなったから。彼女のことを憎めば憎むほど、彼女のことがまだ大好きだということに、気付かされるから。


 あー、失恋は辛い。もう、このまま死んでしまうのもいいかもしれん。そう思ったのは、投獄されてから10日後のこと。そして、ようやく助け船がやってきたのも、その時だった。


「おい! 大丈夫か?」


 上空からロープが降りて来た。俺はそのロープを掴もうとしたが、餓死寸前の体は全く力が入らず、うまく掴めなかった。


「うぅうう……た、たすけ、てぇ」


 声を出すのがやっとだった。


「おい、生きてるか?」


 ロープをつたって、一人の青年がやって来た。牢獄の中は暗かったので、顔は良く見えなかったが、青年の髪は深緑色をしていて、とても特徴的だった。


「これを飲め、水だ」


青年は俺に水を差しだした。俺はまるでバキュームの様に、ものすごい勢いで水を吸収した。


「ぷはぁ、生き返る! ゲロゲロ!」


 久しぶりの水分に歓喜した俺は、思わず封印していた48の個性的ワードを口に出してしまった。この個性的ワードは非常に良くできたワードであり、生き返るの”返る”と”カエル”がかかっているのだ。どうだ! すごいだろ?


「ゲロゲロ!?」


 何故か俺を助けてくれた青年は、”ゲロゲロ”という言葉に食いついた。


「ま、まさかあんた、カエル族の人間か?」


「ん?」


 カエル族? 何を言っているんだこの青年は? 俺がそう思った時、急に気もち悪くなった。からっぽの胃に急に水を入れたから、胃がビックリしたのだ。


「う、ゲロゲロゲロゲロ!」


 俺は思わずゲロを吐いた。安心してほしい、ゲロと言ってもほぼ水だ。なんせ俺は10日間、何も食べていなかったのだから。


「やっぱり、あんたカエル族の人だな。まさかこんな所でカエル族の人間と巡り合えるとは、これも運命だろう」


「侵入者はどこだ!」


「探せ探せ!」


 突如、上空から声が聞こえた。足音も聞こえる。どうやら近くに兵士が何人かいるようだ。


「マズイ、もう追手が来たか。あんた、これを」


 そう言うと、青年は小袋を俺に差し出した。


「これは?」


「とりあえず、今は時間がない。これを持っていてくれ。俺の名前は『マコリ』だ。またあとで会おう」


 そう言うと、マコリと名乗る青年は、ロープを伝って牢獄から出ていった。


「いたぞ! 追え、追えぇ~」


「ん? おい、牢獄に誰かいるぞ」


「え? 今牢獄には誰もいないはずじゃ……あ! わ、忘れててたぁ! 町でひっ捕らえた変態ドラゴンがいたんだ。もう死んでるかな?」


 どうやら、俺は完全に忘れ去られていたようだ。


「おーい、生きてますよ」


 とりあえず、俺は兵士に向かって笑顔で手を振った。


「よかった。まだ生きていた。今出してやるからな。待ってろよ」


 兵士の一人がロープを下ろしてくれた。助かった。……というか、俺は”変態ドラゴン”と呼ばれているのか。全く、不名誉だ。

 俺はそんなことを考えながら、ロープを掴んだ。ちなみに、俺は今あいかわらずの全裸である。作者よ、はやく服を着させてくれ。

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