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第3話 封印されし悪魔の言語

第3話 封印されし悪魔の言語


「あい、わかった。とりあえず、お前を医者に連れていくことにした。お前を食べるのはそれからにする」


 親切なドラゴンはそう言うと、全裸の俺を鷲掴み、翼をバタつかせ飛翔した。ドラゴンの2本の指は俺の首を挟み、さらに残りの2本指は俺の両腕の下らへんに来ていた。俺はまるではりつけにされたキリストの様な格好で固定され、町まで運ばれた。


 ちなみに言っておくが、俺は今、全裸である。


 空にはちょうど朝日が昇っていて、俺の後ろから光が差していた。



 我々が町に着くと、辺りは騒然とした。



「なんだあれは?」


「あ、あれはまさか」


「そうだ、あれは”救世主”だ! 代々言い伝えられている救世主様だ」


「”その者は、巨大なドラゴンにまたがり、後光に包まれ、生まれながらの姿で現れる。そして、その説法で民の心を救い、その右手で災厄を薙ぎ払い、その左手で豊穣の大地を創り、その両足で陰部を隠す”」


「まさに伝説通りだ!」




 ……なんてことにはならないのが、現実である。




「キャー! 全裸の変態!」


「気持ち悪い」


「ママー、あれなに?」

「見ちゃダメ! あれは見ちゃダメなものよ!」


 我々が町に着くと、辺りは騒然とした。耳に聞こえるのは罵声と悲鳴ばかりである。

 俺は陰部を隠そうと、必死に両足をクネクネさせた。両腕はドラゴンに固定されているので、使えない。何とか足を使って陰部を隠さなければ、俺は人間としての尊厳を失ってしまう。


「あれはまさか、マンドラゴラじゃないか?」


「間違いない、足をクネクネさせて踊っている!」


「みんな耳を塞げ! あいつの悲鳴を聞くと、死んでしまうぞ!」


 突然、町民が耳を塞ぎ始めた。


「みなさん、違うんです。俺は変態ではないんです。ドラゴンに食べられそうになっているんです。助けてください」


 俺は必死に身の潔白を主張した。しかし、町民は皆耳を塞いでいるので、俺の主張は全く聞こえていないようだった。



「あっちいけ! この悪魔の植物!」


「近寄るな!」


「ぶっ殺す!」


 町民の目は何故か怒気をはらんでいて、こちらを睨みつけている。そして、石を投げつけて来た。


「痛い! やめてください。俺は人間です。やめてください!」


 俺は必死に無実を叫んだ。足をクネクネさせながら、必死に主張した。しかし、飛んでくる石の量と勢いはどんどん増えていくばかり。


「え!?」


 次の瞬間、俺は突如として上空に放り投げられた。


「お前のせいで、石ぶつけられて、痛い」


 ドラゴンは自分にも石をぶつけられたのが嫌だったらしく、俺を放り投げたのだ。


「うぐぅ」


 上空から地面にたたきつけられる俺。衝撃と痛みが体を襲う。自由になった両腕で直ぐに陰部を隠す。周りを町民に囲まれる。痛みと羞恥心が体を襲う。


「この化け物!」


「殺してやる」


「子供にトラウマ植えつけやがって! 許さない」


 あれ、これはまさか、ピンチではないだろうか?


「ちょっと待ってください! 俺は人間です!」


 町民の目は血走っていて、俺の言葉は全く届いていないようだった。それでも俺は、両手で陰部を隠しながら、必死に弁明した。


「武器持って来たぞ、みんな持て」


「構えろ!」


「一斉に襲い掛かるぞ!」


 町民は鍬やこん棒を持ってきて、武装し、完全に俺を殺す気だった。


「ちょ、ちょまちょま、ちょまちょごり!」


 焦った俺は、「ちょまちょまちょまちょごり」という、封印していた”48の個性的ワード”を思わず口に出してしまった。

 実は、俺は彼女と付き合うにあたり、絶対に口にしないと決めた”48の個性的ワード”というものを決めていた。このワード達はあまりにも個性的すぎるため、口にしたら絶対に嫌われると思い、心の奥に封印していたのだ。

 それが今、思わず出てしまった。


「ちょまちょごり?」


 今にも俺に襲い掛かりそうだった町民たちは、何故か「ちょまちょごり」というワードに食いつき、動きを止めた。


「おい、お前なんだその、”ちょまちょごり”って。どういう意味だ?」


「いや、大した意味はないんですけど。ただ語感が良いというか、語呂がいいというか。もとは朝鮮地方の民族衣装のことなんですけど」


「衣装? それはどんな衣装なんだ?」


 町民はやけに食いついてきた。


「いや、俺も詳しくは知らないんですけど。何か光沢のある生地を使った、袈裟みたいなデザインの服でして」


「それは、どんな色をしているんだ?」


「色は赤とか青とかいろいろあるみたいです」


 こんな感じで、何故かチマチョゴリに関する問答が続いた。




「おい、お前たちどけ」


 数分後、鎧で武装した兵隊がやって来た。


「こいつがドラゴンに運ばれてきたという人間か、城まで連れていけ」


 そして、中でも一番偉そうな金髪の男が指示を出し、俺を拘束した。俺は両腕を抱えられ、引きずられる様に連れていかれた。


「お願いですから、股間を隠させてください」


 両腕を抑えられた俺の陰部は今、あまりにも無防備だった。


「うるさい、黙れ」


 金髪の男は俺を一喝すると、馬に乗り、隊の先頭を走りだした。


 俺は再び足をクネクネさせながら、必死に陰部を隠した。



~用語解説~

『ちょまちょまちょまちょごり』


 「ちょまちょまちょまちょごり」とは、「ちょっと待って」という意味の言葉である。

 口にするときのポイントとしては、「ちょまちょま」で一呼吸おいてから「ちょまちょごり」と言うことである。そうすることで、小気味よいリズムが生まれ、より一層言葉の深みが増すことだろう。


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